計測器のカタログ、データシートを見ると、最後の方のオプションの項目に「GPIB」というインターフェースを見かけることがあります。
例えば、横河計測のオシロスコープ DLM3000シリーズでは
付加仕様 C1/GP-IBインターフェース+GO/NO-GO端子
キーサイト・テクノロジーのデジタル・マルチメータ 344XXAシリーズでは
オプション GPIB
が追加できます。
コンピューター・インターフェースと言えば、古くはRS-232C、現在ではLANやUSBが一般的ですが、GPIBとは何でしょうか。
GPIBの歴史は長く、登場から約50年になります。
図1にコンピューターの進化と計測器との関わりを示します。
コンピューターは黎明期では電子計算機と呼ばれ、まさに大量の計算を行うために金銭を扱う金融機関、物理現象を解析する研究所で使われる極めて大型で高価なものでした。
1960年代に入り小型化されたミニコンピューターが登場し、一部のデジタル・データ出力を持てる計測器と専用のバスで接続できるようになります。
同じ頃にヒューレットパッカードからHPIB(HP Interface Bus)が登場、コンピューターと試験装置や制御装置を簡単
に相互接続し、計測システムを容易に構築できるようにするために開発されました。
ヒューレットパッカードは今でこそコンピューターの会社ですが、当時は電子計測を多く扱っており、現在のキーサイト・テクノロジーは1990年にヒューレットパッカードの計測機器部門が分離独立した会社です(正確には途中にアジレント・テクノロジーが入ります)。
HPIBはその後IEEEにて標準化されGPIBとして規格化され、広く電子計測器の標準バスとして普及しました。
1970年代から電子計測器内部には制御用に8ビットのマイクロプロセッサが採用されていましたが、データの演算処理までは行うことはできませんでした。波形取り込み用A/D変換装置(デジタイザ)を例にすると、データ列として波形データをプリンタで記録することはできましたが、波形パラメータを算出しようとするとコントローラに転送して演算しなければなりませんでした。
現在のオシロスコープなら簡単に行える演算を行うために、最低でも2,000万円はかかりました。
その後、パーソナル・コンピューターが普及することでGPIBは爆発的に普及しました。
それぞれの計測器を制御するコマンドは別々でしたが、その後IEEEにて統一化が図られ、システム構築もより容易になりました。

図1 コンピューターの進化と計測器用バスの変遷
GPIBには制御する1台のコントローラ(マスター)に最大14台までの計測器など(スレーブ)を接続できます。
GPIBコネクタは図2のようになっており、重ね合わせることで並列接続を行えます。
接続線はWired ORになります。
ケーブルの長さには次の制限があります。
●最大ケーブル長<20m
● 2m×コントローラを含む装置の数
のどちらか短い方
GPIB接続ケーブルは50cm、1m、2m、4mなどが市販されているため、通常のラックマウントシステムであればほとんど制限は受けないと思われます。

図2 GPIBコネクタの信号
GPIBでは図3のようにNDAC、NRFD、DAVの3線ハンドシェイクを行っています。
① リスナ NRFD ロー⇒ハイ すべての受信機器(リスナ)が受信準備完了(Ready for Date)
② トーカ データを出力すると同時にDAVをハイ⇒ロー データを有効化
③ リスナ データを受信
④ リスナ 受信完了後にNDACをロー⇒ハイ 受信完了(Data Accepted)
⑤ トーカ DAVをロー⇒ハイ データ出力を中止

図3 GPIBで採用されたハンドシェイク
ハンドシェイクにより確実な通信が可能になり、外来ノイズに強い特徴があります。
このノイズ耐性により、例えば電磁気ノイズが多いなど、外部環境の悪い場合にも対応できるシステム構築が容易になります。
GPIBケーブルは全体がシールドされていますが、それでも放電現象の観測などではノイズの影響を受け通信障害が発生することがあり、ダブルシールドのケーブルも用意されています。
GPIBの接続は自由度が高く、図4のようにデイジ・チェーンとのスター接続の両方が可能です。

図4 GPIBの接続方法
実際のデータ転送の様子は図5のようになります。
装置3がデータの取り込みを完了し、コントローラが取り込む場合の流れです。
① 装置3が取り込み完了します
② するとコントローラに対しサービス・リクエスト(SRQ)を出します。
③ サービス・リクエストを受けたコントローラはどの装置がリクエストを出したかポーリング作業に入り、各装置に問い合わせを行います。
④ 装置3がリクエスト元と分かると装置3をリスナに指定(リスナ・アドレスを送る)し、データ送信のコマンドを送ります。
⑤ 装置3は送信命令を受け取り、データを出力します。
⑥ コントローラがデータを受信します。

図5 コントローラがデバイスからデータを受け取る方法
このようにシステム構築が可能なGPIBですが、通信速度は最高でも1MByte/秒、その後の規格変更で8Mbyte/秒に変更されましたが決して速くはありません。
しかし、計測システムにおいては大量のデータ送受信を行うことはほとんどありません。
例えばデジタル・マルチメータからのデータを想定すれば1Mbyte/秒でも全く問題はないでしょう。
オシロスコープなど比較的データ長が長い場合でも、波形パラメータ算出のためであれば10Kポイント程度の波形データで十分な場合が多くなります。
またデータ・フォーマットをバイナリにすることでデータ量を低減することができます。
コンピューター・インターフェースの変化
登場からほぼ半世紀が経つGPIBですが、現在でも一部の計測器では搭載可能です。
GPIBが主に計測システムで使われたこともあり、多くは電源、電圧・電流・抵抗計測器、カウンタなどの汎用基本計測器が多いようです。
写真1~5は主なGPIBインターフェース搭載製品の例です。

写真1 電源機器

写真2 電圧・電流・抵抗計測器

写真3 信号発生器

写真4 カウンタ、パワーメータ

写真5 オシロスコープ、アナライザ
ご存じのようにパーソナル・コンピューターが普及し、さらにスマートフォンはほぼ個人持ちの現在、コンピューター・インターフェースはイーサネット、無線LAN、USBに集約されています。
そのため現在のコンピューターにはGPIBインターフェースが装備されておらず、GPIBで構成された計測システムを使い続ける場合、写真6、7のような変換装置を用います

写真6 USB/GPIB変換用インターフェースの例

写真7 拡張性の高いゲートウェイ
このように現在でもGPIBシステムを維持することは可能ですが、近い将来には不可能になると思われます。
現在の計測器はLAN、USBで制御が可能であり、どこかの時点で全面的に切り替える必要があると思います。