高速デジタル信号の評価

アイパターン測定
ジッタを観測する方法がアイパターン測定です。
図1は別のクロック信号を持たないシリアル信号評価方法です。データを受け取ったレシーバ側にはデータよりクロック再生するクロック・リカバリがあります。ここで作られたクロック信号をトリガとして時間基準にします。これにより時間基準からの信号の時間ずれがわかります。シリアル信号を繰り返し取り込み、オシロスコープにて重ね書きを行いアイパターンを描きます。

アイパターンではすべての遷移パターン、つまり
0→0→0
0→0→1
0→1→0
0→1→1
1→0→0
1→0→1
1→1→0
1→1→1

を重ね書きすることで、最悪の状況を確認することができます。ほとんどの通信規格ではマスクが規定されており、コンプライアンステストに使われています。

image-20231212160808590.png
図1 アイパターンによるジッタの評価

ジッタはなぜ起こるのか
ジッタの発生原因はいくつかあります。
その一つにロジック・デバイスの動作があります。
図2では左側のデバイスが動作しています。デバイス内部には膨大な数のトランジスタがスイッチング動作を行っていますが、あるタイミングで多くのデバイスが同時にオン/オフを行うと消費電流が瞬時に大きく変動します。つまりdi/dtが大きくなります。

この電流は電源から供給されていますが、電源ラインには寄生抵抗、さらに問題になる寄生インダクタンスLが存在します。電流が変化することで

画像1.png
の逆起電力が発生し、ノイズになります。このノイズにより別のデバイスの電源電圧が瞬間的に変動します。電源電圧の変動はロジックの閾値(スレッショルド電圧)の変動を起こし、結果的に出力信号にジッタが発生します。
image-20231212161151886.png
図2 デバイスの動作で起こるジッタ

他にもジッタ発生原因があります。図3はランダム・ジッタと呼ばれるジッタです。ジッタの分布はガウシャン分布に近似し、原因は熱雑音と言われています。

image-20231212161230592.png
図3 ランダムジッタの分布

図4は周期性ジッタと呼ばれます。電源に周期性のノイズ、電源電圧変動がある場合に見られます。

image-20231212161254925.png
図4 周期性ジッタの分布

図5はデューティ・サイクル歪と呼ばれています。0→1→0と1→0→1の波形形状が歪んでいるためにスレッショルド電圧を切る位置が変わってしまうことが原因です。図では重ね書きになっていますが、同時にランダム・ジッタも起こっています。

image-20231212161329215.png
図5 デューティ・サイクル歪によるジッタの分布

図6はデータ依存性ジッタと呼ばれます。
伝送路の周波数特性により受信端においては信号の高調波成分が衰弱し波形になまりが生じます。そしてデータのパターンで0または1が続く場合は信号レベルが十分に変化できますが、0、1、0、1が続く場合は振幅変化が十分に伝わらず、結果としてエッジ位置がずれてしまいます。

image-20231212161405066.png
図6 データ依存性ジッタの分布

このようにして発生するジッタは原因が重ね合わさってジッタとして現れますが大きく2つに分かれます。
何らかの原因があるジッタDj (確定的ジッタ Deterministic Jitter)と主に熱雑音に起因するRj(ランダム・ジッタ Random Jitter)です。
この二つを合わせてTj(トータル・ジッタ)と呼びます。
図7のように確定的ジッタDjにランダムに変化するRjが加わった結果が実際に起こっているジッタになります。
Rj はマイナス方向にも発生するため反対方向に作用し、見かけ上ジッタが減るように見えることもあります。

image-20231212161506838.png
図7 実際のジッタは2つに分けられる

ジッタはその原因を追究し対処しなければなりませんが、そのためには観測されたジッタをDj成分とRj成分に分けなければなりません。Rj、Djを解析するためにはロングレコード可能なオシロスコープと解析アプリケーションを使います。

オシロスコープは、測定する高速シリアル信号に対応した周波数帯域のものを使用します。オシロスコープに必要な周波数の目安ですが2つの考え方があります。

データレートの5倍の周波数帯域

図9のようにデータの中で1010と同じ値が続かずに変化する部分がもっとも速く繰り返す部分です。
この周期の1/2をユニット・インターバルと呼び、その逆数がデータレートになります。つまりデータレートの1/2の周波数のパルスと考えられます。高速シリアル信号、特に受信端では高調波成分が減衰するために第5高調波まで取り込めれば十分になります。そのためデータレートの2.5倍の周波数帯域が目安になります。

image-20231212161621696.png
図9 データレートから必要になる周波数帯域を求める

ニー周波数という考え
高速シリアル信号に含まれる高周波成分は立上り時間に依存するという考え方です。
この周波数はニー周波数と呼ばれ図10の計算式で求まり、ニー周波数の1.4倍の周波数帯域が目安になります。

image-20231212161654738.png
図10 立上がり時間から必要になる周波数帯域を求める

ジッタの解析は図11のようにロングレコードを使用します。
長時間取り込まれた波形から解析アプリケーションにより、本来あるべきエッジ位置を算出、実際のエッジ位置からのずれ(タイムインターバル・エラー)を求めます。このデータを解析し、DjとRjを分離します。
さらにDiを解析することでジッタの原因を調べることができます。

image-20231212161736811.png
図11 ロングレコードによるジッタ解析の原理

image-20231212161750605.png
写真1 代表的な高速オシロスコープ