大電流波形観測に対応した電流センサ・プローブ

波形観測は多く電圧波形で行われます。

図1のように電圧測定ではその多くがプローブを回路に挿入するだけで済みます。

また、負荷が単なる抵抗負荷であれば、流れる電流波形は電圧波形と相似になるはずです。

 

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図1 単純な抵抗負荷では電圧波形と電流波形は相似

しかし、負荷が周波数特性をもつインピーダンス負荷の場合には、電圧波形から電流波形を求めることはできません。

インピーダンスは周波数により変化するため、周波数により電流値、位相共に変化するからです。

ほとんどの計測器の入力形式は電圧入力です。

入力インピーダンスが高い入力回路を被測定回路に並列に挿入すれば済みます。

電流を直接する場合は回路に直列に挿入するため、測定が容易でないこともあると思います。

 

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図2 電流波形の検出方法

図2のように電流を検出する方法は大きく二つに分かれます。

一つは回路に電流検出用の抵抗(シャント抵抗)を直列に挿入し、その両端電圧を観測する方法です。

電流波形観測では電圧プローブ(グラウンドに流れ込む電流以外の場合は差動プローブないし光絶縁プローブなどを使用)を用います。

抵抗は測定範囲内にて無誘導である必要があり、また抵抗値は回路電流に影響を与えるため、回路インピーダンスより十分に低い必要があります。

もちろん抵抗値の精度は測定確度に影響を与えます。

もう一つの方法は電流センサ、電流プローブです。

回路をいったん切断しセンサに貫通させる、または切断せずにクランプをする方法です。

一見回路には何も挿入されず、被測定回路の動作に影響を与えないと考えやすいですが、クランプされる部分は1ターンのトランス巻き線に相当します。

周波数帯域の高い電流プローブの場合には、周波数特性を持つインピーダンスが挿入されることに注意する必要があります。

図3は代表的な電流プローブ 日置電機CT6701の周波数vs入力インピーダンスです。

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図3 日置電機CT6701の入力インピーダンス (データシートより抜粋)

周波数の上昇に伴いインピーダンスが上昇するインダクタンス成分が見られます。

このため回路のインピーダンスが極端に低い場合、急激な電流変化が妨げられることがあります。

この現象は周波数帯域の高いすべての電流プローブ共通に起こり得ます。

電力測定を行う電力計にはシャント抵抗式と電流センサ式があります。

図4はシャント抵抗入力方式の電力計による電力測定の結線例です。

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図4 シャント抵抗により電流を測定する電力計

電流を検出する電流プローブ、電流センサは図5のように大きく三つのグループに分かれます。

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図5 電流センサの方式による分類

フラックスゲート検出方式の電流センサ/プローブ

多くはリング形状の貫通型で、測定ポイントのケーブルをいったん外しセンサに通す必要がありますが、比較的高い確度で大電流波形を測定可能です。

フラックスゲート型は電流検出用の巻き線とは別に、コアを励磁する巻き線、磁束密度の変化を検出する巻き線を持ち、直流電流、交流電流ともに検出可能です。

 

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図6 フラックスゲート式の構造

巻き線方式の電流センサ

クランプ式が多く主に現場測定器として使われます。

1:Nターンのトランスとでもいえる構造で、直流電流は検出できません。

一般的には50/60Hzの系統電源の電流値確認に使われます。

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図7 巻き線方式の電流センサ

ホール素子検出式電流プローブ

主にオシロスコープ、レコーダとともに電流波形測定に使われるプローブです。

クランプ式のためケーブルを切断することなく容易に測定可能で、小電流タイプでは周波数帯域100MHzが可能、1mA以下の電流波形の観測も可能ですが確度は高くありません。

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図8 ホール素子検出式電流プローブ

図9は電流波形観測に使用できるフラックスゲートによる貫通型電流センサとホール素子によるクランプ型電流プローブの測定可能範囲を示します。

すべてのセンサ、プローブにて周波数の上昇に伴い測定可能な最大電流は低下します。

これは周波数ディレイティングと言われるものです。

データシートに記載される最大電流は直流/低周波領域での値であることには注意が必要です。

貫通型電流センサは直流~低周波領域にて大電流を0.1%以下の高い確度で測定できます。

元々が主に電力計との併用を想定していますが、波形測定にも使用できます。

設置にあたっては測定確度を向上させるためできるだけ電流センサの中心にケーブルを固定する必要があり、固定された実験装置で使われるケースが多くなります。

クランプ型電流プローブは直流~高周波領域までの電流波形を対象にしています。

クランプ方式により配線を切る必要はなく、簡単にプローブを挿入できますが確度は1%程度になります。

測定可能な最大電流は500Aが限度であることから、BEV向け受電設備などの電流測定には対応できないことがあります。

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図9 フラックスゲート式センサ ホール式電流プローブの守備範囲

 

図10は電流センサ、電流プローブをレコーダに接続する例です。

レコーダには種々の入力モジュールが用意されていますが、電圧入力が主体のメーカー、電流入力を備えたメーカーがあり、電流波形観測に用いる際は機器選択に注意が必要です。

 

図10上は電圧入力モジュールとクランプ式電流プローブの組み合わせです。

電流プローブはオシロスコープ用がそのまま使用できます。

比較的周波数が高い場合に推奨できます。

 

図10下は「貫通型電流センサを直接接続できる電流入力モジュールを使用」、「変換用センサユニットを併用し電圧入力モジュールを使用」、また「電流プローブを使用」する例です。

貫通式電流センサのメリットを活かす大電流測定に推奨できます。

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図10 電圧入力か電流入力かで異なる電流センサの選択

 

使いやすくなったフラックスゲート式センサの登場

新しいプローブとして貫通型のもつ大電流対応・測定確度とクランプ型の便利さを兼ね備えた製品が発売されています。

クランプ型ですが確度は0.2%、最大電流は1000Armsが可能、周波数帯域は300kHzです。

電流プローブ同様にレコーダ、オシロスコープのBNC入力端子に接続して使用できます。

ノイズも電流プローブ同様に少ないため、特に波形観測に推奨できると思われます。

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図11 クランプ式フラックスゲート・プローブの性能