シャント抵抗による電流測定 シャント抵抗による電流測定で最も身近な例はデジタル・マルチメータです。デジタル・マルチメータの入力は絶縁入力なために、グラウンドを考慮する必要は無く、図1のようにグランドからの帯電圧以内であれば回路に挿入することで電流を測定できます。 図1 デジタル・マルチメータによる電流測定 表1はケースレー DMM6500のシャント抵抗値です。 表1 ケースレーDMM6500のシャント抵抗値(DMM6500のデータレートより作製) 表1の値は概ね各社デジタル・マルチメータで大差はありません。シャント抵抗が回路の動作に影響を与えるかどうかは、回路のインピーダンスにより変わるため測定時には配慮が必要です。 電流波形の測定も電圧プローブを使用することで可能です。ただしパッシブ・プローブ、通常のアクティブ・プローブはシングルエンド・プローブなため必ずグラウンド基準の測定になり、シャント抵抗は図2のようにグランドに流れ込むポイントに配置することになります。 なお電流が大きな場合、グラウンドの持つ抵抗、インダクタンスの影響によりグランド・レベルが変動する恐れがあり、その場合には差動プローブが有効です。 図2 グラウンドに流れ込む電流波形の測定 図3のように回路の任意の箇所を流れる電流波形の測定はシングルエンド・プローブは使用できず、スイッチング回路では測定箇所の電圧が高いことが多く、高電圧差動プローブが必要です。しかし高電圧差動プローブは減衰比は大きく、小電圧の測定は困難です。シャント抵抗値を5mΩ、電流を10Aとすると電圧降下は50mVしか得られません。 シャント抵抗値は小さい程回路に与える影響は小さくなり好都合ですが、電圧降下で得られる電圧降下は低下するため、可能な限り電圧感度の高いプローブが求められます。 図3 高電圧差動プローブでは対応できない測定 高感度絶縁測定を実現する方法シャント抵抗を回路の任意ポイントに直列に挿入し、両端電圧を測定するためには感度の高い電圧プローブで絶縁測定を行う必要があります。 図4のように何らかの方法で入出力に電流を流すルートが存在しない、「ガルバニック・アイソレーション」を実現する必要があります。 図4絶縁測定に必要なガルバニック・アイソレーション 一般的な手法が光による絶縁で、すでに数社より光絶縁プローブとして製品化されています。多くの製品は図5のように「E/O変換器→光ファイバー→O/E変換器」というアナログ伝送を採用しています。周波数帯域はE/O変換器、O/E変換器の性能に依存しますが、現在では1GHzが実現されています。また光ファイバーの採用により外部からのノイズに強いという長所があります。一方、光伝送で発生するノイズ、ドリフトが少なからず発生し、感度を上げ難い欠点があります。 図5 多くの光絶縁プローブの原理 ノイズ、ドリフトの影響を排除するため図6のように入力信号をA/D変換し、デジタル信号をシリアル化して光ファイバーで伝送、D/A変換で元波形を再現する手法もあります。しかし伝送レートの制限からA/D変換のレートを上げ難く、広い周波数帯域を得にくい欠点が挙げられます。 図6 デジタル伝送を活用した絶縁方式 写真1は図5の原理による代表的な光絶縁プローブです。写真1 代用的な光絶縁プローブ このプローブとシャント抵抗を使用して電流測定を行うことを考察します。減衰比×1のプローブチップを使用すると電圧ゲインは1倍になります。 シャント抵抗として5mΩを使用すると図7のようにオシロスコープの電圧感度を5mV/divに設定した場合、電流感度は1A/divになります。電圧設定を500μV/divまで上げても0.1A/divになり小電流には対応できません。またノイズも無視できないことになります。結果としてシャント抵抗による電流測定には不十分と言えます。 図7 光絶縁電圧プローブとシャント抵抗による電流測定例 シャント抵抗専用に設計された絶縁型プローブ光ファイバーではノイズ、ドリフトの問題があり、別の絶縁手法として考案されたものが図8の無線伝送による絶縁です。