一般の計測器の形状はベンチトップ型で、電源には商用電源を使い形、大きくて重量があります。
計測器の使命、より正確に、より細部まで測り、解析するためにはハードウエアの高性能・高機能化が必須です。
一方で「現場測定器」と呼ばれる計測器はバッテリーで動き、堅牢かつ手軽に持ち運べることが求められます。
それらの多くは工場内外、建設・土木現場などで使われていますが、電子計測器のカテゴリでは手軽に使えるデジタル・マルチメータがよく知られています。
図1は代表的なハンディ型デジタル・マルチメータです。
表示桁数は4~5桁、確度もベンチトップ型にはおよびませんが、手軽に直流/交流電圧・電流、抵抗を測定できるためエンジニア必携のツールといえるでしょう。

図1 代表的なハンディ型デジタル・マルチメータ
同じメーカーから市販されているベンチトップ型、ハンディ型、両方の性能・機能を表1で比較します。

表1 キーサイト・テクノロジー製の二つのデジタル・マルチメータ
計測器の命ともいえる電圧確度、表示桁数はベンチトップ型が100倍以上優れています。
その一方で機能面では入力抵抗はどちらも10MΩ、電圧測定で計測器が回路に与える影響を示すこの値は同じです。
交流電圧測定に関してはどちらも波形歪によらず実効値測定が可能、周波数範囲も極端な違いはありません。
(この機種では実効値測定に対応していますが、多くのハンディ型の場合、交流電圧測定は平均値測定になるため波形歪の多い場合は実効値との差異が発生する点に注意)
ただし、ハンディ型には搭載されていないものがあります。
回路インピーダンスが高い場合には有効になる入力抵抗は10GΩ以上です。
さらに接触抵抗の不安定要素を排除して、電流シャント抵抗などの低抵抗値を安定して測定できる4線式測定もハンディ型にはありません。
これらの特殊なケース以外で高い確度を必要としない場合には、ハンディ型は便利に使用できます。
デジタル・マルチメータと同じく、エレクトロニクス・エンジニアがよく使用するツールにオシロスコープがあります。
種類は多くありませんが数機種ハンディ型が市販されています。
図2は代表的なハンディ型オシロスコープです。
寸法の制約もあり2チャンネルの製品が目立ちますが、片手にのせて計測できる大きさ、重量に収まっています。

図2 代表的なハンディ型オシロスコープ
表2に各製品の主な性能・特徴を示します。
周波数帯域は200~500MHz、特に高速信号を測定するのでなければ多くの波形観測に使用できます。
パルス波形を測定する機会が多いと思いますが、周波数帯域500MHzでは立上り時間は0.7s、立上り時間2~3ns程度までのパルス信号に対応できます。
ただし、サンプル・レートには注意が必要です。
ここで取り上げたすべての製品が複数のチャンネルを統合してサンプル・レートおよびレコード長を向上するインターリーブ方式を採用しているため、フル・チャンネル使用時は最高サンプル・レートが得られません。
特に高速信号の観測時にはサンプル・レートに注意する必要があるでしょう。
レコード長に関してはベンチトップ型にはおよびませんので、サンプル・レートを高く保ったままでの長時間の記録には向きません。
時間軸設定を遅くした場合にはサンプル・レートが下がり気味になりますので、アンダーサンプリングには注意が必要です。

表2 代表的なハンディ型オシロスコープの性能
このように性能的にはベンチトップ型におよびませんが、1点優れた機能があります。
それは多くの製品で絶縁入力が実現されていることです。
例えば電源周辺の波形測定ではプローブのグラウンドが問題になることがあります。
図3のように一般のオシロスコープではすべてのチャンネル・グラウンドは共通で筐体に接続されています。
このためプローブのグラウンド経由で予期せぬショートを起こすことがあります。
ショートにより測定できないばかりか、機器の故障、プローブの損傷も起こり得ます。

図3 非絶縁入力のオシロスコープではグラウンドに注意
ハンディ型オシロスコープは商用電源を使わないために機器全体が大地グラウンドから浮いているだけでなく、多くの製品ではチャンネル間のグラウンドも独立した絶縁設計になっているため、図4のように自由にグラウンドを接続することができます。

図4 絶縁入力の場合はグラウンドの自由度が高い
ハンディ型ではありませんが小型・軽量、オプションでバッテリー動作が可能なオシロスコープがテクトロニクスから販売されています。
性能的には最近のベンチトップ型にはおよびませんが、商用電源の得られない環境で測定する場合に便利な製品です。

表3 バッテリー動作が可能なテクトロニクス MSO2シリーズ
オシロスコープに加え、ハンディ型スペクトラム・アナライザも販売されています。
図5は代表的なハンディ型スペクトラム・アナライザです。

図5 代表的なハンディ型スペクトラム・アナライザ
表4で各製品の主な性能・特徴を示します。
カバーする周波数上限が6GHzであり、無線機器などのフィールドでの測定に向いた製品です。
テクトロニクスの製品はノートパソコンと組み合わせて使用しますが、最近のベンチチップ型同様にリアルタイム解析機能を備えた製品です。
無線LANのトラブル対策などリアルタイム解析が求められる場合に有効です。

表4 代表的なハンディ型スペクトラム・アナライザの性能