オシロスコープを使用して波形観測を行う際、同軸ケーブルでダイレクトに信号が入力されるケースではあまり問題はありませんが、多くの場合プローブを使用します。測定環境の電磁ノイズが少ない場合は良いですが、多い場合にはプローブが拾ってしまうノイズが問題になることがあります。図1はモジュール間のワイヤハーネスに飛び込むノイズを確認するためにプローブを使用した例です。プローブのグラウンド線がつくるループが磁界センサとして働いてしまい、周辺ノイズを取り込んでしまいます。図1 プローブのグラウンド線が拾うノイズに注意この影響を軽減するためには図2のように最短のグラウンド線を使います。プローブに同梱されたアクセサリに含まれていますが、スズメッキ線などで代用可能です。図2 最短グラウンド線でノイズを低減するプローブが受けるノイズの有無は図3のようにプローブ先端をショートすることで確認できます。この確認でノイズがなければOKですが、プローブ自体がノイズを受けてしまう場合には別の方法を検討します。図3 プローブのノイズ耐性をチェック図4はアクティブ・プローブの一種、差動プローブの構造です。プローブ先端に差動増幅器が内蔵されています。低電圧向けの差動プローブは数Vの信号を扱えるように、またアンプ自体の入力容量の影響を低減するために減衰器経由でプラス/マイナス入力の信号が差動増幅器に入力されます。増幅器の出力は50Ωの伝送路でオシロスコープに導かれます。差動プローブの中には減衰器の減衰量を変化させ、幅広い入力電圧に対応できる製品もあります。図4 差動プローブの内部構造差動プローブはプラス/マイナス入力の引き算を行うために、同じ入力信号はキャンセルされ出力されません。そのため両入力に同じノイズが加わった場合、キャンセルされる、つまりノイズに強いメリットがあります。図5 差動プローブでは同相のノイズはキャンセルされる差動プローブは本来逆相で送られる差動信号または任意の2点間の電位差を測定するものですが、図6のようにマイナス入力を接地すると通常のシングルエンド入力として使うことができます。図6 差動プローブをシングルエンドで使う図7はオシロスコープ付属の10:1パッシブ・プローブと差動プローブを比較した結果です。どちらも電圧感度 1V/div、プローブ先端は解放です。プローブ自体の耐ノイズ性を確認するためにパッシブ・プローブのグラウンド線は取り外し、差動プローブは先端のアクセサリを付けていません。プローブ近傍で電子ライターのイグナイタを動作させて発生する放電ノイズの影響を確認しました。パッシブ・プローブ(CH1)には鋭いノイズが確認できますが、差動プローブ(CH2)ではわずかです。図7 プローブ単体ノイズでの耐性の比較次にプローブを基板に接続、回路信号を確認しました。CH2(差動プローブ)にも低レベルのノイズが確認できます。プローブ自体の受けるノイズがわずかであることを考慮すると、CH2で確認できるノイズは回路基板が受けたノイズと思われます。図8 回路信号を観測した場合このようにノイズ環境下での計測に差動プローブは大変有効です。差動プローブの同一信号を除去する能力は同相成分除去比(CMRR Common Mode Rejection Ratio)で性能表示されています。図9は同相成分除去比の評価方法とテクトロニクス TDP1000の同相成分除去比です。除去能力は周波数で変化し、周波数が上がるほど除去能力は低下します。図9では1MHzにて50dB以上なので同相成分は約1/300以下に減衰できることになります。図9 同相成分のキャンセル能力を示す同相成分除去比の例このように差動プローブは耐ノイズ性の面でも優れています。