プローブ内部に無線変調器と復調器を内蔵することでガルバニック・アイソレーションが実現されています。欠点としては光ファイバーより外部からノイズ耐性は低いかもしれませんが、通常のアクティブ・プローブ同等の耐性は期待できると思われます。 図8 無線伝送による絶縁 写真2は無線伝送を採用した絶縁型電流プローブです。 写真2 無線伝送による絶縁を採用したシャント式電流プローブ シャント抵抗の使用を前提としているため入力インピーダンスを高くする必要は無く、減衰比1xにて50Ω、減衰比10xにて500Ωとなっており、電圧測定には向いていません。 入力容量は減衰比1xにて無規定、10xにて3pF以下とあります。入力インダクタンスに関しては特に記載はありません、通常のアクティブ電圧プローブ同様にインダクタンス成分は僅少、入力容量の影響で周波数の上昇に伴い入力インピーダンスは低下すると思われますがシャント測定を前提とするため特に問題は無いはずです。 このプローブの実力をデータシート、マニュアルから探ります。 シャント抵抗の必要性能デバイスのオン抵抗を考えるとシャント抵抗値は5mΩ以下、立上り時間は1ns以下が条件と思われます。周波数特性が優れ、寄生インダクタンスが少ないシャント抵抗の例として、T&M Research Product社の電流検出抵抗器の中からを抵抗値5mΩ、立上り時間は1nsのSDN-005を例にあげます。 シャント抵抗をRL回路と考えると図9のように立上り時間が出てきます。ここでは立上り時間の定義としてソース・インピーダンス25Ωとすると図のようにインダクタンス成分は2.27pHと僅かな値になります。 図9 電流検出抵抗器 SDN-005の立上り特性(計算値) 電流検出抵抗器とプローブの接続は図10のように変換アダプタを使用します。 図10 電流検出抵抗器とプローブを変換アダプタで接続 大電流測定5mΩシャント抵抗 ×10アッテネータ使用 ゲイン設定1の場合5mΩシャント抵抗により±1000Aの電流は±5Vに変換、アッテネータにより±500mVに減衰、ゲイン1ではプローブ出力は同じく±500mV、オシロスコープの感度設定は0.5V/divにて1000A/divが得られます。 図11 大電流測定の設定 中電流測定5mΩシャント抵抗 ×1プローブチップ使用 ゲイン設定1の場合5mΩシャント抵抗により±100Aの電流は±500mVに変換、ゲイン1ではプローブ出力は同じく±500mV、オシロスコープの感度設定は0.5V/divにて100A/divが得られます。 図12 中電流測定の設定 小電流測定5mΩシャント抵抗 ×1プローブチップ使用 ゲイン設定25の場合5mΩシャント抵抗により±4Aの電流は±20mVに変換、ゲイン25ではプローブ出力は±500mV、オシロスコープの感度設定は5mV/divにて40mA/divに、1mV/divにて8mA/divなります。 図13 小電流測定の設定 この高感度設定ではノイズが問題になります。データシートに記載されているノイズ性能はrmsなのでピークピーク値を3倍として考えると図10になり、周波数帯域制限を掛けることで十分なS/Nを得ると思われます。 図14 ノイズ性能 この考察から小電流から大電流まで対応できる性能を持つ思われます。むしろ性能を引き出す鍵はシャント抵抗です。シャントp抵抗値は小さい程回路に与える影響は低下しますが、時定数はになり、抵抗Rは小さい程時定数は大きくなることから、寄生インダクタンスを如何に抑え込むかがキーになります。 スイッチング回路においてオン時の電流波形は誘導性負荷を通るので鈍りますが、ボディーダイオードを流れる還流電流は高速になるため、電流プローブには高い周波数帯域が必要です。電圧・電流プローブのスキューを正しく合わせるためにも両方の周波数帯域は製品を揃えることをお勧めします。