大電力スイッチング回路の測定 -1

スイッチング回路は身の回りの多くの製品で使われています。

小電力ではイヤホンを駆動するオーディオアンプ、USB充電アダプタ、各種装置内部の電源、洗濯機、冷蔵庫、エアコンのモーターを駆動するインバータ、主流になりつつある電気駆動を利用した自動車、EV用充電装置、大電力では以前より電車が挙げられます。

大電力スイッチング回路の測定では多くの場合、グラウンドから浮いた電圧を測定しなければなりません。

図1はエアコン、冷蔵庫、自動車駆動で使用される三相モーターを駆動するインバータの例です。

ハイサイドのトランジスタのエミッタは、+Vccとグラウンド・レベル付近の電圧で振れています。

このためプローブのグラウンドをエミッタに接続することはできません。

オシロスコープの入力端子のグラウンド側は筐体に接続されているため、エミッタ電圧はダイレクトに筐体に現れます。

また、オシロスコープの筐体は電源ケーブルを通じて商用電源のグラウンドにつながっています。

このためグラウンド線を接続した瞬間に電源のブレーカーが落ちるなどのトラブルが発生します。

仮に電源プラグに取り付ける3ピン-2ピンアダプタを併用してグラウンドを浮かせたとしても、オシロスコープの筐体に触れると感電事故に、またオシロスコープの電源部が焼損する危険性があります。

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図1 そのままでは絶縁測定ができないオシロスコープ

 このため、安全な計測を実現するには図2のように高電圧差動プローブを使用します。

これにより最大対地電圧、最大差動電圧の範囲であれば計測可能になります。

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図2 高電圧差動プローブによる測定

高電圧測定における問題

高電圧差動プローブは決して絶縁プローブではないことを理解しましょう。

高電圧差動プローブの内部構造は、図3のように減衰比の大きなアッテネータと差動増幅器を組み合わせた形になっています。

プラス側、マイナス側アッテネータの特性は極力同じになるように作ります。

抵抗値を厳密にそろえることで、直流/低周波においてはほぼ理想的な差動動作が行なえますが、周波数の上昇に伴い減衰特性にずれが生じる、また差動増幅器の動作も理想から外れることにより動作が不正確になります。

差動ですからプラス入力、マイナス入力に同じ信号が入力された場合、出力には何も現れないはずですが、そうではなくなります。

これは同相成分除去比(CMRR)という性能で、データシートの記載を見ると、

周波数帯域が100MHzの製品でも同相信号の周波数が高い場合は注意が必要なことが分かります。

例えば、ハイサイドIGBTのゲート・ソース間電圧測定を考えると、ゲートとソースには大きく振れるソース電圧が同相信号として存在します。

つまり、高電圧差動プローブでゲート・ソース間電圧波形を観測する場合、スイッチング速度が速い場合はエッジ部分の再現性が困難になる可能性があります。

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図3 高電圧差動プローブの構造

電流測定における問題

回路を切断することなく電流計測ができるクランプ型電流プローブは広く使われてきました。

図4のように、クランプするだけでハイサイドの出力電流を測定できますが、高電圧回路の場合はプローブの耐圧が問題になります。

数10A程度の小電流向けプローブでは、例えばテクトロニクスの電流プローブ TCP312A(30A)、TCP305A(50A)が考えられます。

しかしクランプする線が裸線の場合、最大線電圧は150Vrmsに制限されます。

被覆線の場合では300Vrmsです。

大電流向けの電流プローブ(TCP303、TCP404XL)でも被覆線で600Vrmsです。

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図4 電流プローブにおける対対地電圧の制限

また、大電流の計測ではプローブの物理的サイズが大きくなります。

図5のようにクランプ部分を通すリード線は最短でも10cm近くは必要になります。

リード線は1m当たり約1μHの寄生インダクタンスがあるため、10cmでは0.1μHの余分なインダクタンスが回路に挿入されてしまうことも問題です。

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図5 大電流対応のプローブの物理的サイズの問題

物理的サイズの問題を解決するロゴスキーコイル

クランプ型電流プローブはコアを持つトランスとホール素子の組み合わせであるため、電流容量を大きくするにはセンサのサイズが大きくなります。

またコアの飽和による最大電流の制限があります。

これらの問題を解決するために考案されたプローブがロゴスキーコイルです。

図6のように螺旋状のコイルで被測定線を一周します。

先端をコイルの中に通すことでデタッチャブルな構造を実現しています。

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図6 ロゴスキーコイルの構造

電流波形の微分がコイル出力になるため、積分増幅器を使い元の電流波形を再現できます。

そして、空芯コイルにより磁気飽和から解放されるため、比較的小電流から大電流まで対応できます。

図7に示す通り、コイルの物理サイズが小さく、クランプ型電流プローブより容易に測定箇所にアクセスできます。

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図7 ロゴスキーコイルによるプロービング

 

ただし、ロゴスキーコイルには次の欠点があります。

●直流に非対応

●周波数帯域が高くない

●コイルが繊細な構造のため物理的な外力で破損しやすい

 

(続く)