スタブと反射 その2

スタブの動作、信号の分岐については伝送路を長くすることで低速信号でも確認できます。図1はファンクション・ジェネレータで発生したパルス波をオシロスコープに送る途中にスタブを挿入した実験です。
スタブがない場合、ファンクション・ジェネレータ ~ 同軸ケーブル ~ オシロスコープ(50Ωで終端)の経路は反射の無い伝送路が構成されています。

image-20231127124942627.png
図1 スタブの影響を調べる実験

スタブが無い状態でオシロスコープに到着した波形が図2になります。信号の立ち上がり時間は8nsです。
image-20231127125112187.png
図2 スタブがない場合の流れる信号波形

1mのスタブを接続すると波形は図3のように変形します。

image-20231127125136384.png
図3 スタブの影響

この様子をシミュレーションで検証した結果が図4になります。出力(TP3)の波形を見ると実験結果と一致することが解ります。

image-20231127125636661.png

図4 スタブの影響をシミュレーション

スタブ先端をショートすると図5に示すスパイク状の波形になります。

image-20231127125704388.png

図5スタブをショートしても波形は現れる

直流的に考えると出力端は接地されるために信号はゼロになりますが、スタブ先端で逆反射した反射波が遅れて戻るためスパイクが発生します。

image-20231127125834070.png
図6 スパイクの発生する理由

同じくシミュレート結果を図7に示します。

image-20231127125857984.png
図7 スタブをショートした場合のシミュレーション結果

今回は低速信号を使った実験ですが周波数が10倍、100倍になると1/10、1/100の長さのスタブで同様のことが起こります。信号が高速な場合は反射を考慮してインピーダンス整合を考えた接続が必要です。
50Ω系の場合、図8の様な分岐は適切でしょうか。

Tコネクタで分岐した部分は等長の同軸ケーブルと終端抵抗(50Ω)を接続します。一見正しいようですがTコネクタより右を見ると50Ωは並列、インピーダンスは半分の25Ωになり、Tコネクタ部分で反射が起こりジェネレータに戻ります。反射波はジェネレータで吸収されるので波形歪は起こりませんが、正しくは図9のようなパワースプリッタを用います。

image-20231127130005806.png

図8 不適切な信号分岐

パワースプリッタの出力には50Ωが直列に入るため、Tコネクタにて右を見たインピーダンスは50になり、反射波は起こりません。ただし出力端の電圧振幅は半分になります。

image-20231127130039045.png
図9 パワースプリッタによる信号分岐

線路長が信号の波長より十分に短い、信号が比較的低速な場合はインピーダンス整合を考慮することが少ないと思います。図10では1mと2mの同軸ケーブを使いパルスの周波数を1MHz/10MHzと変えてシミュレーションしてみました。

image-20231127130136205.png

図10 信号分岐の実験

周波数1MHz(パルスの立ち上がり時間 50ns)では目立った波形歪は確認できません。

image-20231127130156274.png

図11 低周波領域では反射の影響は顕著ではない

同じ実験回路にてパルスの周波数を10倍の10MHz、立ち上がり時間を5nsに設定しました。
するとインピーダンス不整合による反射による波形歪、そして同軸ケーブルの長さの差(1m)による遅延が確認できます。

image-20231127130233235.png

図12 高周波領域では反射の影響が顕著になる

目安としてインピーダンス不整合での接続は1MHz程度まで、その場合でも頭の片隅に同軸ケーブルによる遅延があることは思い浮かべておく方が良いと思います。