計測器を扱う際に気になるのは測定確度、どれくらい正しい値が得られるのかでしょう。
比較的高い測定確度が得られる計測器として、デジタル・マルチメータがあります。
図1は代表的なデジタル・マルチメータとその直流電圧測定確度です。
デジタル・マルチメータの測定確度は±(読み値の%+レンジの%)です。
校正を行った後の経過時間、また校正時の温度により若干確度は低下しますが、高い確度を維持しているといえるでしょう。
この機種で校正後1年間、校正時温度±2℃にて10Vレンジで電圧を測定、5.000000Vの測定結果になった場の確度は
±(5.000000×0.0030%+10×0.0004%)=±(0.00015+0.00004)=±0.00019V=±0.19mV
となります。

図1 デジタル・マルチメータの確度例
この測定確度とは。入力端子に加わった電圧をどれくらい正しく測定できるかということです。
実は計測器は回路の動作に必ず影響を与えます。
図2のようにデジタル・マルチメータによる電圧測定では回路にデジタル・マルチメータの入力インピーダンスが挿入されます。
デジタル・マルチメータの入力インピーダンスは10MΩと高いため、電源回路などの回路インピーダンスが低い回路の動作にはほとんど影響しません。

図2 デジタル・マルチメータの入力抵抗は一般的には十分に高い10MΩ
しかし、回路インピーダンスが高い場合には入力インピーダンスによる電圧降下が起こり、低下した電圧を本来の測定確度で測ることになります。
このような場合には入力インピーダンスを10GΩに変更できる機能を使いますが、デジタル・マルチメータから流れ出す漏れ電流が別の誤差要因になり得ますので注意が必要です。
オシロスコープの電圧確度はどの程度でしょうか。
オシロスコープはいろいろな波形を測定できますが、電圧確度は図3のように直流(DC)で定義されています。
オシロスコープの入力抵抗(オシロスコープの入力抵抗 1MΩないし50Ω)の影響を考慮した既知の直流電圧を入力、し、誤差を求めます。

図3 オシロスコープに基準の直流電圧を入力
図4は代表的なオシロスコープの電圧確度です。
確度は概ね1~2%、デジタル・マルチメータとは比較にならないほど確度は高くありません。
デジタル・マルチメータは変化しない電圧をなるべく正確に測定することが、オシロスコープは変化する電圧を測定することが役目ですから違いがあることは否めません。

図4 代表的なオシロスコープのDC電圧確度
図5はオシロスコープ同様に波形を測定するレコーダの確度です。
オシロスコープより対応できる周波数が低い分確度は高くなっていますが、12ビットの電圧分解能(1/4096)程の確度は得られてはいません。

図5 代表的なレコーダのDC電圧確度
オシロスコープは広い周波数範囲の信号を扱います。
信号には多くの高調波成分を含んでいるため、波形形状の再現性のためには周波数特性は平らであることが求められますが、現実の周波数特性は図6のようになります。
電圧確度は直流(DC)にて規定されます。
良く知られているように周波数帯域は感度(振幅)が-3dB(約30%減少)する周波数です。
肝心の周波数特性ですが、概ね周波数帯域の1/3程度まではほぼ平らになります。
ただし周波数特性は完全な平坦というわけではありません。
多少のずれは起こり得ます。
本来であればフラットネス±〇%と規定されて欲しいところですが、オシロスコープに関してはされていません。
元々の電圧確度が1~2%程度なのであまり気にしなくても良いと思われます。
(アナログ・ビデオの頃にはビデオ信号専用のオシロスコープともいえる波形モニターでは周波数特性のフラットネスが規定されていました)

図6 オシロスコープの周波数特性
オシロスコープを単独で使用するケースは多くはありません。
図7のようにほとんどのケースでは各種プローブを併用します。
付属の10:1受動プローブだけでなく、高速デジタル回路には高周波用のアクティブ・プローブ、パワー・エレクトロニクスには高電圧差動プローブや電流プローブが多用されます。

図7 オシロスコープと組み合わされる各種プローブ
もちろんプローブにも減衰比、変換比の誤差があります。
図8はオシロスコープに付属の10:1受動プローブの確度例です。

図8 受動プローブの確度例
10:1受動プローブの原理は図9にようになります。
プローブ内部の9MΩとオシロスコープの入力インピーダンス 1MΩにより10:1の減衰比を得ています。
それぞれの誤差が減衰比の誤差となって現れるため、図8のように組み合わせるオシロスコープと合わせた規定になっています。

図9 10:1プローブ 直流での減衰の原理