計測器の時間軸確度を飛躍的に向上させるには

オシロスコープの波形取り込みにはA/D変換器が使われています。

そのサンプル間隔は周波数精度の高いクロックにより行われるため、通常使用では問題ない時間軸確度が得られています。

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写真1 代表的なオシロスコープ

テクトロニクスのオシロスコープMSO46Bでは、時間確度は

1ms以上の任意の時間間隔で±2.5×10-6

リファレンス周波数エラー1.5ppm(1.5×10-6

と規定されています。

表1はテクトロニクスのオシロスコープMSO46Bの時間確度の概要です。

校正時には5倍ほど高い確度になるようです。

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表1 テクトロニクスのオシロスコープMSO46Bの時間確度(マニュアルより作成)

2信号の時間差測定にて10μsが得られた場合の誤差は

10μs×(±2.5×10-6)=±25ps

実用上、波形観測において誤差はほとんどないと言っても良いでしょう。

このように、オシロスコープは高い時間軸確度を持つ計測器ですが、計測シーンによっては不十分なことが起こります。

図1は基準となる入力信号による反応を観測する例です。

入力信号をトリガとし、設定した遅延時間後に反応波形を取り込みます。

レーダーの反射波を想定すると分かりやすいと思います。

ここでは反応波形が発生するまでの時間を測り、反応波形も取り込むとします。

遅延時間を適切に設定することで、反応波形を取り込むことが期待できます。

遅延時間が長くない場合は問題なく測定できます。

しかし、遅延時間が長くなると時間軸の不確実性が影響し、取り込み波形が時間軸方向に前後し、正確な遅延時間を測定することが困難になります。

図1は1秒の遅延時間後に時間軸1μs/divで観測した例です。

リファレンス周波数エラー1.5ppm(1.5×10-6

から、遅延時間にも1.5ppm、つまり1秒につき1.5μsのブレやジッタが起こる可能性があります。

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図1 長い遅延時間により発生する時間ずれ

さて、計測器の時間軸確度はどの程度なのでしょうか。

写真2、3は代表的な製品のリファレンス周波数誤差です。

汎用オシロスコープ、ファンクションジェネレータなどは10-6です。

製品の使用目的から見て妥当な値と思われます。

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写真2 オシロスコープ、ファンクションジェネレータの時間軸確度例(データシートより作成)

周波数軸での計測を目的とするカウンタは、より高い時間軸確度を持ちます。

代表的な周波数カウンタであるキーサイト・テクノロジーの53230Aでは標準品で±ppmですが、オプションの超高安定OCXO(Oven Controlled Crystal Oscillator恒温槽)により温度を一定に保つことで、周囲温度の変化による出力周波数の変化を小さくしたもの)では2けたほど高い数10ppbの確度が得られます。

一般に入手できる製品としては最高クラスの周波数確度を得られるルビジウムを用いた発振器では、より高い時間軸確度が得られます。

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 写真3 高い時間確度の計測器例

このように、計測器のカテゴリにより周波数、時間確度は大きく異なります。

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図2 カテゴリにより異なる時間確度

オシロスコープ、カウンタなどをルビジウム相当の時間確度で動作できないでしょうか。

実は図3のように多くの計測器のリアパネルには外部リファレンス入力コネクタが設けられており、外部のより高い周波数確度のリファレンス信号(10MHz)を使用できます。

 

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図3 外部リファレンス入力への切り替え

図4はテクトロニクスのオシロスコープのリアパネルに装備されている外部リファレンス入力の例です。

No.6のBNCコネクタが10MHz外部リファレンス入力です。

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図4 テクトロニクス4-5-6シリーズMSOのリアパネル(テクトロニクス 4-5-6 Series MSO Help より抜粋)

図5はエヌエフ回路設計ブロックのファンクションジェネレータ、WF1974のリアパネルに装備されている外部リファレンス入力です。

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図5 エヌエフ回路設計ブロック ファンクションジェネレータ WF1974のリアパネル(マニュアルより抜粋)

図6はルビジウム発振器を併用して時間、周波数確度を飛躍的に向上させる手法です。

 

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図6 ルビジウム発振器を高確度リファレンスとして使用

外部リファレンスとしてルビジウム発振器を併用すると、図1にて発生したジッタは大きく低減できます。

発振周波数確度を50ppb(±5 × 10–11)とすると、発生するジッタは

1(秒)×5 × 10–11=0.05ns

ほとんど無視できるまで低減できます。

しかし、ルビジウム発振器は1台の計測器に相当するほど高価です。高い時間軸確度を必要とする計測の機会は多くはない場合には、レンタルの利用が便利です。