クロストーク、そのまま読むと「クロス」・・・交差した「トーク」・・・会話、つまり昔通信で言うところの「混信」です。アナログ電話の時代、何らかの原因で他の通話が漏れ込むことがありました。この漏れ込み、計測器の世界でも起こり、誤差の原因になります。より正確な測定結果を得るためには、 ■適切な計測器を選ぶ ■適切に使用する ことはもちろんのことですが、同時に計測結果に影響を与える影響をできるだけ少なくすることが必要です。計測器は入力された信号が全てです。信号が何らかの原因で本来の姿から変化してしまったり、不要なノイズが含まれていたりすると予測しなかった誤差を生じます。信号が変化してしまう原因には(1)計測器の性能が信号に対して不十分(2)計測器が信号回路の動作の影響を与えてしまう(1)は適切な計測器を選ぶ知識があれば解決できます。(2)はオシロスコープ・プローブの負荷効果として知られています。ここでは計測結果に影響を与えるノイズや計測器内部での漏れ込みについて述べていきます。計測器に入り込むノイズ計測器には外部センサ、外部機器などからの信号をケーブルやプローブ経由で接続します。その過程で外部からノイズが侵入することがあります。ノイズには接続ケーブルやプローブに静電結合、誘導結合で飛び込むノイズと信号源、計測器のグラウンド間に存在するノイズ(これはコモンモード・ノイズになる)があります。図1 ノーマルモード・ノイズとコモンモード・ノイズ静電結合によるノイズはシールド板、シールド線などの静電シールドで低減できますが、誘導結合は強磁性体によるシールドが必要です。
計測器内部で起こる信号の漏れ込み例えばオシロスコープにてあるチャンネルに入力した信号が他のチャンネルに漏れ込むことがあります。図2はオペアンプを使ったゲイン20dB(10倍)の反転増幅器です。この入出力波形をPCにUSB接続で使用する簡単なワンボード・オシロスコープで測定しました。図2 ゲイン20dBの反転増幅器ファンクション・ジェネレータから振幅2V、周波数1kHzの方形波を入力、期待通りに振幅20Vの反転出力が得られましたが、入力波形(CH1)のトップ、ボトム部分は平らでありません。出力波形(CH2)は問題ありません。図3 観測した入出力波形そこで出力側(CH2)のプローブを外すと図4のように入力信号(CH1)は正常になります。図4 ch1のみ「取り込んだ場合は正常逆に入力側(CH1)のプローブを外すと、本来は無信号になるはずが、出力側(CH2)の微分波形と思われる信号が確認できます。図5 信号の漏れ込みを確認これはCH2入力コネクタにて高い電圧の信号がオシロスコープ内部でCH1に漏れ込んだことが原因です。漏れ込みは周波数が高い程大きくなります。製品としてのオシロスコープはワンボード型ほど顕著ではありませんが、チャンネル間アイソレーション(またはクロストーク)として定義されています。図5のように本来は無信号であるべきチャンネルへの漏れ込みになります。図6 オシロスコープのチャンネル間アイソレーション表1は代表的なオシロスコープの性能です基本的には同じ感度設定での漏れ込みとして定義されているため、チャンネル間で大きな感度差が無ければ問題になることは多くはありませんが、大振幅と小振幅の信号を同時に測定、特に周波数が高くなるとこの漏れ込みは無視できないことになります。表1 チャンネル間アイソレーションの性能例この性能は細かく規定されていないため、実際の性能は実機を用いて確認するしか手立てはありません。プローブ内部で起こる漏れ込み任意の2点間の電位差を測定する際には差動プローブが使われます。差動プローブはプラス・マイナス両入力の引き算をしますから、同じ信号(同相信号)が入力された場合は打ち消しあって出力には現れません。この性能は同相成分除去比として規定されています。確認はプラス・マイナス両入力同じ信号を入力して出力を確認します。信号周波数が低い場合には良好な性能を示しますが、周波数が高くなると漏れが生じます。パルスを入力した場合には高周波成分のあるエッジ部分の漏れが起こります。図7 同相成分を除去する性能の確認方法実際の測定場面で問題になるのかトーテムポール型のスイッチング回路、そのハイサイドのドライブ信号の測定です。ハイサイドでは基準レベルになるソース電位は出力レベルになり、大きくスイングします。ゲート・ドライブ信号はそのソース電位に重畳する形になり、ゲート・ドライブ信号に比較して、非常に大きなコモン電圧が存在することになります。図8 ハイサイド・トランジスタのドライブ信号の測定は困難を伴うこの測定はスイッチング速度が速い程、困難になります。解決には光絶縁プローブ等、絶縁測定の可能な計測器を検討します。