PCの高性能化、バス速度の高速化、さらにA/D変換器、D/A変換器の高速化、低価格化によりUSB接続の低価格な計測器が登場しています。 図1のように計測器メーカーから操作部、表示部を除いたオシロスコープやスペクトラム・アナライザが発売されています。また、最近ではオシロスコープ、ファンクション・ジェネレータ、ロジック・アナライザ、パターン・ジェネレータ、DC電源まで搭載した低価格な万能計測器も登場しています。 これはハードウエアで構成される計測機能を小型筐体に集約し、データ処理部をPCにインストールしたアプリケーションへと役割分担することで小型化、コスト削減を図ったものと思われます。ワンパッケージのUSB接続の万能計測器は「低価格で教育用」を謳っていますが、計測業務にも使えそうな高性能スペックを謳っています。ここでは代表的な製品を取り上げてその実用性性能を検証してみます。 図1 USB接続で使用する計測器群 写真1はDigilent社の「Analog Discovery 2」です。 写真1 Digilent社のAnalogDiscovery2とリードセット アナログ・デバイセズ社とXilinx社の協力を得て開発され、以下に示すような主な機能、性能を持ちます。 ● オシロスコープ 差動±25V出力 14ビット 最高100MS/s 周波数帯域 BNCアダプタボード使用時 30MHz+ ● ファンクション・ジェネレータ±5V出力 14ビット 最高100MS/s 周波数帯域 BNCアダプタボード使用時 12MHz+ ● ロジックI/O16チャンネル ロジック・アナライザ (3.3VCMOS) 最高100MS/s16チャンネル パターン・ジェネレータ (3.3VCMOS) 最高100MS/s ● 直流電源0~5V0~-5V Windows、MacOS、Linuxに対応した制御アプリケーションであるWaveformsにより以下の解析が可能です。● ネットワーク・アナライザ 1Hz~10MHz● スペクトラム・アナライザ(FFT) ・・・noise floor, SFDR, SNR, THDなど● バス・アナライザ ・・・SPI, I²C, UART, Parallel (Analog Discoveryシリーズは「Analog Discovery」、「Analog Discovery 2」そして現在(2024年)では「Analog Discovery 3」にバージョンアップされ、Analog Discovery 2の最高サンプリング速度100MS/sはAnalog Discovery 3では125MS/sに高速化されています) AnalogDiscovery2の外観と入出力ピンは写真1のとおりです。標準では30ピンのリードセットを使用します。本来が教育用ということで、ブレッドボードに組んだ回路に取り付けたピンヘッダに直接アクセスできます。 計測器として使用する場合は、入出力にBNCコネクタが使えるようにするため、写真2のようにBNCアダプタボードを取り付けます。 写真2 BNCアダプタボードを取り付けた状態 図2はAnalogDiscovery2のブロック・ダイアグラムです。キーデバイスは14ビット分解能 100MS/sのA/D変換器とD/A変換器です。オシロスコープとファンクション・ジェネレータは、それぞれCH1、CH2に独立して動作します。また、16チャンネルのロジック入出力デバイス、±5Vの直流電源が別途配備されています。 オシロスコープの入力は差動入力ですが、BNCアダプタボードを併用するとマイナス側がグラウンドに接続され、シングルエンド入力になります。また、直流成分をカットするためのACカップルにはタップで切り替えます。 ファンクション・ジェネレータはオシロスコープ同様14ビット、100MS/sで動作、高速オペアンプ経由で出力されます。出力インピーダンスはBNCアダプタボードを併用すると0Ω/50Ωの切り替えが可能です。図2 AnalogDiscovery2の内部ブロック オシロスコープによる複雑な波形の取り込みや、ファンクション・ジェネレータによる任意波形発生で気になる波形メモリ長ですが、メモリはオシロスコープ、ファンクション・ジェネレータそしてロジック入出力でシェアされており、動作モードにより表1のように変化します。残念ながらメモリ長は黎明期のオシロスコープ同様に長くはありません。 表1 動作モードで変わるメモリ長 オシロスコープの入力レンジが二つ操作アプリケーション上では、オシロスコープの電圧感度設定は一般のオシロスコープ同様に1-2-5ステップで、例えば10mV/div ⇒ 20mV/div ⇒50mV/divと設定できます。