実験ベンチには多くの計測器が並びます。
汎用の計測器として直流電源、デジタル・マルチメータ、周波数カウンタ、オシロスコープ、スペクトラム・アナライザなどさらにアプリケーションに特化した専用の計測器が加わります。
できればこれらの計測器をコンパクトに収めたいという要求に答えるためか、多くの汎用オシロスコープではオプションでファンクション・ジェネレータやデジタル・マルチメータを組み込むことができるようになっています。
表1はファンクション・ジェネレータを内蔵できる代表的な汎用オシロスコープの例です。
350MHz~1.5GHzの周波数帯域に合わせて、その4~5倍程度の最高サンプル・レートを有しています。
これは内蔵されているA/D変換器の性能です。
これにより1回限りの単発取り込みであってもエイリアスの発生を抑えた波形取り込みが可能になっています。
一方、ファンクション・ジェネレータの性能を決定するD/A変換器の最高サンプル・レートは100~250MS/sと1桁遅くなっています。
このため扱える周波数には自ずと制限が生じます。

表1 代表的なファンクション・ジェネレータ機能を内蔵できるオシロスコープ
図1はファンクション・ジェネレータ内蔵のオシロスコープの構造です。
オシロスコープ機能とファンクション・ジェネレータ機能は独立していることが分かります。

図1 ファンクション・ジェネレータ機能内蔵のオシロスコープの構造
ファンクション・ジェネレータはいろいろな形状の波形を発生できますが、その中に「任意波形」があります。
オシロスコープの動作とは逆で、波形データをA/D変換し、任意のアナログ信号を出力できます。
波形データとしてはファンクション・ジェネレータのエディタや外部で作成したCSVファイルなどが使用できますが、オシロスコープで取り込んだ波形をファイル渡しで再生することも可能です。
これによりオシロスコープで取り込まれた波形を再利用することが可能になります。
一部の製品では図2のように、メニュー操作でオシロスコープの波形データをファンクション・ジェネレータの波形メモリにダイレクトに転送可能です。

図2 ワンタッチで波形データを転送
図3はオシロスコープで取り込んだ単発波形です。
サンプル・レートは1MS/s、波形記録長は10kポイントです。

図3 オシロスコープで取り込んだ単発波形
図4では比較のため取り込んだ波形データを1目盛り分下方にオフセットし、リファレンス波形(赤)として表示しています。
そして、ファンクション・ジェネレータのメモリに波形データと取り込み設定を転送しています。

図4 比較のためのリファレンス波形(元波形)と波形データの転送
図5はファンクション・ジェネレータで再生した波形(黄)と最初に取り込まれた波形(赤)です。
再度取り込みではファンクション・ジェネレータおよびオシロスコープの増幅器で発生するノイズによる差異がわずかにありますが、ほぼ信号が再生されていることが分かります。

図5 オシロスコープで取り込んだ元波形とファンクション・ジェネレータ機能で再現した波形の比較
この例では問題なく動作していますが、以下の制限が生じることが想像できます。
●ファンクション・ジェネレータの最高サンプル・レートがオシロスコープより速くなる場合の懸念
●オシロスコープはプローブを併用することでmVオーダーからkVオーダーの信号まで取り込みできるが、ファンクション・ジェネレータの出力は数Vに限られる
●オシロスコープの波形メモリは数Mポイントまで使用可能であるが、ファンクション・ジェネレータのそれは長くても128kポイントになる
ここでは筆者手持ちのオシロスコープにて注意事項を検証してみます。
図6は実験の設定です。
1. ファンクション・ジェネレータの出力をオシロスコープのCH1に取り込み
2. CH1に取り込んだ波形データをファンクション・ジェネレータの波形メモリにロード
3. ファンクション・ジェネレータで再生された波形を再度オシロスコープで取り込み再現性を確認

図6 波形再現性の実験
ここでは信号源としてファンクション・ジェネレータに内蔵されたSin X/Xを使用しました。
Sin X/Xは直流からナイキスト周波数までフラットな周波数特性を持つ波形で、FFT解析を使い周波数特性を簡単に確認できる特徴があります。
(以下次回に続く)