オシロスコープの性能は周波数帯域で示されますが、最高サンプル・レート、レコード長などの性能も併記されています。測りたい信号を適切に測るにはどの程度の性能が必要になるのかを知り、適切なオシロスコープを選択する」?ことは、より正しい測定への近道です。測定例から最適な機種を選ぶ具体的な例として図1のような力率改善式のAC/DCスイッチング電源の波形測定を考えてみます。変化が早く、かつ、長時間にわたり振幅が変化する、測定が容易でない信号です。● スイッチング波形を取り込むために必要なサンプル・レート200MS/s(5ns分解能)● 取込み期間 20ms(商用電源(50Hz)の全波整流2周期)とするとレコード長は20ms÷5ns=4Mポイント電圧波形、電流波形、ゲート波形を同時に取り込むとするとオシロスコープ、全チャンネル動作にて上記の条件を満たす必要がでてきます。より高速のサンプル・レートが必要な場合はさらに長いレコード長が必要です。図1 力率改善式AC/DCスイッチング電源の波形イメージサンプル・レートとレコード長のマネジメントカメラが好きな方なら「シャッター速度優先」、「絞り優先」という設定があるのをご存知だと思います。オシロスコープは同じ時間軸設定(取り込み時間、Time/div)でもサンプル・レートとレコード長の組み合わせは複数になりますが、従来は、多くのオシロスコープではレコード長設定が優先で、レコード長を一定に保ったまま時間軸設定(取り込み時間)を変えるとサンプル・レートが自動的に変わりました。波形情報の量を一定にする方法は、オシロスコープにとっては波形処理の負荷が一定になるというメリットがあります。しかし時間軸を遅くするに従い、サンプル・レートが低下することで標本化定理を逸脱する危険性があります。図2はレコード長をマニュアルで設定するオシロスコープでの時間軸設定とサンプル・レートの関係です。黒線は初期設定のレコード長(10kポイント)です。200ns/divより遅い時間軸ではサンプル・レートは低下します。サンプル・レートの1/5を実効周波数帯域とすると本来の周波数帯域1GHzは200ns/divより速い時間軸でのことになります。マニュアル操作でレコード長を最長の20Mポイントに設定すると400µs/divまで拡大できます。図2 レコード長が一定のオシロスコープにおける時間軸設定とサンプル・レートの関係最近では時間軸設定を変えたときに、できる限り実効周波数帯域を保てるよう、最高サンプル・レートを維持し、レコード長を可変にする手法が採用されつつあります。図3は最高周波数帯域350MHz、最高サンプル・レート2GS/s、最高レコード長20Mポイントのオシロスコープの例です。1ms/divまでの範囲で最高サンプル・レートを維持します。これにより広い時間軸設定で最高周波数帯域も維持できます。図3 レコード長を自動的で制御するオシロスコープ今後はこのタイプのオシロスコープが増えてくると思われます。注意すべきスペックの読み方オシロスコープではチャンネル数を半分に減らすことで、サンプル・レート、レコード長を2倍にすることが可能な製品もあります。スペックには、このハーフチャンネルモード での性能を併記していることが多いので、フルチャンネル での性能が必要な場合は注意が必要です。図4 ハーフチャンネルモードのあるオシロスコープ12ビットは必須な性能か従来は、オシロスコープのA/D変換器は8ビット分解能が主流でした。最近では一部、10ビット、12ビットの製品が発売されています。ある製品では8ビットでは1目盛を25に、12ビットでは400に分解します。分解能は高い方がベターと思われるかもしれませんが条件があります。それはノイズレベルが十分に低いことです。オシロスコープは広帯域な計測器なため、発生する熱雑音が多くなります。熱雑音は周波数帯域の平方根に比例するため、周波数帯域が高いオシロスコープ程ノイズは多くなります。そのため帯域制限などによりノイズを減らせるアプリケーション、例えばパワー・エレクトロニクス計測などでは有効と思われます。図5 8ビット分解能と12ビット分解能のオシロスコープオシロスコープで観測する目的をはっきりさせるオシロスコープは信号を観測する測定器ですが、観測する第一歩は目視確認です。観測対象はいろいろあります。●定常ノイズ信号に乗っているランダムに存在するノイズの振幅を測定し、ノイズマージンを確認します。●単発ノイズ何らかの外因により信号に乗ってくるノイズ。目視確認で存在を確認した上でトリガを設定して捕捉します。●時間ブレを解析するオシロスコープは複数の信号の時間関係を観測できます。表示解析機能を使い、時間変動を解析します。●異常信号を見つけるバスが競合してのロジック・レベルの異常など、正常な動作を妨げる発生頻度の低い信号を発見し捕捉します。図6 オシロスコープで観測したい信号目視確認で大切な波形更新レートオシロスコープで連続する信号を確認するには、図7上のように次から次へと絶え間なく表示を繰り返せば、発生頻度が低い波形を見つける可能性が高くなります。デジタル・オシロスコープが一般化する以前に存在したブラウン管の輝度が極めて高いアナログ・オシロスコープでは約50%の部分の信号を表示できました。デジタル化されたオシロスコープはA/D変換で得られたデジタル・データを処理した後に画像化され、液晶などで表示されます。そのために処理時間が発生し、波形を取り込めないデッドタイムが生じます。図7 オシロスコープは必ずしもすべてを観測していないこのデッドタイムは短いに越したことはないのですが、ある現行製品の2世代以前では1秒間に60画面(波形)の更新でした。つまり波形取り込みは16.6msに1回です。1μs/div(取り込み時間10μs)ではわずか0.06%の時間しか観測できていません。現在の代表的な製品、更新レート40万波形/秒では時間軸を20ns/div(サンプル・レート 5GS/s、レコード長 1kポイント)とした場合、図8下のように考えられ、8%程度観測できる計算になります。図8 デッドタイムの進化波形更新レートを向上させる波形更新レートを向上させるにはレコード長を最短にします。図9は標準設定のレコード長 125kポイントにて10秒間波形を蓄積した例です。一見何も問題のないパルスです。このときの波形更新レートは約100波形/秒でした。図9 一見異常信号は確認できない図10はレコード長を1/100、最短の1.25kポイントにて信号を10秒間観測した例です。複数のレベルの低い信号、幅の狭い信号が確認できます。この例では波形更新レートは約1万波形/秒が得られました。図10 異常信号が確認できる取り込みレートを最適化するメニューがある機種、時間軸設定で自動的に最適化する機種もありますが、設定を工夫することで波形更新レートを向上することも可能です。