反射とは何なのか?

「反射」という言葉は日常でもよく耳にします。図12 伝送路が短い場合
光の反射、山に向かって声を出すと戻ってくるこだま、また熱いものに触れると無意識に手を引っ込める神経の反射などがあります。
例えば、水面に石を投げ入れると波が発生します。温泉の湯船に漬かりながら指で波を起こしても良いでしょう。発生した波の大きさは徐々に小さくなりながら同心円上に広がります。
そして湯舟の壁に達した波は反射して戻ってきます。

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図1 湯船で確認できる波の反射

図2のように波の幅が広い場合は進行波と戻ってきた反射波が重なり、波は大きくなります。

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図2 進行波と反射波の重なり

電気の世界でも同様の反射が起こります。図3の設定で反射の様子を確認します。

パルス・ジェネレータから立ち上がり時間約2nsのパルスを発生し、伝送路経由で終端抵抗に伝えます。

パルス・ジェネレータの出力インピーダンスは50Ω、伝送路(伝送インピーダンスは50Ωの同軸ケーブル)ではインピーダンスは整合されているため、パルス・ジェネレータの波形はそのまま終端抵抗に伝わります。
同軸ケーブルの途中でTコネクタにてオシロスコープに接続、伝送線路上の波形を確認します。
オシロスコープに信号を取り込まないように、入力インピーダンスは1MΩにします。

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図3 反射を観測する実験

図4は終端抵抗が50Ωの場合です。
反射は起こらず進行波はすべて負荷抵抗で吸収され、オシロスコープを通過する進行波のみが観測されます。

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図4 終端抵抗が50Ωの場合(イメージ)

図5は終端抵抗を外し開放(インピーダンス≒無限大)にした場合です。入力波は全反射されオシロスコープ側に戻ってきます。

同軸ケーブルでは波は高速の約2/3の速度で伝わり、1m伝わるには約5nsかかります。
往復で2m伝わるため、反射波は2倍の10ns遅れてオシロスコープ側に戻ります。

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図5 終端開放の場合(イメージ)

図6は逆に終端をショートした場合です。
ショートすることで直流的には信号は何も出ないはずですが、反射波はマイナス方向に発生しオシロスコープ側に戻ります。
このため約10ns幅のパルスが観測されます。
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図6 終端ショートの場合(イメージ)

反射波と入力波の比率を反射率と言います。
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そして伝送線路のインピーダンスをZ0、終端抵抗をZLとすると
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の関係があります。

図7は終端抵抗が110Ωの場合です。
入力波の振幅 4
反射波の振幅 1.3
から反射率は0.325になります。
これから負荷抵抗の計算値は98Ωになり、実際の抵抗値と一致します。 

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図7 終端抵抗値と反射率の関係(100Ω)

図8は終端抵抗が12Ωの場合です。
入力波の振幅 4
反射波の振幅 -2.4
から反射率は-0.6になります。
これから負荷抵抗の計算値は12.5Ωになり、実際の抵抗値と一致します。 

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図8 終端抵抗値と反射率の関係(12Ω)

反射をゼロすれば信号波形を歪みなく伝送できます。
しかし整合のとれた伝送路では大きな電流が流れることで電力を消費します。
機器内部で全面的に使用することは非現実的といえます。

使用する機会の多いCMOSデバイスは入力インピーダンスが非常に高いため電流は極めて小さく、電力消費は非常に少なくなります。そのため図9のように受信端にて反射が起こります。
反射波は出力デバイスに達しますが出力インピーダンスが線路インピーダンスより低い場合はマイナス方向に反射し、受信端に進みます。
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図9 CMOSを使用した場合の反射波の発生

このことが繰り返し起こると図10のように受信端波形は歪を生じ、ロジック・スレッショルド電圧の違反を起こす可能性があります。

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図10 受信端で起こる波形歪み

そこで、出力デバイスにおける反射を抑えるために抵抗を挿入しますが、抵抗値を大きくすることで信号振幅を下げてしまうため、ロジック違反を起こさない範囲の値に設定します。
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図11 波形歪を制御する抵抗

反射の影響は信号の立ち上がり時間と伝送線路の長さによって変わります。

図12は立ち上がり時間10nsのパルスを線路長10cmの伝送路で送った場合のシミュレーション結果です。
反射波は立ち上がり部分に吸収され、反射の影響はほとんどありません。

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図12 伝送路が短い場合

信号はそのままで、伝送路を60cmにすると図13のように反射の影響が大きくなります。

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図13 伝送路を長くすると

さらに伝送路を100cmまで長くすると、ロジック的に怪しい状態になります。

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図14 さらに伝送路を長くする

信号の立ち上がり時間が2nsまで速くなると図15のように20cmの伝送路でも大きな影響がでます。

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図15 立ち上がりが急峻な場合

このように伝送路の長さ、伝搬遅延時間が立ち上がり時間の関係を考慮しないと、2値のロジック信号とはいえ伝送できない恐れが出てきます。

伝送路を乱す要因は意外なところにも隠れています。図16は伝送路の途中にプロービング用のテストピンを設けた例です。このピンは伝送路のスタブと考えることができ、1cmのピンでも反射を生じます。また平行ピンは一種のキャパシタになるため、寄生容量により伝送路の均一性を乱します。これらの要因により波形歪みを生じてしまいます。
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図16 テストピンが波形に与える影響

このように信号の変化速度が速くなると、電気波形は波として扱わなければなりません。