オシロスコープの入力チャンネル数は4チャンネルが標準になり、最近では6~8チャンネルの機種が登場、さらに2台連結動作のできる製品も登場しています。
チャンネル数が増えることで同時に観測できる信号が増えることは便利ですが、当然のことながら価格は上昇します。
またサイズ的にも大きくなることは否めません。
そのため多くのオシロスコープで追加の入力チャンネルとしてロジック入力を利用できるようになっています。
アナログ信号、ロジック信号を両方扱えることから、両方の信号が混じったという意味で「ミックスド・シグナル」を冠したミックスドシグナル・オシロスコープという商品名になります。
写真1は代表的なミックスドシグナル・オシロスコープです。
ロジック信号入力がアナログ入力から独立したタイプ(キーサイト・テクノロジー)、チャンネル4をアナログ/ロジックに切り替えるタイプ(横河計測)、任意のチャンネルをアナログ/ロジックに切り替えるタイプ(テクトロニクス)など各社により方式は異なります。

写真1 代表的なミックスドシグナル・オシロスコープ
入力信号を一定のサンプル・レートで判別することはアナログ入力とロジック入力ともに同じです。
アナログ入力ではサンプリングしたアナログ電圧を8~12ビット、ないしはそれ以上の分解能でデジタイズして記録します。
一方、ロジック入力では設定した閾値(スレッショルド電圧)の上下によりLogic High、Logic Loを記録します。
この方法をロジック計測ではタイミング計測と呼びます。
アナログ入力では波形の細かな変化を観測できますが、ロジック入力ではあくまでもHighかLoだけなります。
このため信号には波形的にあばれが少なく、HighかLoが判別できれば良いことが前提になります。

図1 アナログ取り込みとロジック取り込みの違い
ロジック信号の取り込みには別の手法もあります。
ステート解析と呼ばれる手法で、信号と同期したクロックのエッジ、例えば図2のようにクロックの立下りエッジのタイミングでデータを取り込みます。
バスにどのようにデータが乗っているのかを解析するには有効な手法です。

図2 クロックに同期して取り込むステート解析
ロジック信号の解析に特化した計測器としてはロジック・アナライザがあります。
写真2は代表的なロジック・アナライザです。
幅の広いバスを同時に取り込めるようにチャンネル数は136ch、タイミング計測での最高サンプルは2.5GS/s(0.4ns分解能)、ステート解析での最高クロック速度は350MHzです。

写真2 代表的なロジック・アナライザ
かつてのロジック・アナライザではロジック信号とは別にアナログ信号も取り込みたい、という要求からオシロスコープ機能を追加できる製品がありました。
現在のミックスドシグナル・オシロスコープとは逆の発想なのは面白いです。
ミックスドシグナル・オシロスコープの構造は図3のようになります。
チャンネル数は専用のロジック・アナライザほど多くはありません。
これはミックスドシグナル・オシロスコープではバス解析のためのステート解析は行わず、タイミング解析のみ可能なことに由来するかもしれません。
キーサイト・テクノロジーでは16チャンネル、横河計測では8チャンネル、テクトロニクスではチャンネル毎に8チャンネル(6チャンネルのMSO46Bでは最高48チャンネル)になります。
サンプル・レートはアナログ入力と共通になります。

図3 ミックスドシグナル・オシロスコープの基本的な考え方
ロジック入力の性能では入力チャンネル数とサンプル・レートに目が行きますが、注意する点としてチャンネル間スキューがあります。
全ての入力チャンネルに同じ信号を入力した場合、同じタイミング結果が表示されることを期待しますが、実は図4のようにタイミングがずれることがあります。
これはチャンネル間スキューと呼ばれ、最高サンプル・レートがいくら速くてもスキューが大きいと計測確度が低下してしまいます。

図4 時間確度の影響するスキューの存在
また幅の狭いパルスにどこまで対応できるのかという性能があります。
入力チャンネルの周波数帯域が低いと、最高サンプル・レートが速くても検出ができなくなります。

図5 プローブの周波数特性が影響する最小検出パルス幅
このようにロジック入力特有の性能があり、ほかにも閾値の設定可能範囲、最大入力電圧範囲、入力ダイナミックレンジなどがあります。
もちろん、アナログ入力で使用されるプローブ同様に、信号に影響を与える入力インピーダンスも大切です。

図6 ロジック入力の諸性能
図7はテクトロニクス MSO4Bシリーズの入力部分です。
ロジック・プローブを各入力チャンネルに使用することで8チャンネルのロジック入力になります。
各プローブにおけるチャンネル間スキューは160ps、ほかのロジック・プローブないしアナログ・プローブ間のスキューは3nsと規定されています。
プローブ入力抵抗は100kΩ、入力容量は2pFと低い値になっています。

図7 テクトロニクス MSO4Bシリーズのロジック入力
図8はキーサイト・テクノロジー MSOX400Aシリーズの入力部分です。
ロジック入力数は16チャンネル、チャンネル間スキューは代表値として2ns、プローブ入力抵抗はテクトロニクス同様100kΩ、入力容量は8pFです。

図8 キーサイト・テクノロジーMSOX400Aシリーズのロジック入力
図9は横河計測 DLM3000シリーズの入力部分です。
チャンネル4をアナログ入力ないしロジック入力に切り替えて動作します。
つまりアナログ 4チャンネル、またはアナログ 3チャンネル+ロジック 8チャンネルのいずれかの動作になります。
プローブ入力抵抗は同じく100kΩ、動作速度の速いプローブにて入力容量は3pFです。

図9 横河計測 DLM3000シリーズのロジック入力
表1は各社ロジック・プローブの性能一覧です。

表1 各社ロジック・プローブの性能(各社のデータシートより作成)
ミックスドシグナル・オシロスコープの代表的な使用例が、組み込みシステムで使用されるI2C、SPIなど低速シリアルバスの取り込みです。
図10はI2C、図11はSPIの例です。
I2Cではシリアル・クロック(SCLK)、シリアル・データ(SDA)の2信号、SPIではSCLK、マスターアウト/スレーブイン(MOSI) 、マスターイン/スレーブアウト(MISO)、チップセレクトの4線から構成されます。
4チャンネル・オシロスコープのアナログ入力で解析することも可能ですが、本来スピードがあまり速くない制御信号では信号の歪は少なく、ロジック入力で対応できます。
もちろんロジック入力で対応すれば本来のアナログ入力はほかの信号解析に使用できます。

図10 I2Cの例

図11 SPIの例
ほかの応用例として多くの電気製品のノブ、モータの位置センサなどで使用されるロータリー・エンコーダがあげられます。
ロータリー・エンコーダには時計回り、反時計回りを検出する方式(図12)と絶対的な回転位置を検出する方式(図13)がありますが、この動作解析にもミックスドシグナル・オシロスコープは向いています。

図12 ロータリー・エンコーダの例-1

図13 ロータリー・エンコーダ-2
ロジック入力という名前からロジック信号専用と思ってしまいますが、単に閾値の上下のタイミングを測ると考えると電源シーケンスの測定にも使用できます。
システム内部には複数の電源があり、電源オン、オフ時の順番が決められています。

図14 電源の立上り順序が決まっている電源シーケンス
例えば、ロジック・チャンネル毎に閾値を電源電圧の90%に設定することで、図15のように本来アナログである電源電圧の変化タイミングをロジック入力で解析することができます。

図15 電源シーケンス測定への応用
このようにロジック入力を利用することでより多くの信号を同時に観測することが可能になります。