電流プローブの負荷効果とシャント抵抗

測定対象とオシロスコープをつなぐプローブは、まさに「電気の聴診器」です。
理想のプローブは測定したいポイントの波形をそのまま、何も変えることがなくオシロスコープに導くものです。電圧プローブの場合、入力インピーダンスがどのような周波数でも無限大であれば良いのですが、プローブも電気回路である以上そうではありません。

オシロスコープに付属する減衰比10:1のパッシブ・プローブの入力インピーダンスは一般に10MΩの抵抗と並列に10pF前後の容量が加わります。プローブを挿入するということはこの抵抗と容量が回路に加わることです。そしてプローブが波形に影響を与えることを「プローブの負荷効果」とよびます。

図1に電圧プローブの負荷効果を示します。
●プローブの入力抵抗が回路の抵抗成分に対して無視できない場合は、振幅が低下
●プローブの入力容量が回路の、容量に対して無視できない場合は、立上がりが鈍化

高周波回路の測定では入力容量が問題になるため、入力容量が1pF以下になるアクティブ・プローブが使われます。
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図1 電圧プローブの負荷効果

電流プローブは図2のように測定したいポイントをクランプします。直接ケーブルを流れる電流に触れることなく測定できるため、負荷効果は無いのではないかと思いがちですが、そうではありません。

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図2 ケーブルを切断することなくクランプで電流を測定できる

電流プローブはケーブルに電流が流れることで発生する磁気を検出し、電圧に変換しています。
図3はテクトロニクスの電流プラーブ TCP0030A(120MHz 30A)のマニュアルから作成しました。
このグラフは挿入することで周波数によりどのくらいのインピーダンスが回路に入るのかを示します。

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図3 テクトロニクス TCP0030Aの挿入インピーダンス

低周波領域では1mΩと非常に低い値ですが、周波数の上昇に伴い、挿入インピーダンスは増加します。
単純な誘導負荷ではありませんが、1MHzで50mΩという値から換算すると

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相当のインダクタンスに相当します。100kHzでは16ns相当です。

ところでこのインダクタンスが回路にどのような影響を与えるか、簡単な回路で考察します。
図4の回路でスイッチをオンにすると回路を流れる電流は徐々に増え、最終的に一定値になります。つまりインダクタンス成分は電流の変化を妨げる働きをします。そしてR/Lが小さい程、電流の変化が緩くなります。
またインダクタンスLが一定ならば抵抗Rが小さい程変化が緩くなります。

これが電流プローブの負荷効果になります。

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図4 RL回路とステップ応答

これは「測る回路のインピーダンスにより負荷効果が変わる」ことを意味します。さらに言いますと「周波数帯域が変わる」ことになります。

では電流プローブの性能としてデータシートに記載されている周波数帯域はどのような条件の値でしょうか。

電流プローブの周波数帯域は図5の設定で測定されます。出力インピーダンス50Ωの信号発生器の出力を50Ωで終端、終端抵抗に流れる電流を測定します。つまり周波数帯域は「負荷インピーダンス25Ω」で決められています。

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図5 電流プローブの周波数帯域を確認する設定

周波数帯域はR/Lで効いてきますから抵抗Rが非常に小さい、例えば高速リザーブ電源の場合を考えてみます。図6は出力インピーダンスが極めて低い電源と負荷抵抗1Ωの例です。10nHは電流プローブのインダクタンス相当です。

電源電圧が10nsで立上ったにも関わらず電流はそれよりも緩やかに立上っています。電流プローブがなければ電流は電圧と同様に10nsで立上るはずです。
つまり電流プローブでは低インピーダンス回路の電流変化の評価では負荷効果が無視できないことになります。逆に回路インピーダンスの高い回路の場合はプローブの負荷効果は小さくなります。

このように回路を切断することなく、クランプするだけで便利な電流プローブにも意外な盲点があることがわかります。

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図6 低インピーダンス回路では電流プローブの負荷効果が出てくる

低インピーダンス回路ではインダクタンス、抵抗とも小さなシャント抵抗を用いるとより真値に近い測定が期待できますが、シャント抵抗も周波数特性を持ちます。

図7は簡単な等価回路で検証した例です。
ップ抵抗のインダクタンスを1nH、容量を1pFとして抵抗を0.1Ω~10kΩの変化したときの周波数特性になります。
抵抗が大きい場合は周波数の上昇に伴い、インピーダンスが低下。
抵抗が小さい場合は周波数の上昇に伴い、インピーダンスが上昇します。
一般的にシャント抵抗は小さくなるので周波数上昇による影響がないか確認する必要があります。

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図7 チップ抵抗を想定した抵抗の周波数特性

このように回路インピーダンスが低い場合の電流測定では測定が動作に与える影響を考慮して測定法を選ぶべきでしょう。