トリガの基本動作を理解する

トリガの役割は時々刻々変化する信号の中から目的の信号で「波形取り込みを停止、表示する」ことです。
アナログ信号が多かった頃は簡単なエッジ・トリガ、トリガ・ホールドオフで多くは事が足りましたが、デジタル時代になるとさまざまなトリガ機能が必要になりました。
確実に信号を取り込むためにもトリガの基本をしっかり理解しましょう。

トリガがないとどうなるか?
興味がある方はマイクで取り込んだ音声の波形や周波数解析のできるスマートフォンのアプリがありますので確かめてみてください。
ほとんどのアプリではトリガ機能がなく、勝手に波形を取り込み、表示を繰り返します。
図1のように表示する時間基準がないために、いろいろなタイミングで取り込んだ波形が次々と表示されてしまい、安定した波形表示はできません。

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図1 トリガがかかっていない状態

基本のエッジ・トリガ
そこで時間基準を決める方法としてすべてのオシロスコープに搭載されている機能がエッジ・トリガです。
エッジ・トリガは信号レベルの変化を検出します。
これにより図2のように変化(エッジ)を検出し、連続波を安定して表示できるようになります。

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図2 トリガで安定した波形表示

エッジ・トリガで設定する要素は二つ
● 直流で設定するトリガ・レベル
● 立ち上がりエッジか立下りエッジかを選ぶスロープ

図3のようにトリガ・レベルとスロープを設定します。

トリガ・レベルを上に切るか(スロープ プラス)か下に切る(スロープ マイナス)ポイントがトリガ・ポイントになります。

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図3 エッジ・トリガの定義

図4は1500mVを上に横切るポイントをトリガとして設定、図5は下に横切るポイントをトリガに設定した例です。
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図4 スロープがプラスの場合

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図5 スロープがマイナスの場合

実機を使わないと分かりにくいトリガの感度
データシートにあまり記載されない性能にトリガ感度があります。
振幅が大きな信号、周波数の低い信号の場合はどのオシロスコープでも安定してトリガがかかります。
しかし信号振幅が小さい場合、図6のようにトリガ感度が低いオシロスコープではトリガが不安定になります。どの程度の振幅の信号までトリガがかかるのか、この性能をデータシートにはあまり記載されていないようです。ロジック信号を観測する限りはあまり問題になりませんが、ノイズの観測など、低振幅の信号確認では大切な性能になります。
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図6 信号振幅が小さい場合にもトリガが安定してかかるかどうか

また、低周波の信号では安定したトリガが得られても、周波数が高くなると図7のようにトリガ感度は低下します。トリガの周波数帯域とでもいえる性能ですが、この点も押さえておきましょう。

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図7 周波数が高くなるとトリガ感度は低下するが製品差も大きい

一回しか起こらない信号を待ち受け、取り込む
信号は繰り返しである必要はなく、図8のように一回しか起こらない波形でも可能です。
Singleボタンを押すか、波形取り込みモードをシングルに設定し、トリガ条件を満足すると波形を取り込みます。最近では独立したSingleボタンを持つ製品が多いようです。

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図8 一回しか起こらない信号を待ち受け、取り込む

トリガの位置は積極的に変えたい
トリガの横位置は初期設定では真ん中(センター・トリガ)ですが、前後に動かすことができます。

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図9 トリガの位置は任意に変化できる

図10のようにトリガ以前のデータが不要の場合は、トリガ位置を前方にすることで時間軸を2倍速くし、画面を有効に使うことができます。

トリガ位置は水平軸の位置調整で設定できます。

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図10 着目したい信号がある場合はトリガ位置を先頭にすると時間分解能を2倍にできる

逆にトリガ以前を観測したい場合は図11のようにトリガ位置を後方に設定します。
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図11 起こった現象の原因を探るときはトリガ位置を後方にする

どの信号をトリガに選ぶのか
トリガのメニューを開くと、トリガとして使う信号を選ぶトリガ・ソースがあります。
図12のように2チャンネル以上の信号の取り込みでは、トリガ・ソースの選択は大切です。

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図12 どの信号をトリガに選ぶかで波形の見え方が変わる

図13はCH1の立ち上がりエッジをトリガとした例です。

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図13 CH2の波形が重ね書き

CH1は止まっています。CH2は止まっていますが重ね書きになってしまいました。
これはCH1のすべての立ち上がりエッジがトリガになり得るからです。

そこで図14のようにCH2をトリガとするとCH1、CH2ともに同じ位置にトリガが来ることがわかります。

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図14

オシロスコープのトリガ設定でトリガ・ソースからCH2を選ぶと図15のように期待した結果になりました。

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図15 トリガ信号としてCH2を選択

トリガの安定しないノイズの多い信号
トリガに使う信号にノイズが多い場合、トリガが安定しません。
図16はスロープ プラスの例ですが、左側の立ち上がりエッジの微小部分を見るとトリガ・レベルを切るポイントがずれて存在します。このため波形が左右にぶれてしまいます。
また右側の立下りエッジでは立ち下がり部分にもノイズによる立ち上がりエッジが存在します。このためプラス・マイナス両方でトリガがかかってしまいます。
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図16 ノイズにより不安定になるトリガ

ノイズの影響を低減するために二つの方法があります。一つはトリガ・フィルタです。高周波除去(HFリジェクト)、低周波除去(LFリジェクト)があり、ノイズの種類により選択します。
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図17 トリガ・フィルタによるノイズの低減

またトリガ・レベルにヒステリシスを持たせた製品もあります。図18のようにあるレベル範囲では変動分を無視することでノイズの影響を低減します。
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図18 ヒステリシスによるノイズの低減

アベレージ取り込みでは安定したトリガが必須条件
信号にノイズが多い場合には、複数回波形を取り込み、平均するアベレージが有効です。ノイズを減らせるだけでなく、演算によりA/D変換器の分解能以上に細かく取り込むこともできます。
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図19 アベレージでは確実なトリガが必須

エッジ・トリガはトリガ機能の基本です。しっかり動作を確認してください。