メーカーが異なると測定結果は変わる?-1

長年、同じ計測器を使い続けることはよくあることです。
また取引先と同じ計測器を使いたい、また使って欲しいということもあります。
操作に慣れていて誤動作させにくい、またほかの計測器に変えた場合に確度に不安があるということもあります。しかし、使いたい計測器が販売中止の場合、後継機があれば良いですが、それもない場合にはほかのメーカー、または同じメーカーであってもクラスの異なる製品を導入することになります。
異なるメーカーの計測器の入れ替えを行っても問題はないのか、または注意すべき点があるのかどうか考察してみます。

デジタル・マルチメータの場合
代表的な同クラスのデジタル・マルチメータを比較するためということで、キーサイト・テクノロジーの34465A、ケースレーのDMM6500を取り上げます(写真1)。

どちらもベンチトップ型でデータのロギング、外部PCへのデータ出力が可能な61/2桁表示の製品です。

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写真1 同クラスのベンチトップ型デジタル・マルチメータ

DC電圧測定では差があるのか?
表1はDC電圧確度です。
校正時の温度±5℃における校正後1年で保証されている値です。

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表1 DC電圧確度の比較

デジタル・マルチメータの確度はほとんどのメーカーで
±(読み値の%+レンジの%)
となります。
例えば測定結果表示が5.00000Vの場合

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となり、比較するとケースレー DMM6500の方が若干上回るものの、どちらも高い測定確度が得られていると思われます。
ただし、この電圧確度は「電圧入力端子間の電圧差」を測っていることに注意してください。図1のように入力抵抗が回路に並列に入り抵抗値が低下、電圧が変化する恐れがあります。

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図1 電圧測定の確度に影響を与える入力抵抗

表2は入力抵抗の比較です。
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表2  電圧測定における入力抵抗の比較

入力抵抗には差がありません。つまり回路に与える影響は差がないということです。

電圧測定モードでの入力抵抗は10MΩです。

このため測定する回路の抵抗が小さい場合はほとんど測定結果に影響は与えません。

図2は1kΩの両端電圧を測定する例です。入力抵抗の影響は小さく、測定確度同等です。

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図2 低抵抗の両端電圧を測定した場合

しかし、回路の抵抗が高い場合は入力抵抗が10MΩでも問題になります。図3は100kΩの両端電圧を測定する例ですが、入力抵抗の影響で電圧降下が測定確度より大きくなります。
これでは計測器本来の確度が発揮できません。

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図3 高抵抗の両端電圧を測定した場合

この影響を軽減する対策として、入力抵抗を1,000倍、10GΩを選択します。図4は入力抵抗10GΩで同じ測定を行った例ですが、高い測定確度が得られています。

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図4 入力抵抗を10GΩに変更

(ただし、デジタル・マルチメータの入力端子から外部に流れ出る電流(バイアス電流)の影響により電圧が発生するので注意が必要です。)

これらの点から電圧測定において確度と入力抵抗に差がなければ機種による差はほとんど発生しないといえます。むしろより正しい測定には入力抵抗値に留意しましょう。

直流電流測定では差があるのか?
表3はDC電圧測定での確度です。
DC電圧での確度と同様にケースレー DMM6500の方が若干高いようですがほぼ同等です。

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表3 DC電流確度と負担電圧の比較

しかし、負担電圧に差が見られます。
10mA以下ではキーサイト・テクノロジー 34465Aが小さく、100mA以上ではケースレー DMM6500が小さい傾向が見てとれます。
デジタル・マルチメータの電流測定では図5のように内部に設けられた抵抗(シャント抵抗)が回路に直列に挿入され、発生する電圧降下を測定し、電流に換算します。
この発生する電圧降下を負担電圧と呼び、小さいほど回路に与える影響は小さくなります。

電流モードでの確度はこのシャント抵抗の影響を無視した、実際にデジタル・マルチメータに流れる電流に対する測定確度です。
表3からレンジが高感度になる程、シャント抵抗は大きくなります。
(シャント抵抗値は「レンジ×負担電圧」でおおよその値が換算でき、表3には推定したシャント抵抗値を記載しました。)

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図5 電流測定の原理
シャント抵抗の影響を考察します。
図6のように10kΩの抵抗に500Vを加えた場合の電流値(計算値 50mA)をデジタル・マルチメータで測定する場合、キーサイト・テクノロジー 34465Aでは5Ω、ケースレー DMM6500では2Ωが直列に入ることになります。これによりキーサイト・テクノロジー 34465Aでは0.04%、ケースレー DMM6500では0.02%電流が低下します。
シャント抵抗の影響は測定確度と同程度に収まります。

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図6 シャント抵抗の影響が少ない場合

しかし、今日では500Vという高電圧を扱うケースは少ないため、図7のように同じ50mAを5V/100Ωで考えます。この場合、回路の抵抗が小さいためにシャント抵抗の影響が大きくなり、キーサイト・テクノロジー 34465Aでは4.8%、ケースレー DMM6500では2%低下、測定確度を大きく上回る結果になります。
これでは、デジタル・マルチメータ本来の高い測定確度を活かせません。

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図7 シャント抵抗の影響が大きい場合

抵抗を1/10、10Ωにした場合、図8のようにさらにシャント抵抗の影響は大きくなります。

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図8 シャント抵抗の影響がさらに大きい場合

このようにデジタル・マルチメータでの電流測定では本来の測定確度の違いよりもシャント抵抗の影響が大きく見られます。機器の選択にあたっては負担電圧の影響を十分に考慮しましょう。