オシロスコープの性能_有効ビットとノイズ

電気の動きを目でとらえることのできるオシロスコープは、エレクトロニクス・エンジニアのマザーツールです。

オシロスコープは、登場した当初から「波形観測」を主な目的としています。

観測できる信号の周波数上限を高めるために周波数帯域は進化してきましたが、その確度はほかの計測器と比べて高いものではありません。

オシロスコープは時間VS電圧を表示するわけですが、ブラウン管で波形表示を行うアナログ・オシロスコープからデジタル・オシロスコープに変わっても電圧確度は大きな進歩はありません。

同じくマザーツールであるデジタル・マルチメータでは、安価な製品でも電圧確度が0.1%以下、桁数の多いベンチトップ・タイプでは0.01%以下が得られますが、オシロスコープでは1~2%です。

しかもこの電圧確度は直流での話です。

周波数帯域の低い一部の計測器、例えばFFTアナライザでは周波数特性の平坦さ、高調波歪というアナログ性能が規定されていますが、本来電圧変化を観測するオシロスコープでは交流確度のデータシートへの記載はありません。

図1はデジタル・オシロスコープの心臓部である波形データ取り込み部の構成です。

ここに示されるようないろいろな誤差要因があります。

image-20260331103213321.png

図1 デジタル・オシロスコープの構造と誤差要因

オシロスコープの電圧測定レンジは、mVから数10Vまで大きく変化します。

一方、A/D変換器の入力レンジは決まっています。

信号振幅を調整するためアナログ部がありますが、以下の制限があります。

● 周波数帯域の制限

増幅器は直流から増幅しますが周波数の上昇により増幅度が低下、いわゆる周波数帯域が存在します。

周波数帯域が数GHzまでの汎用オシロスコープでは、ガウシャン特性に近似した周波数特性を持つため、図2のように周波数帯域の30%で振幅は約3%低下、周波数帯域では30%低下します。

一方、主に高速シリアル信号のコンプライアンス・テストに使用される周波数帯域の高い高速オシロスコープでは、パルス形状の再現性を重視するし、周波数帯域近傍まで平坦な周波数特性を持ちます。

●ゲイン誤差

前述のようにオシロスコープの電圧確度は直流で規定されています。

交流では分かりません。

●オフセット誤差

入力がゼロボルトであっても、波形データがゼロになるとは限らず、誤差が生じることがあります。

● リニアリティ

増幅器の増幅度は一定が理想ですが、小振幅入力と大振幅入力では微妙に増幅度が変化します。

●増幅器で発生するノイズ

信号に含まれるノイズを測定するためには、計測器内部で発生するノイズはゼロが理想ですが、実際にはゼロ入力時においてもノイズが確認されます。

image-20260331103345666.png

図2 オシロスコープのタイプによる周波数特性の違い

●デジタル部の誤差について

デジタル部においては、A/D変換器に起因する誤差が生じます。

理想的な4ビットのA/D変換器動作を図3に示します。

横軸は入力電圧、縦軸はデジタル出力です。

4ビットなので16分解能になります。

入力電圧(あくまでも直流電圧)をフルケールの1/16ずつ大きくした場合、青色の階段になります。

image-20260331103409254.png

図3 理想4ビットA/D変換器の動作

変換誤差

この理想動作においては図4のように誤差は±0.5LSBに収まります。

image-20260331103505791.png

図4 理想4ビットA/D変換器の変換誤差

●オフセット誤差

A/D変換器においてもさまざまな誤差が発生します。

図5はオフセット誤差の例です。

本来入力フルスケールの1/16毎にデジタルデータは変化するはずですが、誤差(オフセット誤差)が生じています。

image-20260331103625545.png

図5 実際のA/D変換器におけるオフセット誤差

● ゲイン誤差

図6はゲイン誤差の例です。

image-20260331103645635.png

図6 実際のA/D変換器におけるゲイン誤差

●微分非直線性誤差(DNL)

非直線性の問題があります。

図7のように入力電圧に対応したデジタル出力が出力されません。

image-20260331103727279.png

図7 実際のA/D変換器における微分非直線性誤差

●積分非直線性誤差(INL)

もう一つの問題は理想の変換に対する直線性のずれの最大値を示すINLです。

 image-20260331103827132.png

図8 実際のA/D変換器における積分非直線性誤差

オフセット誤差、ゲイン誤差に関してはシステム全体で補正することが可能ですが、DNL、INLに関しては補正することは容易ではありません。

このようにアナログ部、デジタル部両方に誤差要因があります。

このため市販のオシロスコープではトータルでの誤差を含めた性能が規定されています。

写真1は代表的な汎用オシロスコープの例です。

両機種を例に性能表示を後述します。

image-20260331103907873.png

写真1 代表的なオシロスコープ

ノイズ性能について

ノイズは図9のように表示されますが、オシロスコープの無信号時のノイズは実効値で規定されています。

ノイズはガウシャン分布に近似した分布をするため、実用的にはピーク・ピーク値は実効値の5倍程度になります。

image-20260331103927052.png

図9 オシロスコープの無信号時のノイズ

図10はキーサイト・テクノロジー MXRシリーズの、図11はテクトロニクス MSO6Bシリーズのノイズ性能です。

ノイズは周波数帯域制限周波数が低いほど低減します。

また、電圧感度設定にも依存します。

このことから、ノイズを低減するためには計測に必要な周波数帯域を選択することが必要なことが分かります。

image-20260331103940856.png

図10 キーサイト・テクノロジー MXRシリーズのノイズ (データシートより作成)

image-20260331103953898.png

図11 テクトロニクス MSO6Bシリーズのノイズ (データシートより作成)

A/D変換器に関しては、時間軸方向の誤差も考えなければなりません。

サンプル周波数の確度は時間軸の確度に直結しますが、一般には問題になるようなサンプル周波数の偏差は僅少と考えられます。

しかし、サンプル間隔は一定でなければなりませんが、実際には図12に示すようなサンプル・ポイントのずれ、ジッタがあり、この影響による誤差はサンプル周波数が高くなるほど大きくなります。

image-20260331104007712.png

図12 サンプリングにおけるジッタ

このようにアナログ部、デジタル部両方に誤差要因があり、トータルでの性能評価をする必要があることから、有効ビットという考え方が用いられます。

有効ビットとは、入力周波数を変えた場合にどの程度の電圧分解能があるのかを示したものです。

図13は周波数10MHzでの有効ビットの測定方法です。

信号発生器からの入力信号に含まれるノイズを低減するために、10MHzのみを通すバンドバス・フィルタを使用し、できるだけ信号のみをオシロスコープに入力します。

デジタル化したデータを解析することで得られる電圧分解能を算出します。

image-20260331104027456.png

図13 有効ビットの測定手法例

図14はキーサイト・テクノロジーのMXRシリーズと、テクトロニクスのMSO6Bシリーズの有効ビットです

周波数の上昇に伴う有効ビットの低下はどの製品でも起こります。

image-20260331104044491.png

図14 キーサイト・テクノロジー MXRシリーズ、テクトロニクス MSO6Bシリーズの有効ビット (データシートより作成)

図10、11のノイズ性能、図14の有効ビット性能を見ると製品の志向がうかがえます。

キーサイト・テクノロジーはいかに高周波領域でのノイズを低減するか、テクトロニクスは広い周波数範囲での電圧分解能を確保するのかが分かります。

このように、データシートからは各製品の持つ性格が垣間見えると思います。