信号に乗るノイズを減らすテクニック

オシロスコープによる波形測定における余計な存在、邪魔になるノイズは何とかしたいところです。ここでは信号に与える影響を最小限に保ちながらノイズを減らす方法をご紹介します。

プローブが拾うノイズを減らす

オシロスコープに付属するパッシブ・プローブに限らず、高性能なアクティブ・プローブであってもグラウンド線をはじめとするアクセサリの使い方には注意しなければいけません。

ケーブル類には長さに比例した寄生インダクタンス(1㎝あたり約10nH)があり、プローブの入力容量と合わさって共振現象を起こしますが、それとは別に外部ノイズを拾ってしまう問題があります。

図1のようにプローブがあたかも磁界センサのように働いてしまいます。近くにスイッチング電源がある、またはLED光源がある環境では磁界ノイズが渦巻いているといっても良いでしょう。磁界ノイズを減らすためには磁束が通る面積を最小にする、つまりグラウンド線を最短にします。

スイッチング電源メーカーの方からお聞きしたクレームの話です。「電源ノイズがカタログ・スペックより多い、不良品だ」
実際は多くの場合、プローブの使い方が不適切で空間ノイズを拾ってしまっているとのことです。

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図1 グラウンドの取り方でノイズを拾ってしまう

図2はUSB電源のノイズを同じ10:1パッシブ・プローブを最短のグラウンドを使ったときと、標準のグラウンド線を使った場合の比較です。

標準のグラウンド線がノイズを拾い、もともと電源ラインに乗っているノイズに加わってしまっていることがわかります。

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図2 グラウンド線の長さによるノイズの違い

入力容量が小さいアクティブ・プローブではグラウンド線との共振周波数が高くなり、共振による影響はパッシブ・プローブより少なくなることは期待できますが(しかしアクティブ・プローブはより高周波信号を扱うため、グラウンド線の影響は無視できません)、ノイズに対してはパッシブ・プローブと同じです。

信号にノイズが多いため、アベレージで解決できるのではないかという質問を、技術者の方から受けたことがありますが、実はプローブ先端に取り付けたリード線がノイズを拾っていました。

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図3 アクティブ・プローブでもアクセサリの使い方には注意

ノイズレベル低減の別のアプローチ
図4は横河計測のオシロスコープ DLM3054(周波数帯域 500MS/s、最高サンプル・レート 2.5GS/s 全チャンネル)を用いて最高サンプル・レート(2.5GS/s)でとりこんだ多くのノイズを含んだ波形です。
A/D変換の動作モードはノーマル、サンプル・レートは画面右側に2.5GS/s(0.4ns分解能)の表示があります。

トリガ付近を拡大するとスパイク状の固定パターンノイズとランダムノイズが含まれていそうです。

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図4 周波数帯域500MHzで取り込んだノイズのある信号

ここで周波数帯域は500MHzのまま、アベレージ取り込みを行った結果が図5です。アベレージはランダムノイズには有効ですが、信号と同期関係にある周期性ノイズには役に立ちません。

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図5 アベレージでは消えないノイズ

そこで周期性ノイズを減らすため、図6のように10MHzに制限してみます。波形の立ち上がり部分は周波数帯域10MHzの影響は受けていませんが、周期的ノイズはまだ完全には除かれていません。

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図6 単純なフィルタでは十分な効果が得られないこともある

周期的な変動要因を低減する方法に移動平均があります。図7は気象庁発表、2022年7月の気温データです。赤線は1時間ごとの気温で毎日の最高、最低気温がわかります。青線は前後2週間(4週間区間)の移動平均になります。週間単位での変動が見て取れます。image-20231127131531435.png
図7 1時間ごとの気温の変化

このオシロスコープには移動平均の機能があり、同じ波形を128ポイントの移動平均処理を行った結果が図8です。このポイント数であれば立ち上がりエッジに影響を与えずに、ノイズを効果的に低減できました。
このようにサンプリング・レートに余裕がある場合は、波形処理によりノイズを大きく低減できます。

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図8 128ポイントの移動平均結果

移動平均以外にも適用できるデジタル・フィルタがあります。図9は1次のIIRフィルタを遮断周波数10MHzで処理した例です。遮断周波数を決めたうえで同様のノイズ低減ができました。

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図9 IIRフィルタで処理

信号の変化が極めて速い場合には変化部分にサンプリング・ポイント数が限られるために、オーバーサンプリングを使ったデジタル・フィルタは使えませんが、逆にサンプリング・レートに余裕がある場合にはノイズ低減に有効な手法です。せっかくオシロスコープに搭載されている機能なので、有効利用をお勧めします。