データシートから読み取る性能~時間軸

身近な計測器の代表、オシロスコープ。製造メーカーが少なくなった時期もありましたが、最近では個人向け、入門クラスを中心にメーカーも増えてきました
オシロスコープの構造はどのメーカーの製品もよく似ており、図1のようになっています。数mVの微小電圧から数10Vの信号まで、A/D変換器の入力レンジに合わせるためにアナログ部には減衰器と増幅器があります。
すべてのチャンネルの信号は各チャンネル別のA/D変換器で同時にデジタル化され、波形メモリに記憶されます。
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図1 オシロスコープの基本構造

さて、時間軸に関する性能を代表的な製品、3機種を例に確認します。図2は各社カタログ、データシートからの抜粋です。
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図2 代表的な汎用オシロスコープの性能

横河計測 DLM3000シリーズの場合
横河計測のDLM3000シリーズには周波数帯域200MHz/350MHz/500MHzの3モデルがあり、最高サンプル・レートは全チャンネル2.5GS/sです。
(前モデル、DLM2000シリーズでは3~4チャンネル動作では最高サンプル・レートは1.25GS/s、1~2チャンネル動作で2.5GS/sでしたが、DLM3000シリーズでは全チャンネル動作で2.5GS/sに向上しました)

DLM3000シリーズの波形メモリの特徴として、最長の波形メモリが繰り返し信号の取り込みと単発信号の取り込みでは異なることが挙げられます。
波形メモリは繰り返し取り込みでは標準で各チャンネル12.5Mポイント(オプションで25Mポイントないし50Mポイント)、単発取り込みでは各チャンネル50Mポイント(オプションで125Mポイントないし250Mポイント)が選択できます。また、チャンネル数を減らしてCH1ないしCH3のみ使用時には、単発取り込みでは125Mポイント(オプションで250Mポイントないし500Mポイント)が得られます。実際の使用ではロング波形メモリは単発取り込みで行うことが多くなるでしょう。
このように、DLM3000シリーズは、単発取り込みでの長時間記録を重視した設計と思われます。

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図3 横河計測 DLM3000シリーズの波形メモリ

DLM3000シリーズの最高周波数帯域は500MHz、これからステップ応答は

Tr(ns)=350/BW(MHz)

より0.7nsになります。

立ち上がり時間が概ねこの4倍のエッジであればほぼ鈍ることなく観測可能になり、0.7ns×4=2.8nsが取り込み可能な最速エッジになります。
図4はこのエッジを最高サンプル・レート2.5GS/s(サンプル間隔0.4ns)で取り込んだイメージです。
サンプルされた波形データは主にサイン補間されますが、エッジ部分に4~5ポイントのサンプルがあれば波形再現性は良くなります。
DLM3054はこの条件を満たしており、周波数帯域と最高サンプル・レートのバランスは良いと思われます。

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 図4 横河計測 DLM3054の取り込み可能最速エッジとサンプル・ポイント

テクトロニクス MSO4シリーズの場合
テクトロニクスのMSO4シリーズには4チャンネルと6チャンネルのモデルがあります。周波数帯域は200MHz/350MHz/500MHz/1GHz/1.5GHzから選択、後日アップグレードが可能です。最高サンプル・レートは全チャンネル6.25GS/s、波形メモリは各チャンネル最大31.25Mポイント、オプションで2倍の62.5Mポイントが選択できます。
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図5 テクトロニクス MSO4シリーズの波形メモリ

MSO4シリーズの1GHzモデルを例に考えると、立ち上がり時間1.4nsのエッジまで観測可能です。図6はこのエッジを最高サンプル・レート6.25GS/s(サンプル間隔0.16ns)で取り込んだイメージです。横河電機のDLM3000シリーズ同様に周波数帯域と最高サンプル・レートのバランスは良好と思われます。周波数帯域1.5GHzのモデルの場合も周波数帯域と最高サンプル・レートのバランスが良好です。
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図6 テクトロニクス MSO4シリーズ(1GHzモデル)の取り込み可能最速エッジとサンプル・ポイント

キーサイト・テクノロジー4000Xシリーズシリーズ

キーサイト・テクノロジーのMSOX4000A(ロジック・チャンネルを省いたDSOX4000Aもあり)は、ほかの2社とは少し異なった設計方針のようです。
実際に使用してみると、「ブラウン管式超高輝度アナログ・オシロスコープをデジタルで実現」した印象を受け、波形の目視観測能力を重視した設計と思われます。事実、波形更新レートでは高性能です。

データシートの記載では最高サンプル・レートはハーフ・チャネル(2CH時)使用時に5GS/s、全チャネルでは2.5GS/sとあり、図7におけるA/D変換器は2.5GS/sになります。波形メモリは4チャネルでは2Mポイント、ハーフ・チャネル使用時にはチャンネルをマージして4Mポイントになります。

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図7 キーサイト・テクノロジー MSOX4000Aシリーズの波形メモリ

図8はテクトロニクスMSO4シリーズと同じく立ち上がり時間1.4nsのエッジを全チャネル使用時に取り込んだイメージです。
最高サンプル・レートが2.5GS/s(サンプル間隔0.4ns)になるため、サンプル・ポイント数が少なくなりますが、波形観測に支障が出ることはないと思われます。

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図8  キーサイト・テクノロジー MSOX4000Aシリーズ(1GHzモデル)の取り込み可能最速エッジとサンプル・ポイント

 最高サンプル・レートで取り込める最大時間は?

オシロスコープの能力を表すものの一つに「最高の時間分解能(最高サンプル・レート)で取り込める最大時間」があり、

最大取り込み可能時間=最短のサンプル間隔×最大メモリ

になります。図9は全チャンネル取り込み、最高サンプル・レートにて最小メモリ~最大メモリでの可能な記録時間を示します。
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図9 メーカーで異なる波形メモリの設計思想

クロックなどの単純な波形の観測では波形メモリは短い方が有利です。横河計測のDLM3000シリーズでは最短メモリ1.25kポイントで0.5μs、時間軸設定では50ns/divになります。10MHzのクロックでは5周期分の表示になります。
逆の50Mポイントでは20msの記録が可能ですから、50Hzの信号が1周期丸々記録できます。これはスイッチング電源の波形観測に有効です。
横河計測の製品とテクトロニクスの製品の傾向は似ていますが、違いは周波数帯域によると思われます。
一方、キーサイト・テクノロジーの製品では、実機で確認したところ、波形メモリは時間軸設定(Time/div)で自動的に変化します。
詳しくは公開されていませんが、動作を調べると、4M(2M)ポイントの波形メモリは単発取り込み時に有効のように思われます。
これは波形取り込み速度、1秒間に取り込める波形数を重視した「見えるオシロスコープ」実現のため、逆に長時間記録に重みを置かなかった設計なのかもしれません。