ハンディ型デジタル・マルチメータで低抵抗測定

手軽に抵抗測定を行うツールとしてはデジタル・マルチメータが思い浮かびます。 写真1は代表的なハンディ型デジタル・マルチメータです。
抵抗測定レンジは最低600Ω、分解能は0.1Ωで、お手軽価格帯の製品として一般的な性能です。
 
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写真1 ハンディ型デジタル・マルチメータの代表 Fluke87V
 
デジタル・マルチメータの抵抗測定の原理は図1のとおりです。
入力端子に接続した抵抗には内部の定電流源から一定の直流電流が流れます。
抵抗両端に発生した電圧を測定することで抵抗値を算出します。
ただし、測定しているのは抵抗だけではありません。
電流は入力コネクタ~テストリード~テストリード先と抵抗の接触抵抗を経由して戻ります。
つまり測定系全体の抵抗を測定していることになり、抵抗が小さくなるほど誤差が大きくなります。
 
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図1 抵抗測定の原理と問題点
 
これらの不要抵抗分をキャンセルするため、図2のように測定前にテストリード先端をショートし、ゼロ補正(ΔREL)を行います。
しかし、不安定な接触抵抗には対応することができません。

 
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図2 テストリード先端をショートすればゼロ補正が可能
 
ハンディ型デジタル・マルチメータで低抵抗を測定する
一般のハンディ型デジタル・マルチメータでは0.1Ωの分解能しか得られませんが、一部測定レンジを拡大したハイエンドタイプの製品があります。
表1はテスターで有名な日置電機の製品における、スタンダードモデルとハイエンドモデルの比較です。
 
大雑把にハイエンドモデルの確度、分解能はスタンダードモデルと1桁違います。
抵抗測定では測定電流を大きくすること、またカウント数を6000の10倍、60000カウントにすることで最低レンジは60.000Ω、分解能は0.001Ω(1mΩ)になります。
高い分解能を持っていますが数10mΩと言われる接触抵抗において1Ω以下の抵抗測定では影響が無視できません。
 
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表1 スタンダードモデルとハイエンドモデルの性能比較 (データシートより作成)
 
このため2線式測定ではなく、抵抗以外の成分を除去できる4線式測定が可能になるベンチトップ型デジタル・マルチメータが有利になります。
ベンチトップ型デジタル・マルチメータでも対応できない低抵抗測定には専用の抵抗計を用います。
 
ハンディ型デジタル・マルチメータで低抵抗を測定する工夫
(1)    抵抗に流す電流を大きくする
被測定抵抗に流れる電流を大きくすれば発生する電圧降下は大きくなります。
図3は0.1Ωの抵抗測定を想定した実験回路です。
被測定抵抗は0.1Ω、1kΩ誤差1%の抵抗を10本並列にしたもので、直列に電流制限用として10Ωの抵抗を接続、10Vの直流電圧を加えます。
これにより被測定抵抗には約1Aの電流が流れ、被測定抵抗両端には約0.1Vの電圧降下が発生します。
この電圧であればハンディ型デジタル・マルチメータで測定可能です。
なお電流制限用抵抗で約10Wの電力が消費されるため40Wのホーロー抵抗を使用しました。
 
測定系の入力抵抗の影響を検証します。
デジタル・マルチメータの電圧モードでは入力抵抗は10MΩあるため電圧計に流れる電流はほとんどなく、全体の1/108に過ぎません。
0.1Ω両端電圧測定に与える影響は無視できるレベルです。
また回路電流は電流制限抵抗、電流計の入力抵抗、被測定抵抗に流れるため、電流計の計測値には影響を与えません。
 
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図3 被測定抵抗に流れる電流を大きくする方法
 
写真2は実験の様子です。
回路電流は0.984mA、抵抗両端電圧は99.1mV、これから抵抗値は
 

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になります。
有効数字からは0.101Ωとなると思いますが、ハンディ型デジタル・マルチメータ単体では得られない測定が可能です。
 
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写真2 被測定抵抗に流れる電流を大きくする実験
 
(2)    抵抗の両端電圧を増幅する
測定電流を大きくせずに被測定抵抗両端の電圧を測定するためには、増幅器を併用する方法があります。
図4は増幅度100の差動増幅器を使用した実験回路です。
電源電圧を5V、電流制限抵抗を100Ωとすることで電流は約50mA、被測定抵抗0.1Ω両端電圧は約5mVになります。
この電圧を100倍増幅することで約500mV、これは容易に測定できます。
 
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図4 被測定抵抗の両端電圧を増幅する方法
 
写真3は実験の様子です。
今回は簡易実験でオペアンプのオフセット調整を行わなかったため差動増幅器の入力ゼロでも出力電圧が発生します。そのためデジタル・マルチメータのΔREL機能を使い測定電圧からゼロ入力時の電圧を引き算しました。
 
差動増幅器の出力電圧 473mVから被測定抵抗の両端電圧は4.73mV、回路電流 47.0mVより抵抗値は
 
になります。
ただし、オペアンプの動作が安定するまで時間がかかるため、再現性からすると((1)の抵抗に流す電流を大きくする方法のほうがすぐれていると思われますが、こちらは大きな電力が必要という欠点があります。

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写真3 被測定抵抗の両端電圧を増幅する実験
 
高分解能のデジタル・マルチメータが手元にない場合に応用できる方法になります。