電子機器からは必ず電磁ノイズが出ています。また外部からの電磁ノイズにより動作に影響を受けることもあります。航空機の離発着時に電波を出す機器の使用に制限があるのは、万一にも航空機の電子機器に影響を与えないようにするためです。電子機器からの電磁気輻射、外部からの電磁気耐性については電磁両立性(EMC Electromagnetic Compatibility)で規定されています。EMCはEMI(電磁波妨害 Electromagnetic Interference)とEMS(電磁感受性 Electromagnetic Susceptibility)からなっています。EMIではほかの機器の動作を妨害しないように、発生する電磁波の大きさを規定しています。EMSでは機器が外部から電磁波を浴びても、どれだけ耐えられるかを規定しています。図1 電磁両立性は電磁波妨害と電磁感受性からなっているEMCの測定は外部からの電磁波を遮断し、また周囲で反射を起こさないように電磁波吸収体を設けた電波暗室で行われます。EMIの試験では回転するテーブルに乗せた被試験機器が発する電磁波をアンテナで受信し、スペクトラム・アナライザで測定します。図2 EMI試験の様子電子機器は必ずEMC試験をパスしなければなりませんが、製品になる以前の基板の段階においても発生する電磁波をチェックすることが試験の合格への近道です。基板には半導体デバイス、コネクタ、ケーブルなどのノイズ源があります。図3 基盤におけるノイズ源この電磁場を電場と磁場に分けて検出するプローブが市販されています。近傍界プローブ、近磁界プローブ、近接界プローブなどの商品名になりますが、これらは同等品と考えて良いでしょう。このプローブをスペクトラムやオシロスコープと組み合わせて、輻射されるノイズを観測します。図4 近接磁界・電界を検出するプローブ簡単に磁気ノイズを確認したい場合には、細い同軸ケーブル(特性インピーダンス 50Ωの1.5D-2Vなど)があれば応急的に磁気ノイズを作ることができます。図5のように同軸ケーブルをループさせます。ケーブル先端は芯線、外側のシールド網線共に根本のシールド部分にはんだ付けします。次にループの中点のシールド部分を取り除き、芯線だけ残します。この部分は構造的に弱いので、熱収縮チューブなどで補強すると良いでしょう。計測器の入力インピーダンスは50Ωが必要です。スペクトラム・アナライザではそのまま、オシロスコープの場合は入力インピーダンスを50Ωに変更します。オシロスコープの入力インピーダンスが1MΩのみの場合は50Ω終端抵抗(ターミネーション)を併用します。図5 簡易型近接磁界プローブの構造図6はスイッチング方式のオーディオアンプのスイッチング・デバイス周辺にプロービングした例、図7はそのオシロスコープでの観測結果です。図6 ノイズ源になりやすいスイッチング・デバイス付近を調べる信号の繰り返し周波数は309kHzですが、パルスのため広い周波数範囲で磁界ノイズが発生しています。図7 オシロスコープで観測した磁界ノイズ図8はノートパソコンのPAD付近にプロービングした例、図9はオシロスコープでの観測結果です。図8 ノートパソコンの輻射ノイズをプロービング図9のようにバースト状のノイズが確認できます。使用したオシロスコープの周波数帯域は350MHzですが200MHz付近までノイズが確認できます。図9 ノートパソコンのPAD付近から輻射される磁界ノイズこの試験はループの大きさ、ターゲットまでの距離が不定のために、あくまでも定性的な確認になりますが、ノイズ源の確認には役に立つと思われます。