変化しない、または変化の速度がゆっくりした電圧、電流を測定するには、電圧計、電流計で測定することが可能です。デジタル式の電圧・電流計、デジタル・マルチメータの普及により、高い確度で測定できるようになりました。(ただし、デジタル・マルチメータの入力抵抗の影響を考慮しないと、期待した確度は得られないことがあります。)電圧、電流が変化する場合はオシロスコープなどの波形測定器を使いますが、波形の様子により簡単に測定できる場合もあれば、逆に容易ではない場合もあります。図1のようなあまり複雑でない信号が形を変えずに繰り返す場合は、単純なエッジ・トリガで安定した表示が得られます。図1 単純な繰り返し信号この場合にどのくらい波形を捕捉できているかを示す能力が「波形更新速度」です。例としてテクトロニクスのオシロスコープ MDO4104Cでは34万波形/秒となっています。この波形更新速度は波形レコード長が最短の時に最速になります。写真1 波形更新速度34万波形/秒のテクトロニクス MDO4104CシリーズMDO4104Cの最短レコード長は1000ポイント、また最高サンプル・レートは5GS/s(サンプル間隔 0.2ns)であることから、波形取り込みの様子は図2のようになると思われます。図2 テクトロニクス MDO4000Cシリーズの波形更新速度のイメージ取り込んでいる、見えている割合は約7%になります。時間軸を遅くすれば割合は向上しますが、波形更新速度についてはすべてのメーカーが「この時間軸設定ではXX万回」という詳しい性能は公表していないのが現状です。さて、図3のように次から次へと変化しながら発生信号を「すべて」取り込むにはどうすればよいでしょうか?図3 取り込みの困難な波形の例まず思い浮かぶ方法は、レコード長の長い計測器を使い全体をすべて取り込む方法です。図4のように記録可能時間はサンプル間隔とレコード長で決まります。このため長時間記録を実現するためには● サンプル間隔を広くする● レコード長を長くすることが必要です。波形を適切に取り込むためには、一番速い変化部分に4~5ポイントのサンプルは欲しいため、必要以上に広げることはできません。
また、最長レコード長は機器の性能で決まります。図4 連続記録可能な時間はサンプル間隔とレコード長で決まるこのためレコード長の制限がないに等しいハード・ディスク、または、より高速書き込みのできるSSDに波形データを連続的に書き込む方法が考えられます。もちろんハード・ディスク、SSDへの書き込み速度の制限があるためサンプル・レートの制限がありますが、今日では最高20MS/sまでSSDへの連続取り込みのできるレコーダが登場しています。図5は代表的なSSDへの連続波形記録のできるレコーダです。記録可能時間、最高サンプル・レートがチャンネル数により変化する点には注意しましょう。図5 SSDへの連続波形記録のできるレコーダの例重ね合わせ表示の手法サンプル・レートがレコーダより2桁高速なオシロスコープでは、残念ながらSSDへの連続記録はできません。これを解決する一つの方法が多重・無限大書き込みです。図6のようにトリガがかかる度に波形を取り込み、重ね合わせ表示を行います。波形更新速度を向上させるために、レコード長はできる限り短くします。非常に簡単な方法ですが、得られる結果は「画像データ」になります。数値データとして演算に使用することはできません。図6 重ね合わせによる波形観測連続高速取り込みの手法そこで多くの製品で採用されている方法が「波形メモリを短いセグメントに分解し、トリガが発生する度に記録する」方法です。メーカーにより呼び名は異なりますが、使い方は同じです。図7のように波形メモリが10Mポイントであれば、セグメント・メモリを1000ポイントにすると、1万個の波形を記録できます。図7 連続高速波形取り込みの手法波形取り込み後に次のトリガを受け付けできない時間があることには留意しましょう。目視で波形取り込みをストップ波形を目視確認しながら、「この波形!」で取り込みをストップする機能を搭載した製品もあります。図8のように波形メモリを短いセグメントに分ける点は同じですが、メモリをリング状に動作、ストップボタンを押すまで連続して記録を続けます。ストップボタンを押すと取り込み動作を停止、記録を手繰ることで希望の波形を確認できます。もっとも波形を取り込めない期間はありますので万全ではありませんが、使いやすい機能といえます。図8 目視で波形取り込みをストップする方法写真2はヒストリ機能と呼ばれるこの機能を搭載した製品例です。写真2 ヒストリ機能の搭載されたオシロスコープの例