電圧・電流はデジタル・マルチメータなどの電圧計、電流計を使用すれば測定できます。 直流電圧に限らず、交流の場合は周波数に対応したデジタル・マルチメータ、波形の場合はオシロスコープと電流プローブを使用すれば測定は可能になります。 図1は直流電源 Eに負荷抵抗 Rを接続した場合です。負荷を流れる電流 Iは I=E/R 抵抗で消費される電力は P=IE=E^2/Rになります。 図1 直流における電力 電圧計、電流計は図2のように接続すれば良いように思われますが、計測器には問題があります。 電流計は回路に直列に挿入されるため入力抵抗はゼロが理想、電圧計は回路に並列に挿入されるため入力抵抗は無限大が理想になります。 図2 計測器を使った電力測定の結線(A-V接続) 電力測定における電圧計・電流計の接続方法には電圧計を負荷に直接接続し、負荷に加わる電圧を直接測定するA-V接続と、負荷に流れる電流を直接測定するV-A接続があります。 図3は電力測定の専用機、電力計(パワーアナライザ)の接続方法です。負荷によりA-V接続とV-A接続を選択することになります。 図3 電力計の接続 (横河計測 WT1800のマニュアルより作成) A-V接続での発生誤差A-V接続では図4のように電流計、電圧計の入力抵抗が回路に挿入されます。電流計の入力内部抵抗は回路に直列に入るため、入力内部抵抗が負荷抵抗に比べて無視できる程度に小さい、つまり負荷抵抗が大きく負荷が軽いほど回路に与える影響は小さくなります。 電圧計の入力抵抗は負荷に並列に入るために入力内部抵抗が負荷抵抗に比べて無視できる程度に小さい、負荷が重いほど回路に与える影響は小さくなります。 電流計、電圧計ともに影響を与えますのでそれぞれの入力抵抗と負荷抵抗の関係を考慮しなければなりません。 図4 A-V接続での誤差要因 誤差がどれくらい発生するか検証します。負荷抵抗 Rと電圧計の入力抵抗 Rvによる合成抵抗をZとすると =(R⋅R_v)/(R+R_v ) ・・・・・①これから回路に流れる電流 Ia、電流計の読み値は Ia=E/(R_a+Z) ・・・・・②電圧計の読み値 Vaは V_a=I_a⋅Z ・・・・・③これより電流計、電圧計による電力の測定結果 Pmeasureは一方、電流計、電圧計の影響を受けて負荷抵抗 Rで消費される電力 Pconsumpはよって測定環境において測定結果と実際に生じる電力の差は つまりRが低く、負荷に流れる電流が大きいほど誤差は小さくなり、このことからA-V接続は電流が大きな場合に向いているといえます。 また、計測の立場から電流計、電圧計挿入以前の本来の消費電力 Ptrue はPtrue=E^2/R ・・・・・⑦になり、Pmeasureとの差異が計測誤差になります。さらに電流計、電圧計の誤差がこれに加わります。 V-A接続での発生誤差V-A接続においても電流計の入力抵抗の影響は同様です。電圧計は電源 Eの値は直接測定しますが、負荷抵抗に加わる電圧は電流計の入力抵抗による電圧降下分低下します。 図5 V-A接続での誤差要因 電圧計の読み値はV_a=E ・・・・・⑧ 電流計の読み値はIa=E/(Ra+R) ・・・・・⑨ これより電力の測定結果 Pmeasureは 電流計、電圧計の影響を受けて負荷抵抗 Rで消費される電力 Pconsumpは A-V接続と同様に測定環境において測定結果と実際の生じ電力の差は になります。このことからRが大きく負荷に流れる電流が小さいほど誤差は小さくなり、V-A接続は電流が小さな場合に向いているといえます。 電圧計、電流計の入力抵抗が誤差の原因になるわけですが、現実の電圧計、電流計の入力抵抗はどの程度なのか、図6に一般的な入力抵抗値を示します。 現在ではほぼ絶滅した針式のアナログ電圧・電流計は、磁界中に置かれたコイルに電流を流し、フレミングの左手の法則で発生する力で針を回転させる原理で動作します。図6のとおり入力抵抗値は測定レンジによって変化し、しかも値は大きくありません。