大電力スイッチング回路の測定 -2

シャント抵抗による電流測定

物理サイズの小さなロゴスキーコイルは、インバータ出力からモータに流れる電流測定に便利ですが、直流電流を含めた計測はできません。また、周波数帯域にも制限があります。

高速電流の測定において余分な寄生インダクタンスを避けたい場合には、回路に直列に微小抵抗を挿入し、発生する電圧降下から電流を求めるシャント抵抗が使われます。

 また、図1のように大きなコモン電圧がある場合には高電圧差動プローブを使用しますが、高電圧差動プローブは減衰比が大きく十分な感度が得にくい点や、高周波領域での同相成分除去比劣化の問題からベストな手法とはいえません。

 

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 図1 シャント抵抗による電流計測

図2のように、ハイサイド側のシャント抵抗(5mΩ)に100Aの電流差が流れた場合、500mVppの電圧が発生します。

想定した高電圧差動プローブ(テクトロニクスTHDP0200)は、50:1または500:1の減衰比が選択できますが、対地電圧の制限から500:1一択になります。

この場合プローブ出力電圧は500mVppの1/500、1mVになり、感度不足といえます。

また、±500Vの同相電圧(コモンモード電圧)があるとすると、3.2MHzにて±15.8Vほどの誤差成分がプローブ出力に現れることになります。

スイッチング周波数が3.2MHzより低くても、スイッチング波形のエッジ部分には高次の高調波成分が含まれているため、その影響を大きく受けてしまいます。

つまり、この手法では正確な電流測定は困難です。

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図2 シャント抵抗による電流測の問題点

ただし、ローサイドがグラウンド電位基準で動作する場合は、10:1パッシブ・プローブでも対応可能と思われます。

表1に各測定手法の特徴をまとめましたが、ベストな手法はないようです。

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表1 従来の手法によるスイッチング電流波形手法

理想に近くなるガルバニック絶縁による手法

近年になり、光ファイバーなどによる測定系と被測定側の間に電流の流れる経路がない、電気的に絶縁されたガルバニック絶縁を実現したプローブが市販されるようになりました。

図3は光ファイバーを使用した光絶縁プローブの構造です。

計測器側から絶縁された電源で動作する増幅器とE/O変換器からなるプローブ部分、光ファイバー、光情報を電気情報に戻すO/E変換器で構成されます。

プローブ部の電源としてはバッテリーが考えられますが、動作時間の制限をなくすために別の光ファイバーで計測器本体側より供給する製品もあります。

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図3 光ファイバーを使用した絶縁プローブの構造

このプローブにより、高電圧差動プローブで問題となる高周波における同相成分除去比低下の問題はクリアになり、スイッチング出力波形だけでなくこれまで困難だったゲート-ソース間電圧波形の計測も可能になります。

光絶縁プローブはテクトロニクスが先行していますが、最近ではテレダイン・レクロイから同等製品、およびバッテリー動作で周波数帯域を絞った低価格の製品が発売されています。今後の他社の追随にも期待されます。

光絶縁プローブとシャント抵抗による電流計測への応用が考えられます。

回路への影響が小さく、周波数特性が良好なBNCコネクタ出力を持つCRV(電流指示抵抗器)が市販されていますので、図4のように変換アダプタによりプローブ先端を直接接続可能です。

光絶縁プローブは、外部からファイバーに飛び込むノイズは皆無になるためにノイズ耐性が高い長所がありますが、唯一の欠点としてドリフトノイズが多いことがあげられます。

スイッチング回路の電圧測定では、振幅が大きなことからこのドリフトノイズは大きな問題にはなりませんが、シャント抵抗出力の測定では悪影響が考えられます。

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図4 光絶縁プローブとシャント抵抗による電流測定

表1はテクトロニクスの光絶縁プローブTIVP1のノイズレベルです。

図2と同じく5mΩのシャント抵抗を使用し、±100Aの電流を測定する場合、シャント抵抗両端の電圧は±500mVとなります。プローブの使用レンジは±5Vレンジを選択、ノイズレベルは48mVrmsです。

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表1 テクトロニクスの光絶縁プローブTIVP1のノイズレベル(データシートより作成)

ノイズレベル表示は実効値のため、ピーク・ピークでは概ね250mVになり、図5のような結果になります。

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図5 ノイズの影響を受ける小電圧測定

このように、光絶縁電圧プローブは微小電圧の測定には不利になります。

シャント電流測定に特化した絶縁型電流プローブ

光ファイバー以外の方法でガルバニック絶縁を実現する方法としては、電波の利用があります。

図6のようにプローブ内部に高周波送信部と受信部を設け、送信部を絶縁した電源で動作、全体をシールドすることでガルバニック絶縁が実現できます。

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図6 電波を利用したガルバニック絶縁プローブ

テクトロニクスから発売されたTICPシリーズ絶縁型電流プロープは、電流プローブの名称ですが入力インピーダンスが50Ωの電圧プローブになります。

プローブの入力インピーダンスをそのまま、または外部シャント抵抗を併用して電流波形を測定します。

表2はシャント抵抗を併用した場合のノイズレベルです。

5mΩのシャント抵抗を使用した場合、周波数帯域1GHzでは29.7mArms、ピーク・ピークでは150mA程度になります。

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表2 TICPシリーズのフロアノイズ(rms)

図7はTICPシリーズを使用して同じ計測を行った例です。

入力レンジは±0.5V固定のため、シャント抵抗は1/10の500μAを使用します。

入力レンジは±0.5V/500μA=±1000A、ノイズレベルはピーク・ピーク値が約150mA、非常に低いフロアノイズになります。

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図7 新しい手法による電流測定

このように、特に高電圧・大電流のスイッチング回路の計測が、ガルバニック絶縁型のプローブを使用することで可能になります。

現時点では供給メーカは限られていますが、今後の展開が期待されます。