しかし、ハードウエアとしては ● 100μV/div ~ 0.5V/div バッファ経由でA/D変換器に入力● 1V/div ~ 5V/div 10:1アッテネータで減衰後にA/D変換器に入力 つまり、感度切り替えは電圧方向での拡大表示になります。 図3に示すように0.5V/div(±2.5V)時に14ビット・フルスケールで動作します。14ビット=1/16384 分解から1電圧分解能は0.32mVで動作しています。つまり、0.5V/divでは1目盛りを約1600で分解しており、十分な電圧分解能になります。 電圧感度を上げて50mV/divとした場合10倍に表示拡大され、1目盛りを約160で分解します。 さらに感度を10倍の5mV/divに上げると 図3 感度設定で変わる拡大表示 実は高分解能A/D変換には別の問題が生まれることがあります。 図4ではファンクション・ジェネレータCH1で1kHz、±2.5Vの方形波、CH2で±0.25Vの方形波を出力、10:1プローブ経由でオシロスコープのCH1、CH2に入力しています。 オシロスコープの入力感度はCH1が1V/div、CH2が0.1V/divになりますが、AnalogDiscovery2本体はそれぞれ100mV/div、10mV/divで動作します。 図4 二つのチャンネルで感度を変えた実験 図5が測定結果です。CH1(赤)は問題なく表示されますが、CH2(青)は波形の上下が平らではありません。もちろんプローブの補正は正しく行われています。 図5 測定結果 原因を調べるためCH2のプローブを外した結果が図6です。CH1の波形がCH2に漏れ込んでいることが分かります。この漏れ込みはチャンネル間アイソレーション(クロストーク)と呼ばれ、オシロスコープでは程度の差はあっても必ず発生します。 図6 チャンネル間アイソレーション 表2は代表的なオシロスコープにおけるチャンネル間アイソレーションの性能です。多少の差はありますが、概ね同じ電圧感度では1/100程度は許容しています。 表2 代表的なオシロスコープのチャンネル間アイソレーション (各社のデータシートより作成) ではチャンネルによって感度が異なる場合、手持ちのオシロスコープ(周波数帯域 350MHz)にて実力を確認してみます。 図7は図4と同じ設定での結果です。図5と異なり、CH1、CH2ともに適切に表示されています。 図7 市販のオシロスコープによる実験 次にCH2のプローブを外した結果が図8です。CH2への漏れ込みは全く確認できません。使用したオシロスコープでのチャンネル間アイソレーションは「40dB DC ~ 最大定格周波数」とあり垂直軸スケールの設定は規定されていませんが、全く問題はないと思われます。図8 市販のオシロスコープの実力 一般のオシロスコープでは図9のように入力コネクタとA/D変換器の間にアッテネータと増幅器が設けられています。A/D変換器の分解能は以前は8ビット、現在では10~12ビットが多くなっていますが、すべての感度設定(Volt/div)においてアッテネータと増幅器のゲインの組み合わせを変えてA/D変換器の分解能を十分に活かせるようにしています(1)。つまり図3のように感度設定により電圧分解能が変わることはありません。(1) 一部のオシロスコープでは最高電圧感度付近では拡大表示を行っています。 AnalogDiscovery2では漏れ込みがわずかであっても、電圧感度差があると漏れ込みが拡大表示されてしまう可能性があります。ただし、二つのチャンネルを同じような感度設定で使用する場合にはあまり問題はないでしょう。 図9 一般のオシロスコープにおけるアッテネータ、増幅器の設定 写真3はAnalogDiscovery2の内部です。CH1の回路とCH2の回路が並んで配置され、間にシールドは設けてありません。 写真3 AnalogDiscovery2の内部基板 写真4は約50万円のUSB接続のオシロスコープ内部です。CH1~CH4の回路は表も裏もすべて独立してシールドされています。コストが10倍異なるので当然かもしれませんが、計測器としての基本的なツボを押さえた造りと思います。この製品もクロストークに関して問題はありませんでした。 昔からデータシート上の性能に差がない場合には「サイズが大きな製品、重たい製品が良い」という意見があります。大きく重たい製品は金属による内部シールドがしっかりしている、また電源が強化されていることが多いからと思います。 写真4 計測器レベルの造りをしているUSB接続のオシロスコープの例