スイッチング電源のノイズを効率良く測る

機器の評価にあたり、動作を支える電源品質の確認は重要です。電源電圧、電源容量のチェックに加え、電源に含まれるノイズの確認も大切です。
機器に搭載される電源回路のほとんどは電力変換効率が高く、小型軽量が可能なスイッチング電源です。
図1は最も簡単なスイッチング電源の構造です。
商用電源は整流され直流に、スイッチング・デバイスでデューティ比が可変のパルスになり、トランスで昇圧または降圧された後に整流され、目的の直流電圧を得ます。発振周波数を高くすることでトランスを小型にすることができます。
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図1 スイッチング電源の構造

商用AC電源が整流、平滑された段階で商用電源周波数(50/60Hz)の2倍のリップル(ハム)が生じます。さらにスイッチングでは高周波(数100Hz)のスイッチング・ノイズが発生します。その結果、電源出力には低周波(100/120Hz)のノイズと高周波のスイッチング・ノイズの両方が含まれることになります。

(実際のAC/DC電源では力率改善のためにAC電源の電流を制御しているため動作はさらに複雑です。)

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図2 スイッチング電源の出力に含まれるノイズ

ノイズの評価にはオシロスコープを使用します。

スイッチング・ノイズはスパイク状のため高周波成分があり、サンプリング・レートは高速にしなければなりません。一方、電源周波数由来のノイズは100/120Hzのため、1周期分の取り込みには最低10msを取り込める記録長(レコード長)が必要になります。
図3はオシロスコープの入力カップルをAC結合に、電圧感度を20mV/divに設定し、初期設定のレコード長(10kポイント)でUSB充電器の電源ノイズを観測した結果です。
時間軸設定4ms/div(記録長 40ms)によりサンプル・レートは250ks/s、サンプル間隔は4μsになります。

この設定で得られるノイズのピーク・ピーク値は58.4mVになりました。
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図3 USB充電器の出力(5V)の測定例

サンプル・レート 250ks/sではスイッチング・ノイズを取り込むには不十分です。
レコード長を10kポイント⇒20Mポイント、2000倍に合わせてサンプル・レートは2000倍高速の500MS/s(サンプル間隔 2ns)に設定して取り込んだ結果が図4です。
これにより電源周波数由来のノイズ、スイッチング由来のノイズの両方を取り込むことができます。ノイズのピーク・ピーク値は92.8mVになります。

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図4 高速サンプル・レート&ロング・レコードでの測定例

図5のように画面中心を拡大するとスイッチング・ノイズも確認することができます。

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図5 時間軸拡大にてスイッチング・ノイズを観測

これは最もオーソドックスな方法です。しかし、適切なサンプル・レートとレコード長をマニュアル操作で設定する手間がかかります。
簡単にノイズを確認するためには波形取り込みモードの「ピーク検出」、メーカーによっては「エンベロープ」モードを使います。

ピーク検出モードではサンプル・レートに関係なく、最高サンプル・レートで取り得るピーク値を記録します。
図6はピーク検出の原理です。
A/D変換器は最高サンプル・レートで動作します。
一方、記録されるデータは設定したサンプル間隔(1/サンプル・レート)内における最大値と最小値になります。図6において記録ポイントではピークを捕らえていません。
このようにピーク検出では最高サンプル・レートで取り得るピークを確実に検出できます。

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図6 ピーク検出(エンベロープ)の動作

図7はレコード長 10kポイント、サンプル・レート 250ks/sにてピーク検出を行った例です。ピーク・ピーク値は108mV、高速サンプル&ロング・レコード時と同等の結果を得ることができました。
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図7 ピーク検出での測定結果

この例では図8のように記録間隔4μsの間に最高サンプル・レート 5GS/s(200ps時間分解能)で波形データを取り込む、つまり4μs間にある2万個のデータの最大値/最小値を記録しています。

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図8 図7でのピーク検出の様子

このようにピーク検出取り込みにより、容易にノイズピークを捕らえることができます。ただしピーク検出はあくまでも「帯データ」なので、波形データとして演算に使用することはできない点には注意が必要です。