波形を遡って確認できるヒストリ

最近のスマートフォンのカメラ機能はますます高機能化が進み、毎秒10枚の連写を999枚まで可能、つまり最長0秒間の間、100ms毎に撮影できる機種もあります。ミラーレスカメラの進歩はさらに先を行っています。
図1の写真は筆者手持ちのカメラで鳥が飛び立つ瞬間、鳥の眼にフォーカスを合わせながら毎秒50枚連写した例です。鳥が飛び立つ瞬間にシャッターを押す場合、人間の反応には遅れがあります。
この遅れに対応するため、最近の一部のミラーレスカメラではシャッターを押す以前の画像を記憶しています。
これにより飛び立つ瞬間を捕らえることができます。
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図1 鳥の飛び立つ前後を連続撮影

この例ではシャッターを半押しすると毎秒50枚(20ms毎に1枚)撮影、50枚分あるメモリへの記録を続けます。そしてシャッターを切ると、その前後の画像を記録して動作を停止します。
これによりシャッター前後の画像が記録できます。

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図2 シャッターチャンスを逃さない連続記録

同様の機能が一部のオシロスコープに搭載され、「ヒストリ」と呼ばれています。

最近のオシロスコープではロング・レコード化が進み、10Mポイント以上の波形レコード長を持つ製品が多くなりましたが、この波形メモリを細かく分けて使用します。

例えばチャンネル当たり12.5Mポイントのメモリの場合、レコード長を1.25kポイントに設定すると

12.5Mポイント÷1.25kポイント=10,000

図3のように10,000個に分けることができます。そして10,000個の各ブロックがトリガを待ち受け、波形を記録します。

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図3 ヒストリ取り込みの原理

最後のメモリ・ブロックに波形が記録されると次の波形は最初のメモリ・ブロックから上書きされ、波形記録を続けます。つまり、常に最新の10,000波形が保持されることになります。

図4のように異常波形や目的とする波形が目視できたらSTOPボタンを押して波形取り込みを終了します。10,000波形は重ね書き表示され、検索により目的の波形を見つけ出せます。もちろん取り込まれたすべての波形は画像イメージではなく、波形データになります。波形データには現在時刻がタイムスタンプされるために、事象の発生時刻も同時に記録されます。
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図4 ヒストリ取り込みの動作

図5は波形をモニターしながら異常波形を発見、波形取り込みを停止した例です。12.5Mポイントの波形メモリを1.25k×10,000に分割、最後に取り込んだ波形から28605さかのぼって重ね書きされています。

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図5 ヒストリ取り込みの実際画面

図6では検索するエリアを設定するマスクを作成し、それを用いて検索することで図7のように希望の波形のみを表示できました。
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図6 検索マスクを作成

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図7 特定の波形のみ検索して表示

ヒストリ機能は大変便利な機能ですが、一つだけ注意することがあります。それは図4に取り込まれる波形間の時間です。

「波形取り込み」⇒「画面表示のイメージデータ変換」⇒「表示」⇒「波形取り込み」

を繰り返すために波形を取り込めない時間が長めになる傾向があります。つまり見逃し期間があることです。

デッドタイムが短いNシングル

ヒストリに似た機能に「Nシングル」があります。通常のシングル・トリガは図8上のように1回のみトリガを受け付け、信号を取り込みます。取り込まれる時間は
サンプル間隔×レコード長
と固定になり、散発的に波形が発生する場合、何個の信号波形が取り込めるかは不定です。
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図8 通常のシングルとNシングルの違い

Nシングルは多くのメーカーのオシロスコープに搭載されており、図8下のようにヒストリ同様に波形メモリを分割し波形を記録しますが、シングルの名の通りN個のトリガによりN個の波形を取り込み終了します。いわば連続シングル取り込みです。
図9のように単純な動作であるため、トリガを受け付けできないデッド・タイムはヒストリより大幅に短縮され1μs以下になります。
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図9 デッド・タイムが少なく見逃しが少ないNシングル

波形メモリを分割使用する点でヒストリとNシングルは似ていますが使い方は異なります。

【ヒストリ】

繰り返される信号の中でいつ起こるか分からない異常信号、特定の信号をモニターしながらチェック、波形取り込みを停止後に検索して抽出する。

【Nシングル】

連続的に変化する信号にトリガをかけながら連続的に記録する。
ターゲットの波形に最適なサンプル・レート、レコード長を設定しつつ、多くの波形部分のみを記録できる。

目的に応じて使い分けましょう。