このため商用電源、大電力の回路など、回路インピーダンスが低い場合には問題は起こりませんが、回路インピーダンスの上昇に伴い電圧計自体が負荷として働いてしまいます。 デジタル・マルチメータの場合、電圧モードでの入力インターフェースはほぼすべての製品で10MΩと高い値になります。 電流計の場合、同様の電流レンジにおいてアナログ式の入力抵抗はデジタル・マルチメータのそれより1桁程度低い値になります。 図6 入力抵抗の比較例 このように、現代の計測器では針式アナログメータとデジタル・マルチメータでは入力抵抗の傾向が異なります。そこで、デジタル・マルチメータを想定して電源電圧、負荷抵抗を変えた場合の測定誤差を検証します。 ここでは図7のように抵抗で消費される電力と電力測定結果の差に加えて、計測器がない状態で抵抗が本来消費する電力と電力測定結果の差も検証します。 図7 比較する計測結果(V-A接続も同様) 代表的なデジタル・マルチメータとしてキーサイト・テクノロジー 344601A、さらに比較のため電力測定専用のパワーメータとして横河計測 WT310Eを取り上げます。 写真1は344601Aの入力抵抗になります。データシートには電流モードにおける入力抵抗値の代わりに負担電圧が記載されていますが、これが入力抵抗により入力端子間に発生する電圧降下です。入力抵抗値は各電流レンジにおける最大電流と負担電圧から計算できます。 写真1 代表的なデジタル・マルチメータと電流測定時の入力抵抗 電源電圧は10V、電流は負荷抵抗値を100kΩから1Ωまで変化させることで100μAから10A、電力は1mWから100Wまでとし、A-V接続とV-A接続で測定した場合の誤差を検証します。。 図8は計測環境で抵抗が消費する電力と電流・電圧計による消費電力測定結果の差です。電流が大きな場合はA-V接続(青)が、小さな場合はV-A接続(赤)で差が少なくなる傾向にあります。ただし、ほとんどの電力においてA-V接続が優位、V-A接続では電流計の入力抵抗の影響が顕著なことが分かります。 図8 デジタル・マルチメータによる電力測定の影響例 図9は計測器がない場合、本来の消費電力に比べて測定結果の誤差がどうなるかを検証した結果です。この場合、図8の例とは逆に電流が大きな場合V-A接続が優位になります。電流計の入力抵抗が大きく影響していることが分かります。 図9 デジタル・マルチメータによる電力測定の誤差例 次に電力測定の専用機、パワーメータによる検証です。写真2はパワーメータ WT310Eの入力抵抗です。パワーメータでは電圧入力の入力抵抗は2MΩと、デジタル・マルチメータの10MΩに比べると1/5になり、A-V接続では影響が気になります。一方電流入力の入力抵抗もデジタル・マルチメータのそれに比べると小さくなります。 写真2 電力計 WT310Eと入力抵抗 図10は計測環境で抵抗が消費する電力と電流・電圧計による消費電力測定結果の差です。A-V接続(青)では電圧入力の入力抵抗2MΩの影響が読み取れ、電流が小さい、負荷が軽い場合はその影響が大きくなります。V-A接続では逆に大電流で影響が大きくなります。 この結果を見ると● 負荷が重い(電流が大きい)場合はA-V接続● 負荷が軽い(電流は小さい)場合はV-A接続 が成り立ちます。 図10 電力計による電力測定の影響例 しかし、計測の立場から見ると計測器がない状態での電力を知ることが本来の目的です。そこで「計測器の影響を受けた消費電力の測定結果」vs「計測器がない場合の本来の消費電力」 を見ると図11のようにV-A接続がすべての領域で優位になります。 図11 電力計による電力測定の誤差例 パワーメータの入力抵抗は、回路に与える影響を少なくするために、デジタル・マルチメータのそれに比べて小さく設計されています。このことから消費電力の真値に迫る意味では、ほとんどの接続はV-A接続が優位と思われます。 今回の検証は限られた条件での結果になります。電力計測にあたっては電圧、負荷の状態を考慮した検証を行い、接続法を選択することをお勧めします。