オシロスコープの各入力チャンネルのグラウンドは共通です。一部のスイッチング回路や電源回路以外では、回路のグラウンドが共通です。そのためかこのような質問を受けることがあります。「複数の信号を測定するときはプローブのグラウンドは一つ取れば良いと先輩から教わったのですが・・・」もちろんほとんどの場合間違いです。その理由を解説します。電力計、データレコーダ、データロガーなどでは個々の入力端子のグラウンドは絶縁されています。絶縁入力を実現するためには図1の方法があります。一つはアナログ段階で信号を絶縁してからデジタル化する方法、もう一つはデジタル化した後に絶縁してデジタル・データを扱う方法です。前者では直流&低周波信号を光絶縁で、高周波信号をトランスで結合していますが広帯域化が容易ではありません。後者ではA/D変換後のデジタル・データを絶縁しますが、データレートの高速化が容易ではありません。周波数帯域は最高200MHz程度になるため、ほとんどのオシロスコープでは絶縁入力は採用されず全チャンネルのグラウンドは共通でシャーシに接続されています。もちろん電源、パワー・エレクトロニクスの測定では絶縁測定が求められるため、高電圧差動プローブや光絶縁プローブを併用します。図1 絶縁入力を実現する方法図2のように通常のオシロスコープで4つの信号を測定するケースを考えてみます。図2 オシロスコープで複数の信号を観測する● オシロスコープの各チャンネルのグラウンドは共通● 各信号源のグラウンドも共通そのため図3のようにグラウンドは1箇所取れば良いと考えがちです。図3 プローブ・グラウンドを1箇所だけ接続極端な場合、測定ターゲットとオシロスコープの筐体を別のリード線で接続、プローブのグラウンド線を使用しないケースも散見されます。図4 ターゲットとオシロスコープを別リード線で接続CH1とCH2を使用して5MHzと1.25MHzのパルスを測定した例が図5です。ここではCH2のプローブのみ、グラウンドを取りました。するとCH1の波形が大きく歪んでしまいます。図5 CH2のプローブだけグラウンド線を接続CH2の波形は問題ないようです。この原因は図6を見ると理解できます。下側のCH2ではプローブに加えられた波形は電流となってプローブケーブル~オシロスコープの入力抵抗/入力容量を通り、プローブケーブル外側のシールド部を通り信号グラウンドまで戻ります。一方、CH1ではオシロスコープ入力まで伝わった信号電流は入力抵抗/入力容量を通ったあと、シャーシを流れCH2入力コネクタ~CH2プローブの外側シールド部を流れ、さらに測定回路のグラウンドを経由して信号源まで戻ります。プローブは信号をピックアップするとだけ考えると忘れがちですが、プローブの有限のインピーダンスをもつ電気回路ですから負荷になり電流が流れます。電流には必ずリターン回路が必要です。図6 プロービングにおいてリターン回路は正確な波形測定の必須事項正しくCH1、CH2ともにプローブ・グラウンドを取った場合、図7のように正しい波形が表示できます。図7 正しくグラウンド線を接続した場合この場合は図8のようにCH1、CH2ともにそれぞれのリターン回路があるため正しく測定できるわけです。図8 リターン回路があれば測定回路は本来の信号を観測できる「プローブのグラウンドは1箇所で、今まで問題なかったのですが・・・」それは信号に高い周波数成分がなかったためです。シャーシの持つ寄生インダクタンスが影響しないような周波数領域では共振現象が起こらないため、波形歪が起こらなかったわけです。音声周波数ならば問題ないでしょう。しかし制御信号の領域になるとそうはいきません。プローブを流れる信号電流は「プローブ芯線→オシロスコープ入力部→プローブのシールド外被→グラウンド線→信号源のグラウンド」を流れるように、グラウンド線はなるべく信号源近くに接続するようにしましょう。信号の速度が速くなると基板上の各シグナル・グラウンド間に電位差が生じます。グラウンドのインピーダンスは決してゼロではなく、直流抵抗(DCR)だけでなく寄生インダクタンスが存在します。信号の電流変化(di/dt)が増加すると逆起電力によりグラウンド電位が変化するため、より良い波形測定には差動プローブが推奨されます。図9のように差動プローブのマイナス入力をグラウンドに接続することで、各シグナル・グラウンドを基準に波形を測定できます。
図9 差動プローブでシグナル・グラウンドの変動に対応 また図10のように送受信分が離れている場合にも差動プローブは有効です。図10 ハーネスで離れた2点間の波形を測定写真1 代表的な差動プローブ