1:1 10:1切り替えプローブの使い分け

高帯域オシロスコープにはプローブは付属しませんが、ほとんどのオシロスコープには減衰比10:1のパッシブ・プローブが付属されます。

一部の機種では減衰比1:1と10:1の切り替えができるプローブが付属している場合もあり、またこれを別売品として用意するメーカーもあります。では、減衰比1:1はどのような場合に有効なのでしょうか。

写真1は感度切り替えプローブの例です。プローブ先端部に感度切り替えのスライド・スイッチが設けられています。

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写真1 感度切り替えプローブの例

この二つのプローブの主な性能は表1のとおりです。

この表から、減衰比1:1(1X)では

● 周波数帯域が低い

● 入力容量が大きい

ことが読み取れます。

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表1 感度切り替えプローブの主な性能比較(メーカーのデータシートより作成)

この性能差は何に起因するのでしょうか。図1は感度切り替えプローブの原理図です。

減衰比10:1プローブの原理は以前に解説しましたが、感度を落としてでもプローブ先端から見た入力容量を減らし入抵抗を大きくして、測定したい回路に加わる負荷をできる限り低下させることが目的です。

感度切り替えプローブでは図1のように先端部に設けられたスイッチで先端部の抵抗、コンデンサをキャンセルします 。

これによりプローブは単なる同軸ケーブル同様になり、入力容量は「同軸ケーブルの浮遊容量+オシロスコープの入力容量」がダイレクトに効いてきます。

 

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図1 感度切り替えプローブの基本原理

ところで、表1に補正範囲という項目があります。

これは減衰比10:1で必須の補正作業を行う際の、組み合わせるオシロスコープの入力容量を示します。

表2は代表的なオシロスコープの入力抵抗と入力容量です。

入力抵抗は押しなべて1MΩ、入力容量はメーカー、型名により異なります。

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表2 代表的なオシロスコープの入力インピーダンス

表1、2よりテクトロニクスのMDO4000Cシリーズ(入力容量:13pF)には旧製品P2200(補正範囲15~25pF)は組み合わせできないことが分かります。

従来のオシロスコープの入力容量は現在よりも大きく20pF以上が多かったのですが、今では低下傾向にあります。現状に対応するために現行製品に切り替わったと思われます。

オシロスコープの入力容量と周波数帯域の考察

プローブに限らず、周波数帯域は出力インピーダンス25Ωの信号源にて規定されています。

出力インピーダンス25Ωとは、図2のように出力インピーダンス50Ωの信号源(パルス・ジェネレータ/シグナル・ジェネレータ)を50Ωで終端することです。

電圧源のインピーダンスはゼロなので、出力端から見たインピーダンスは25Ωになります。

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図2 周波数帯域の評価方法

図2において出力端に何も接続しない場合には、正しいレベルで信号が現れるはずです。

しかし、プローブを接続すると、図3のようにプローブの入力インピーダンスが終端抵抗と並列になります。

これにより出力レベル、周波数帯域は低下します。

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図3 プローブの負荷効果の影響

図4は減衰比10:1を想定し、周波数帯域が無限大、入力抵抗10MΩ、入力容量18pFのプローブを接続した場合の周波数特性のシミュレーション結果です。

入力抵抗10MΩは終端抵抗50Ωに比べて十分に大きいためほとんど影響はありませんが、入力容量により周波数帯域は345MHzに低下します。

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図4 減衰比10:1プローブの負荷効果と周波数帯域

図5は減衰比1:1を想定し、周波数帯域が無限大、入力抵抗1MΩ、入力容量75pFのプローブを接続した場合の周波数特性のシミュレーション結果です。

入力容量により周波数帯域は83MHzに低下します。

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図5 減衰比1:1プローブの負荷効果と周波数帯域

実際のプローブ/オシロスコープを使用して検証してみましょう。

図6はあるFPGAの信号(10MHz)をCH1に接続した減衰比10:1プローブにて観測した例です。

実際には本当の信号の姿ではなく、プローブ負荷の影響(プローブの負荷効果)を受けた状態です。

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図6 減衰比10:1プローブでの測定例

図7は信号の同じ個所にCH2に接続した別のプローブにて観測した例です。

CH1、CH2ともに同じ信号が表示されるのは当然ですが、図7と比べると負荷効果が大きく(2倍)になることが分かります。

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図7 減衰比10:1プローブの負荷効果を2倍にした場合

ここでCH2のプローブの減衰比を1:1に変更すると、観測される波形は図8のように大きく変化します。

75pFの入力容量により波形は大きく歪みます。

CH1では主にCH2の入力容量を受けた結果、厳密にはCH1の入力容量の影響も加わった波形が表示されています。

CH2ではさらに低下した周波数帯域の影響も加わっています。

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図8 減衰比1:1プローブの負荷効果

このように、通常のデジタル信号の観測には減衰1:1は使えません。

減衰比1:1が有効なケース

減衰比1:1の特徴を活かすには

● 大きな入力容量の影響を少なくするためにソース・インピーダンスが小さいこと

●信号の周波数数が低いこと

●信号の振幅が小さいこと

が必要です。

例えば、電源回路の商用電源由来のノイズ(リップル)の測定です。

図9は減衰比10:1にて観測したUSB充電器の低周波リップルです。

スイッチングノイズ波形を除去するためにトリガ源はAC電源、アベレージ取り込みを使用します。

電圧感度はオシロスコープの最高感度2mV/divにて20mV/divですが、わずかなリップルの存在は確認できるものの振幅を確認することは困難です。

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図9 減衰比10:1プローブで測定した電源リップル

図10は減衰比1:1の場合です。

電圧感度は2mV/div、約1mVppの商用電源由来のノイズを確認できます。

周波数は100Hz、50Hzの商用電源を両波整流した結果です。

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図10 減衰比1:1プローブで測定した電源リップル

電源リップル以外にオーディオ信号の観測も可能と思われます。

せっかくの感度切り替えですから、測定対象により有効的に切り替えて使うことをお勧めします。

ただし、気が付ないうちにスライド・スイッチが切り替わっていることがなきにしもあらず、気を付けて使用しましょう。