電子機器は動作保証する温度・湿度が仕様で決められています。そのため任意の温度・湿度を設定できる恒温・恒湿槽が使われますが、その際被試験機器をオシロスコープなどで計測したいことがあります。プローブは図1のように恒温・恒湿槽の横穴から挿入され被試験機器のテストポイントに接続されますが、その場合プローブも被試験機器と同じ温度・湿度環境に置かれるということになります。計測器の動作温度は製品により異なりますが、例えばテクトロニクスの製品では以下のようになります。オシロスコープ MDO4000Cシリーズ 動作温度 0~+50℃パッシブ・プローブ TPP1000 動作温度 -15~+65℃ 動作湿度 5%~95% (~30℃) 5~75%(30~65℃) (テクトロニクス MDO4000SCシリーズ、TPP1000のデータシートより抜粋)図1 恒温・恒湿槽による波形測定この例では恒温・恒湿槽の温度が-15~+65℃の範囲であればプロービング可能です。その範囲を超える場合には、より広い温度範囲で使用できるプローブを使用しなければなりません。市販されているプローブとしては、横河計測からは同社のオシロスコープ DLM3000シリーズ用として-40~85℃の範囲で使用できる10:1パッシブ・プローブ 702907が発売されています。図2 横河計測の広温度対応プローブの仕様 (データシートより作成)カタログにはDLM3000用と記載されていますが、図2のようにオシロスコープ補正範囲は12~22pFであり、多くのオシロスコープの入力容量はこの範囲に収まります。入力容量がこの範囲であればプローブ補正用のPROBE CAL信号を用いてプローブのLF補正ができることを示しています。図3のようにテクトロニクスのMDO4000Cシリーズでは13pF、横河計測のDLM3000シリーズでは17pFになっています。つまりこのプローブはMDO4000CシリーズでもLF補正ができることになります。厳密な意味では高速信号の立ち上がりエッジのオーバシュートなどが多少生じるかもしれませんが、この辺りはユーザ責任です。図3 オシロスコープの入力容量の表示例プローブでは周波数VS最大入力電圧の限界を示す周波数ディレーティングが知られていますが、このプローブでは図4のように温度・湿度のディレーティングも決められています。図4 横河計測 702947のディレーティング (データシートより抜粋)同様のプローブはキーサイト・テクノロジーからも発売されています。仕様は図5のようになっており、オシロスコープ補正範囲は6~18pFなのでテクトロニクス MDO4000Cシリーズ、横河計測 DLM3000シリーズにも対応できることになります。ここで取り上げた二つのプローブ、ともに恒温・恒湿槽で使用できるようにケーブル長は2mです。このためか入力インピーダンスのうち入力容量は18pF、15.5pFとやや多めになっています。図5 キーサイト・テクノロジーの広温度対応プローブの仕様 (データシートより作成)PMK社からはより広い温度範囲で使用できるプローブが発売されています。図6の仕様で分かるように、-55~150℃に対応しています。オシロスコープ補正範囲も10~25pFなのでほとんどのオシロスコープに使用できます。図6 PMK社の広温度対応プローブの仕様 (データシートより作成)以上のプローブはすべて入力インピーダンス1MΩ、周波数帯域1GHz以下の汎用オシロスコープでの使用を前提にしているため、GHzオーダーの信号には対応できません。キーサイト・テクノロジーの高周波用プローブ、InfiniiMaxシリーズで広い温度範囲に対応したプローブ・アクセサリが発売されています。InfiniiMaxプローブは図7のように被測定回路に接続するプローブヘッドをプローブ本体に接続する構造です。この接続部分に挿入する延長ケーブルが用意されており、-40~85℃で使用可能です。温度依存性の高いデバイスの動作検証に向いていると思われます。図7 キーサイト・テクノロジー InfiniiMaxプローブで使用できる延長ケーブル簡単に恒温・恒湿槽で使用したい場合、制限がありますが市販の耐熱性のある特性インピーダンス50Ωの同軸ケーブルを使用して作製することができます。入力インピーダンス50Ωのオシロスコープ入力に特性インピーダンス50Ωの同軸ケーブルを接続すると、オシロスコープ入力がケーブル先端に延長したかのようになります。ケーブル先端に950Ωの抵抗を接続すると減衰比20:1、入力インピーダンス1kΩのプローブになります。入力容量は非常に少なく、浮遊容量程度と考えられます。ただし入力抵抗は1kΩと低いためにソース・インピーダンスの高い回路には使えません。高周波回路でも負荷効果で信号振幅が多少減少すると思いますので、それを踏まえて負荷効果に配慮して使用する必要があります。図8 20:1の低インピーダンス・プローブの原理を使った耐熱プローブ