デジタル・マルチメータのオート・レンジ機能について

A. デジタル・マルチメータでは電圧・電流・抵抗の三要素を比較的高い確度で測定できます。
何を測るかで測定モードを選び、幅広い範囲を測定できるように測定レンジを変えて測定しますが、自分で測定レンジを決めるマニュアルモードだけでなく、多くの製品にはオート・レンジ機能が搭載されています。
この二つはどのように使い分ければ良いでしょうか。

測定器の入力インピーダンスに注意
デジタル・マルチメータは比較的高確度の測定器ですが、入力インピーダンスが問題を引き起こす可能性については以前にもお話しました。
図1は電圧測定のケースです。
デジタル・マルチメータの電圧測定時の入力インピーダンスは10MΩ、この値は多くの測定では十分に高いと思います。
図1上は回路インピーダンスが低いケースです。
デジタル・マルチメータの入力インピーダンスの影響はわずかです。

図1下は回路インピーダンスが高いケースです。
入力インピーダンスにより測定点の電圧が下がってしまいます。この「下がった値」をいくら確度の高い測定器で測っても確度が得られないことには注意が必要です。


図1 デジタル・マルチメータによる電圧測定

小電流測定では入力インピーダンスの影響が顕著になる
デジタル・マルチメータの電流測定では別の電流入力端子を使いますが、電流入力端子にはシャント抵抗と呼ばれる電流検出抵抗が装備されています。この抵抗は回路に直列に挿入されることになります。
この抵抗に電流を流し、発生する電圧から電流に換算しています。

シャント抵抗により発生する電圧を負担電圧と呼びます。メーカーによってはシャント抵抗値の代わりに負担電圧をデータシートに記載しています。

図2はキーサイト・テクノロジーのデジタル・マルチメータ34461Aのデータシートの抜粋です。
負担電圧から換算したシャント抵抗値を記載しました。


図2 キーサイト・テクノロジーのデジタル・マルチメータの例

なお過電流保護のため交換可能なヒューズがシャント抵抗に直列に入ります。ヒューズは約1Ωの抵抗がありますが、この抵抗分をシャント抵抗値の表記に含めていない製品もあるので、シャント抵抗値が問題になる場合は注意が必要です。

このシャント抵抗値は、メーカー間でも世代間でも大きな差はありません。


図3 世代によるシャント抵抗値(オリックス・レンテック調べ)

またハンディ型だからと言って大きいわけでもありません。


図4 各メーカー、タイプによるシャント抵抗値(オリックス・レンテック調べ)

図3、図4に着目すると電流測定レンジが切り替わるとシャント抵抗が大きく変化する場合があります。
例えば横河計測 DM7560では1mAレンジでは90Ω、10mAレンジでは5Ωです。

図5の実験で抵抗に加える電圧を変化させて流れる電流が測定レンジによってどの様に影響されるかを考えてみます。


図5 シャント抵抗の影響を調べる実験

図6において10mAレンジではデジタル・マルチメータを挿入しない理論値との差異は0.5%です。この誤差でもデジタル・マルチメータ本体の確度よりだいぶ大きいですが・・・・

1mAレンジでは1kΩの負荷抵抗に90Ωが追加されます。90Ωは1kΩに対して9%ですから影響を見逃すことはできません。


図6 電流レンジで変わる測定結果

電流が1mA付近を拡大したグラフが図7です。
電流測定レンジをオートにすると分解能が稼げるレンジが選ばれます。
電流をゼロから増やしていくと最初は最高感度の1mAレンジが選ばれます。
電流が増えて1mAを超えると電流レンジは自動的に10mAに切り替わります。
するとシャント抵抗値が90Ωから5Ωに切り替わり電流が一気に増えます。
そのため測定結果が連続的ではなく段差が生じます。

もともと1mAレンジでは分解能は稼げても絶対的な誤差は大きくなるため、この場合は初めから測定レンジをマニュアルで10mAに固定して測定すべきです。


図7 電流レンジが切り替わった瞬間の測定値の変動

このように便利なオート・レンジ機能ですが、思わぬ誤差が生じる可能性はゼロではありません。

オシロスコープのオート・セットはとりあえず波形を表
オシロスコープにはオート・セットボタンがあります。
繰り返し波形であれば、とりあえず波形は表示してくれる便利な機能ですが、特に時間軸設定については注意が必要です。

図8はオート・セットにて電圧・電流設定をおまかせして取り込んだ結果です。
時間軸は40μs/div、トリガ・ポイントに信号の集まりがあるようです。


図8 オート・セットでとりあえず波形を表示

図9で中心部を拡大してみました。
パルス列が確認できますが、サンプル・レートが十分ではないようです。


図9 オート・セットの設定のまま拡大表示

そこで時間軸を速く設定し、高速サンプリング(5GS/s)で取り込んだ結果が図10です。
パルス波形が確認できました。


図10 高速サンプリングで取り込み直した結果

レコード長をコントロールし適切なサンプル・レートと取り込み時間をマニュアルで設定すれば確度の高い測定を行えます。

オート機能は便利な機能ですが、オート実行時の各種設定を確認し、適切な設定かどうかをチェックすることが大切です。