計測で便利なデシベル

電気に関係のない世界でもデシベルという言葉を耳にします。

例えば、騒音を数値化する場合にデシベルが使われます。

図1は人間の感じる音のレベルと音圧の関係です。

音圧は圧力なのでPa(パスカル)が単位になりますが、20μPaから2千万μPaまで100万倍の差があります。

そのためリニアに表現するのではなく対数を使う、10倍ごとに20dB増加するデシベル評価が一般に使われます。

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図1 音圧と音圧レベルの関係 (リオン株式会社のホームページhttps://svmeas.rion.co.jp/support/st_sound.htmlから作成)

図2は騒音計の例です。

この製品では人間が聴覚可能な範囲の周波数に重み付けをするA特性にて25~138dBのレベルを測定でき、人間の聴力範囲をカバーしています。

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図2 騒音計の例

レコーダ、オシロスコープなどの波形を観測する計測器では、ダイナミック・レンジがあまり広くないこともあり、対数表示は使われません。

図3は振幅1と0.001のサイン波を同時に表示した例です。

振幅に1000倍の差があるため振幅0.001のサイン波の形状を確認することはできません。

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図3 リニア表示で振幅差の大きな信号を表示した場合

図4は同じ条件で縦軸を対数表示に変更した例です。

縦軸は1目盛り毎に10倍になるため振幅0.001のサイン波は確認できますが、逆に振幅1のサイン波は形状が大きく変形しています。

波形表示では表示歪は許されませんから対数表示は不向きです。

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図4 対数表示で振幅差の大きな信号を表示した場合

図5は振幅に100倍に差がある1kHzと10kHzが重畳した信号の時間軸表示(縦軸 リニア)と周波数軸表示(縦軸 対数)の例です。

左側の時間軸表示では10kHzの信号の存在は分かりません。

しかし、右側の周波数軸表示では10kHzの成分が確認できます。

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図5 周波数軸表示で対数表示は有効

ここでは図6のように縦軸は-140dB~0dB(上に若干の余裕)と1000万倍のレンジを、また横軸も対数表示で100Hz~100kHzまで1千倍のレンジを表示しています。

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図6 縦軸・横軸ともに対数表示

このように広い範囲を扱えるデシベルですが、図7のように電圧・電流と電力では計算が異なります。

電圧・電流では10倍毎に20dB、電力では10dBになります。

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図7 デシベルの計算式

デシベルは比が1以下の場合はマイナスの値になります。

図8はリニアの比率とデシベルの関係を示しており、1/100万分~100万を-120~+120dBで表示しています。

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図8 比率とデシベル

さて、なぜ電力では10倍毎に10dBなのでしょうか。

図9のように電力は電圧と電流の掛け算になり、電圧が10倍になると電流も10倍になり、電力は100倍になります。

このため電力では計算が変わってきます。

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図9 電圧・電流と電力でデシベル計算は異なる

デシベル表示ではもう一つ便利なことがあります。

図10のように100倍、0.5倍、10倍の増幅系の場合、リニアの計算ではすべてをかけることになります。

対数の掛け算は足し算に、割り算は引き算になるため、対数の計算では40-6+20=54dBと簡単に行えます。

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図10 ゲイン計算が楽になるデシベル

デシベル表示が使われる例としてA/D変換器のビット数と分解能の関係があります。

A/D変換器では1ビットあたり2倍の差(6dB)があるためダイナミック・レンジは次のようになります。

8ビット   A/D   48dB

12ビット  A/D   72dB

16ビット  A/D   96dB

24ビット  A/D   144dB

 1ビットが2倍になるので6dB相当とすると覚えやすくなります。

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図11 計測器で異なるビット数とデシベルの関係

デシベルは単位のない比率だけでなく、絶対値の場合もあります。

l  dBm・・・スペクトラム・アナライザなどで高周波の電力を表す0dBm=1mW (50Ω系)

l  dBV・・・音響機器の入出力のレベルの表記などに用いられる電圧を表す 0dBV=1V

l  dBv・・・600Ω系にて1mWの電力に相当する電圧 0dBv=0.775V

などがあります。