今日でこそレコーダ、オシロスコープなど波形観測のできる計測器は当たり前に使用されていますが、1980年代まではほとんどのオシロスコープはブラウン管を用いたアナログ・オシロスコープが主流で、チャンネル数も2チャンネル、ないし2チャンネル+補助入力2チャンネルでした。
当時から測定機会のあったメモリの動作検証では、図1のように少なくとも3チャンネルの測定が求められました。
ロジック信号のマージン確認では電圧方向だけでなく時間マージンの確認が大切になるからです。
メモリの動作検証では以下の項目の確認が行われます。
セットアップ時間 ・・・ クロックが認識される前にデータが安定していること
ホールド時間 ・・・ クロックが動作後にデータが変化しないこと
さらに、データの伝搬遅延時間の測定も必要です。
そのため補助入力が追加された製品もありました。

図1 ロジック回路のマージン測定
現在ではロジックの高速化による波形形状の劣化が問題になり、ロジック信号と言えオシロスコープによる波形観測が求められています。
そのため処理するデータの大量化をバス幅の拡大で対処していた頃には多数のチャンネルの同時観測が求められ、数10チャンネル~100チャンネル以上のロジック信号をHigh/Lowで判定、取り込み解析できるロジックアナライザが多用されるようになりました。
データの取り込み方法も、波形観測のように一定の時間間隔で信号を取り込む方式(タイミング解析)に加えて、クロックと同期してデータを取り込む方式(ステート解析)により、データの流れを解析する手法が高まりました。
さらに、同時に同じ時間軸でアナログ信号も観測する要求に答えるために、オシロスコープ機能を内蔵した製品、また外部のオシロスコープとトリガ、データを共有表示できる製品が登場しました。
その後、回路設計技術の向上もありパラレルのロジック信号自体を測定する機会は減少しますが、ロジック信号のシリアル化によりデータ・レートが一気に10倍になり、信号の波形形状の確認、ジッタ、ノイズなどを観測するための高速オシロスコープが登場。また、ロジックの高速化により発生する電源ノイズ、I2Cなど低速シリアルバス、RF変調を同時に観測できるミックスド・シグナル・オシロスコープが登場しました。
パワーエレクトロニクスの高速化
ロジック計測とは別に、パワーエレクトロニクスの分野におけるスイッチング・デバイスの高速化、インバータ応用製品の拡大などにより、多チャンネルのアナログ信号計測の要求が高まっています。

図2 オシロスコープの進化
このため計測各社より8チャンネル・オシロスコープが登場しています。
(横河計測は約20年前から8チャンネルのオシロスコープを販売していましたが、ややオートモティブ・エレクトロニクスに注力した製品でした)
写真1は各社の代表的な8チャンネル可能のオシロスコープです。
従来のロジック信号の観測においては電圧軸分解能よりも時間軸分解能を高める方が優先されましたが、PAM4に代表されるロジック信号の多値化、高速化するパワーエレクトロニクス・アプリケーションの台頭により従来の8ビット電圧分解能の4倍(10ビット)、16倍(12ビット)の製品が主流になっています。

写真1 代表的な8チャンネル・オシロスコープ
表1に各製品の主要性能を示します。
多くの製品では三相モータ&インバータ向けの解析アプリケーションを搭載可能です。

表1 各社の主な性能 (各社データシートより作成)
8チャンネルを超える波形観測への対応
8チャンネル入力は十分と思えるかもしれませんが、ツイン・モータの動作解析などより多くのチャンネルが必要になるケースが増えています。
現在のところ単体で8チャンネルを超える波形観測ができる計測器としてはレコーダが挙げられます。写真2は代表的なレコーダです。
レコーダの分野でも波形取り込みの高速化は進んでいます。オシロスコープに比べればA/D変換の速度は1/10~1/20になりますが、200MS/sにて16チャンネル同時取り込みが可能です。
また、オシロスコープとは異なりレコーダの入力モジュールには絶縁入力を採用しており、グラウンドを意識せずに自由に2点間の電位差波形を観測することが可能です。

写真2 16チャンネル200MS/sサンプルが可能になったレコーダ
最高サンプル・レートの200MS/s(5ns時間分解能)が目的の信号観測に十分か否かは計測器の選択に際して大切な項目です。
一番速い変化(エッジ)部分に最低4~5ポイントのサンプルが必要なので、信号の立上り時間としては20ns以下が目安になります。
8チャンネルを超えてより高速なサンプルを実現する手法として、横河計測 DLM5038HD/5058HDでは2台の連結同期運転が可能です。
図3は200MS/sのモジュールを8つ組み込んだ横河計測のレコーダ、スコープコーダ DL950と、最高サンプル・レート 2.5GS/sの8チャンネル・オシロスコープ2台を最大レコード長で動作させたケースの比較です。

図3 横河計測の機器での16チャンネル取り込みの比較
オシロスコープの最高サンプル・レートでは12.5倍高速の取り込みができるため、インバータ回路におけるスイッチング・デバイスの動作観測が可能になります。
ただし、非絶縁入力のため高電圧差動プローブなどの併用が必要です。
一方、レコーダのサンプル・レートの限界によりインバータの出力の観測、さらにモータを含めた動作解析が向いていると思えます。
現状では計測手法は限られていますが、機器を選択することで計測目的を達成することは可能と思われます。