システム異常の瞬間をとらえる

オシロスコープの目的の第一は波形を観測することです。波形にはクロックなど繰り返しの安定した波形、爆発のように一回しか起こらない波形、デジタル・データのように不規則な波形・・・いろいろな波形があります。
機器が時々不安定な動作をする場合には、疑わしい箇所の波形を観測することになります。

最初に、図1のようにオシロスコープのトリガをオート・モードに設定して波形を繰り返し取り込み、目視観測を行います。この場合、重要なのは波形の見落としを最小限にすることです。オシロスコープで繰り返し信号を取り込み表示する場合に、その波形を100%表示することはできません。このデッドタイムを小さくするための1番の方法は、波形レコード長をできるだけ短くすることです。加えて、目視確認を容易にするため、波形表示モードは残像効果のある重ね書きにします。このモードは残光時間可変モード、パシスタンスモードなどと呼ばれます。
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図1 繰り返し取り込みで異常信号を見つける

図2は汎用オシロスコープとしては高速に波形更新を行えるキーサイト・テクノロジーの製品の表示例です。トリガ・レベルを波形振幅の中程に設定し、表示輝度を上げて観測します。繰り返しのデジタル・データ波形に振幅の小さなラント信号、幅の狭いパルスが確認できます。
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図2 キーサイト・テクノロジー製品のオシロスコープによる表示例

図3は横河計測のオシロスコープ、DLM3000シリーズで同じ信号を取り込んだ例です。DLM3000シリーズの波形メモリは初期設定で125kポイントと長めのため、波形取り込み速度を上げるためにマニュアル操作で最短の1.25kポイントに変更して取り込みました。波形更新速度はデータシートに記載はありませんが、実測で毎秒約1万波形と他社に比べると高速ではありません。しかし、10秒間波形を蓄積することで図3のようにラント信号、幅の狭いパルスを取り込めています。
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図3 横河計測のオシロスコープによる表示例

図4はテクトロニクス MDO4000Cシリーズでの取り込み例です。MDO4000Cシリーズでは高速波形取り込みモードがあり、波形メモリは最短の1kポイントに、また表示モードでは発生頻度に合わせて色を付けるモードになります。
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図4 テクトロニクスのオシロスコープによる表示例

このようにして発見された異常信号は拡張トリガにより簡単に捕捉できます。図5はラント・トリガとパルス幅トリガの設定です。ラント・トリガでは二つの閾値電圧で挟まれた部分、またはその逆の部分、さらに時間でマスクすることができます。
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図5 ラントトリガ、パルス幅トリガ

図6はラント・トリガの、図7はパルス幅トリガの例です。
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図6 ラント・トリガによる取り込み例

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図7 パルス幅トリガによる取り込み例

ラント・トリガ、パルス幅トリガでこれらの異常信号を捕捉することはできますが、何らかの原因で機器の動作が止まってしまった場合にはその瞬間をとらえることはなかなか困難です。
図8のようにクロックが突然止まってしまった場合、信号がなくなったことを検知して強制的に波形取り込みを停止すれば、トラブルの原因を突き止められるかもしれません。
このため最近のオシロスコープではタイムアウト・トリガを搭載する製品が増えています。
図8のように設定した閾値(トリガ・レベル)の上の状態、または下の状態が設定した時間に達した瞬間に波形取り込みを停止します。
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図8 止まる瞬間をとらえるタイムアウト・トリガ

図9はテクトロニクスMDO4000Cシリーズにおけるタイムアウト・トリガの例です。500mV以下の電圧が400ns以上続いた時点で強制的に波形取り込みを停止しています。ほかのチャンネルで疑わしい箇所の信号を観測することで原因を特定できるかもしれません。

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図9 タイムアウト・トリガによる取り込み例

図10は同じく横河計測 のDLM3000シリーズによる例です。
1.88V以下の状態が0.5μs続く状態を検出しています。
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図10 タイムアウト・トリガによる取り込み例

タイムアウト・トリガを搭載する製品が増えており、トラブルシュートの可能性を広げる有効な手段と思われます。使用にあたっては図11のようにトリガ位置をできるだけ波形メモリの最後に位置させると、観測時間を広く取ることができます。
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図11 タイムアウト・トリガでのトリガ位置