プローブ・アクセサリを使う時の注意点

半導体、抵抗、コンデンサの物理的サイズが大きかった時代、オシロスコープのプローブ先端を測定ポイントにアクセスすることは容易なことでした。現在では物理的サイズの小さいチップ抵抗、コンデンサが当たり前になり、プロービングは容易ではありません。
そこで、少しでもプロービングを容易にするためにアクセサリが用意されています。
図1は横河計測から発売されているオシロスコープ DLM3000シリーズの付属プローブ用のアタッチメントです。小さなテストポイントにアクセスできるような形状になっています。便利なアクセサリですが、使う上で注意すべき点はないでしょうか?

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図1 プローブの先端を延長するアタッチメント

計測器メーカーにおいてプローブの性能評価やキャリブレーションは、図2のように信号発生器に直接接続できるアタッチメント、BNC-プローブチップ・アダプタと終端抵抗を信号発生器の出力コネクタに直接取り付けて行います。プローブのグラウンド線、プローブ先端のフックチップなどは、一切取り外した状態です。

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図2 計測器メーカーにおけるプローブの性能評価設定

プローブの入力抵抗、特に入力容量の大きさで信号の立ち上がり時間が影響(プローブの負荷効果)を受けますが、それを含めてプローブの性能(周波数帯域、立ち上がり特性)を評価します。

この状態に近付けて測定するためのアクセサリも用意されています。図3は同じくDLM3000付属プローブ用の別売アクセサリです。

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図3 基盤に取り付けるアダプタ

のような基盤に直接取り付けるアダプタによるプロービングは理想的といえますが、デバイスの評価ボードなど、特定の使い方に限られます。
そこで、近似的な方法として、最近のプローブにはスプリング状の短いグラウンド線が付属されています。
配線の持つ寄生インダクタンスは1cmあたり約10nHです。この寄生インダクタンスは図4のようにプローブの入力容量と直列共振回路を形成します。共振周波数はグラウンド線1cmの場合は約500MHz、標準のグラウンド線の長さを15cmとすると約130MHzになります。共振周波数500MHzはオシロスコープ DLM3054の周波数帯域500MHzの扱う信号には、ほとんど悪影響を与えません。
一方、15cmのグラウンド線による共振周波数130MHzは悪影響が懸念されます。
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図4 プローブのグラウンド線の影響

実験でグラウンド線の影響を確認
図5はプローブが信号に与える影響とプローブの信号再現性を確認する実験です。
今回は横河計測 DLM3054(周波数帯域500MHz)と付属プローブを使用しましたが、ほかのオシロスコープでも同様に確認ができます。
周波数帯域500MHzのオシロスコープの立上り時間は0.7nsのためその約4倍の(立上り時間)2.8ns程度までのパルスエッジはほとんど鈍らずに再現できます。今回は機材の関係で立上り時間約2nsのパルスを使用しました。
パルス・ジェネレータからの信号は入力インピーダンスを50Ωに設定したCH1に入力します。
● CH1に到達した信号はプローブの影響を受け、その結果が表示されます。
● CH2にプローブを接続し、CH1入力に取り付けたTコネクタ部の信号を観測することで、プローブの信号再現性を確認できます。

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図5 プローブの負荷効果と信号再現性の確認実験

図6は最短のグラウンド線を使用した場合です。プローブ挿入前のCH1の立ち上がり時間2.3nsはプローブの影響により2.4nsに変化、これがプローブの負荷効果です。CH2、プローブの信号再現性は良好で立上り時間もほぼ変化はありません。つまり、最短のグラウンド線を使用すればフルに性能を引き出すことができます。
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図6 付属の最短のグラウンド線を使用

図7は標準のグラウンド線(15cm)を使用した場合です。
CH1ではより大きなプローブの影響が確認できます。つまり、プローブにより源信号が歪んでしまったことになります。CH2では共振現象が確認できます。この状態では果たして満足な波形観測が行えているのか疑問が出てきます。

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図7 共振現象の発生した例

プローブ先端を測定ターゲットに直接当てることが困難なケースは少なくありません。そのようなケースでは、図8のようにターゲットに引き出し線を取り付けてプローブを接続することもあります。
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図8 プローブ先端にリード線を付加

この場合、さらに寄生インダクタンスがプローブ先端に追加されることになります。図9はその結果です。予想通り、結果はさらに悪化、もはや波形が観測できているとは言えないと思われます。

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図9 プローブ線先端に5cmのリード線を追加

直列に抵抗(ダンピング抵抗)を挿入することで直列共振を抑えることができます。図10のようにリード線の代わりに100Ωのリード抵抗を使用します。

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図10 ダンピング抵抗の活用

図11は抵抗を挿入した結果です。最短のリード線よりは劣りますが、源信号への影響は少なくなり、波形再現性も良くなります。ただしCH2の立ち上がりが鈍っています。これは抵抗の影響です。
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図11 ダンピング抵抗の有効例

最短のグラウンド線がベストであることは言うまでもありません。しかし、現実では最短でのプロービングが困難なケースは少なくありません。現実解としてダンピング抵抗の併用は有効と思います。