データシートから読み取る性能~トリガとバス解析

オシロスコープには信号波形の様子をモニターするだけでなく、特定の波形をキャッチする役目があります。この役目を掌る機能がトリガです。「トリガ」にはもともと「ピストルの引き金」という意味がありますが、オシロスコープでは「特定の条件を取り込むこと」を指します。

図1は代表的な周波数帯域500MHz~1GHzのオシロスコープに搭載されているトリガ機能です。
低価格の入門クラスの製品では基本のエッジ・トリガ、パルス幅トリガ程度の搭載になりますが、業務用クラスではさまざまなトリガ機能が用意されています。

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図1 代表的な汎用オシロスコープに搭載されているトリガ機能 (各社のデータシートより作成)

トリガ機能の基本はエッジ・トリガです。エッジ・トリガは図2のようにトリガ・レベルとスロープだけでトリガを定義します。

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図2 エッジ・トリガの定義

エッジ・トリガはオシロスコープだけでなく、周波数カウンタなどにも使われており、クロックなど形状の単純な波形の取り込みに向いています。
信号にノイズが含まれる場合にはエッジ・トリガが不安定になることがあります。そのため高周波/低周波のノイズを除去するためのフィルタ(高周波除去 HF Rejection/低周波除去 LF Rejection)が用意されていますが、信号、ノイズの周波数によっては十分な効果が得られないことがあります。
一般的に電子回路内部の信号ではノイズは多くはないですが、外部センサーからの信号、自動車機器など外部ワイヤハーネスの信号などノイズを拾いやすいケースでは、トリガ・レベルに幅を持たせてその範囲での変化ではトリガのかからないヒステリシスを持った製品が有効です。

エッジ・トリガ以外のトリガを拡張トリガと呼びます。その拡張トリガのうち、主にロジック信号の波形形状に着目したトリガがラント・トリガとパルス幅トリガです。 ラント・トリガは図3のように二つのトリガ・レベルを設定し、片方のしきい値を通過後にもう一つのしきい値に達せずに元のレベルに戻るような信号を検出できます。例えばバスに接続された二つのデバイスがプログラムのミスで同時にハイとローを出力した場合、ロジック的にハイでもローでもないラントが起こりえます。
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図3 ラント・トリガの例

パルス幅トリガは図4のように設定したパルス幅より狭い、または広いパルスを検出できます。
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図4 パルス幅トリガの例

組み込みシステムの検証で便利な拡張トリガが低速シリアルバス・トリガです。図5は低速シリアルバス・トリガの代表、I2Cの例です。オシロスコープでSCLKとSDAを取り込み、指定したアドレス、データ、さらにエラーを検出しトリガをかけられます。
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図5  I2Cの例

低速シリアルバス・トリガのオプションではバス解析も行えます。図6は横河計測 DLM3000シリーズによるI2Cへのトリガとバス解析の例です。

この例ではアドレス50HのWrite、DATA 17Hでトリガ、さらにロング・レコードで取り込んだ波形からトリガ・ポイント前後のバスの流れを画面上に表示しています。
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図6  I2Cへのトリガとバス解析の例

低速シリアルバス・トリガ&解析機能は大変便利な機能ですが、I2Cでは二つの入力チャンネル、SPIでは三つの入力チャンネルを必要とします。もちろんアナログとしての信号品質を確認するためにはオシロスコープの入力が便利ですが、低速シリアルバス・トリガでは高速シリアルバス・トリガのように反射などによる信号形状の変化はあまり問題にはなりません。あくまでロジック信号としてのハイ/ローが分かれば問題ありません。

そのため、アナログ入力信号とは別のロジック入力(ミックスドシグナル・オシロスコープ)の活用が有効です。ロジック入力は図7のように入力信号をコンパレータでハイ/ローに分別、アナログ入力のA/D変換器と同期して別のメモリに記録します。

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図7 ロジック入力の動作イメージ

ロジック入力の構成、電気的性能は製品により違いがあるため、より高速なロジック信号を測定したい場合には性能スペックを確認しましょう。低速のロジック信号を前提にした製品と、高速ロジック信号まで視野に入れた製品には大きな差があります。確認するポイントは以下になります。

●ロジック・プローブの入力インピーダンス(入力抵抗、入力容量)
●チャンネル間スキュー(時間ずれ)
●最高サンプル・レート&レコード長

バス解析ではあえてアナログ入力を選ぶこともあります。オートモティブで多用されるバスにCANがあります。
CANの伝送レートは最高でも500kbps~1Mbps程度なので決して速いわけではありませんが、長いワイヤハーネスで装置間が結ばれている、また近傍に多くのノイズ源があるため耐ノイズ性能の高い差動伝送を採用しています。図8はHigh Speed CANの電圧レベルです。
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図8  High Speed CANの電圧レベル

もちろん片方のCAN_HまたはCAN_LにプロービングすることでCAN信号へのトリガ、バスのデコードは可能ですが、ノイズの多い環境で使われるCANではバスに飛び込むノイズの観測が求められることがあります。その場合はオシロスコープ付属のパッシブ・プローブではプローブ自体がノイズを拾う恐れがあります。

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図9 プローブが外部からのノイズの影響を受ける恐れがあるプロービング

対処方としては耐ノイズ性のある差動プローブの使用がお勧めです。差動プローブはプラスマイナス両入力の引き算を行うため、プローブに飛び込むノイズを打ち消すことで耐ノイズ性能が高くなります。
しかし同時にCANの差動ラインに飛び込む同相ノイズも打ち消してしまいます。
このため差動プローブで差動信号のプラス-マイナス間波形を観測するだけでなく、マイナス入力をグラウンドに接続、プラス入力の信号をCAN_HないしCAN_Lに接続することで伝送線路に飛び込むノイズを観測できます。

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図10 差動プローブをシングル入力として使用する

このように、バスの特性に合わせて適切なプロービングを選択することが大切です。