伝搬遅延時間の差はオシロスコープ本体の調整機能、スキュー調整でキャンセルできます。具体的には図1のような方法で行います。
信号発生器からの振幅1Vのパルスを50Ωの抵抗で終端すると、振幅20mAの電流が流れます。
電圧プローブで端抵抗の電圧波形を、電流プローブで終端抵抗を流れる電流を取り込み、時間差がゼロになるようにオシロスコープ本体のいずれかのチャンネルのスキュー調整を行います。

図1 チャンネル間スキューの調整法
写真1は横河計測から発売されているデスキュー調整信号源です。
同様の機器は各社から発売されていますし、どの製品もメーカーを問わず多くのプローブに対応できます。

写真1 横河計測のデスキュー調整信号源
図2のようにデスキュー調整信号源には電流プローブを接続するポイントが2か所あり、プローブのクランプ部のサイズに合わせて選択します。
もちろん電圧プローブはパッシブ、アクティブ、シングル入力、差動入力を問わず使用できます。

図2 横河計測のデスキュー調整信号源の接続
メーカーから供給される調整治具は使いやすく便利ですが、図3のように簡単に作成することもできます。
リード線は電流プローブがクランプできる最小限の長さにします。

図3 自作可能なデスキュー調整用治具の例
信号源として使用するジェネレータの主力振幅を5Vとすると、電流は100mAになります。
最大電流50A程度までの電流プローブでは図3の装置(100mA)で問題なく使用できますが、大電流タイプの電流プローブはもともと小電流の測定を前提にしていないため、最大電流感度が低く図3の回路では電流が足りません。
高電圧を出力できるジェネレータは一般的ではありませんし、抵抗で消費する電力が大きくなり高周波特性の優れた抵抗が使えません。
そこで、図4のようにNターンのコイルを使用し発生する磁界をN倍にすることで、等価的にN倍の電流が流れた状態にすることができます。

図4 大電流用プローブへの対応
横河計測のデスキュー調整信号源では小型電流プローブ用に100mA、大型電流プローブ用に1Aの電流が流れるようですが、1Aの方は10ターンのコイルを使っているのではないかと思われます。
プローブとオシロスコープはメーカーをそろえて使用する場合が多いと思われます。
表1は横河計測の代表的な高電圧差動プローブと電流プローブです。
高電圧差動プローブ PBDH0150の伝搬遅延は減衰比50:1にて13ns、500:1にて12ns。
30Aタイプの小型電流プローブ PBC100は13ns。
大きな差はなく、スキュー調整は行った方がベターという程度です。
一方で150Aタイプの大型電流プローブ 7019-30では40ns。
高電圧差動プローブとの間には27~28nsの差があり、スキュー調整が必要になります。

表1 横河計測製プローブの伝搬遅延時間
表2はテクトロニクスの代表的な高電圧差動プローブと電流プローブです。
横河計測同様の傾向で高電圧差動プローブと小型電流プローブの組み合わせでは伝搬遅延時間の差は0.5nsですが、大型電流プローブとの組み合わせでは7nsの差が生じ、スキュー調整が必要になります。
高電圧差動プローブの遅延時間は公式には14nsですが、横河計測の高電圧差動プローブ同様に減衰比50:1と500:1では伝搬遅延時間にはわずかな差があります。。

表2 テクトロニクス製プローブの伝搬遅延時間
表3は接続するオシロスコープを選ばずに使用できるテクトロニクスの電流プローブ・システムの例です。
電流プローブ本体と増幅器の組み合わせで構成されます。
信号遅延時間は付属される接続ケーブル込みの値になりますが、オシロスコープなどに直結できるタイプに比べると遅延時間は長くなります。
特に大電流対応電流プローブでは0.1μsを超える値になります。

表3 テクトロニクス製電流プローブシステムの伝搬遅延時間
周波数帯域が異なるプローブの組み合わせでのスキュー調整法
周波数帯域が同じプローブの組み合わせでのスキュー調整は簡単です。
まず、プローブの持つ本来の立上り特性を活かせるように、十分に立上りエッジの速いパルスを両方のプローブに入力します。
図5のように両方の波形が重なるようにいずれかのチャンネルのスキュー調整を行います。

図5 電圧・電流プローブの周波数帯域が同じ場合
ところが異なる周波数帯域のプローブを組み合わせる場合はどこを合わせれば良いのでしょうか?
一つの見解は図1のように50%のポイントで合わせる方法です。
図6は周波数帯域の異なるテクトロニクスの三つのプローブに、十分に速い立上りエッジのパルスを入力した場合の各プローブの出力です。
高電圧差動プローブ THDP0200(周波数帯域 200MHz) 立下り時間 2.3ns
電流プローブ TCP312A(周波数帯域 100MHz) 立下り時間 3.5ns
電流プローブ TCP305A(周波数帯域50MHz) 立下り時間 7ns
すべてのプローブに同じタイミングで立上りの速いパルスを入力した場合、立上り時間の影響により50%の位置が異なってきます。

図6 周波数帯域の違いでエッジ位置が影響される
このため果たして50%ポイントにてスキュー調整を行って良いのか疑問があります。
そこで最も周波数帯域が低いプローブ、この場合には周波数帯域50MHzのプローブの性能が十分に活かせるよう、立上り時間3.5nsの4倍、立上り時間21nsのパルスを入力した場合を考えてみます。
この場合、図7のようにすべてのプローブの出力波形は同様になります。
それぞれの50%ポイントにてスキュー調整を行えば周波数帯域の影響を除くことができます。

図7 周波数帯域を考慮したスキュー調整
高速信号用プローブのスキュー調整
測定する信号が高周波の場合、例えば周波数が5GHz(10Gbps)のパルスを考えてみます。
図8のように周期は200psです。
この信号を使うシステムを複数本の同じ型名のプローブを使用して測定する場合でも、プローブ間のスキューに注意しなければなりません。
同軸ケーブルでは1mで5ns、1cmでは50psの伝搬遅延時間が発生します。
もしもプローブケーブルの物理的長さが1cm異なると50psの時間ずれが生じることになります。
同じ型名のプローブだからと言って伝搬遅延が全く同じわけではありません。
高周波の計測で使用するSMAケーブルでは同じ長さのケーブルをセレクトした「マッチドペア」が販売されています。
もちろんペアを選択する手間分、高価になります。

図8 プローブケーブルの物理的長さが遅延時間に影響
そのため専用の治具を用いてスキューの確認、調整を行うことが必須です。
図9のようにストリップ・ライン(基板に作られた伝送路)の同一ポイントに二つのプローブを当てて使用します。

図9 高速信号用プローブのスキュー調整治具
信号源はオシロスコープ本体に用意されており、特に用意する必要はありません。
写真1はキーサイト・テクノロジーの高速オシロスコープ、プローブ、スキュー補正用フィクスチャの例です。

写真1 キーサイト・テクノロジーのスキュー補正用フィクスチャ