実効値を測る方法は?

「実効値とは何ですか?」と質問すると「波形の2乗を1周期で積分して周期で割ってその平方根」と答えがあります。
もちろん正解ですが一言でいうと「平均電力が等しくなる直流に換算した値」です。
さまざまな周波数で実効値を求める方法をご紹介します。

実効値の定義
正弦波では振幅の1∕√2が実効値になります。
この理由を考えてみましょう。

図1で振幅V0の正弦波と直流電圧Vrmsに同じ負荷Rを接続した場合に、同じ電力になる条件を求めてみます。
交流の場合、振幅 V_0∕Rの電圧と同じ位相の電流が流れます。
抵抗Rで消費される電力Pは


周波数は2倍になり1周期における平均電力は


一方、直流では


両方が等しい場合


となります。


図1 正弦波の実効値
 
実効値と平均値の比率を波形率といい、波形の形で異なります。
 
デジタル・マルチメータでの交流電圧(ACV)測定
デジタル・マルチメータの基本は直流電圧測定です。
入力電圧は高い入力インピーダンスのバッファを経由して高分解能のA/D変換器で測定されます。
 
交流電圧はそのままでは測れないので直流に変換します。
 
ローコスト製品では交流を整流し平均値の直流電圧に変換、入力波形が「歪のない正弦波」であることを前提に波形率1.11をかけて「実効値」として表示します。
 
しかし商用電源は高調波電流により歪を生じていることが普通で、正確な実行値測定とはいえません。
 
そこで実効値対応の製品ではダイオードの2乗特性部分を活用して実効値検波を行います。


図2 平均値型と実効値型のデジタル・マルチメータ
 
図3はダイオードのV-I特性です。
ダイオードは一方向だけに電流を流すことで整流を行えます。
ただし入力電圧が低い領域では出力電圧は2乗特性を示します。
逆方向には電流は流れませんが、ある逆電圧をかけると急激に電流が流れます。この特性を利用したものがツェナーダイオードです。


100kHzを超えるとオシロスコープの確度(1~3%が多い)より誤差が大きくなります。
図3 ダイオードのV-I特性
 
一部のデジタル・マルチメータではA/D変換器を高速で動作させ、電圧波形から実効値を算出しています。従来のダイオード式より歪の大きな波形に対応できます。
 
デジタル・マルチメータでの交流電圧の確度
図4はキーサイト・テクノロジー 34461Aの直流電圧と交流電圧の確度の比較です。
交流/直流変換により交流電圧では直流電圧より確度が低下することが分かります。
また測定可能な周波数は3Hz~300KHz、1kHzでは±(読取り値の±0.04%+レンジの0.02%)から
1Vレンジに収まる1V弱の場合、誤差は±0.6mVになります。


図4 キーサイト・テクノロジー 34461Aの電圧確度
 
オシロスコープでの実効値測定という方法
このようにデジタル・マルチメータでの交流電圧測定は周波数による制限があります。
1MHzの実効値測定には対応できません。
 
直流から高周波まで対応できる測定器にオシロスコープがあります。
波形パラメータ測定機能には実効値算出機能があります。図5のように区分求積法により波形データより実効値を求めます。ただし実効値は1周期で正規化する必要があるので、測定メニューで1周期ないしN周期で測定するよう指定します。


図5 オシロスコープによる実効計算の原理
 
オシロスコープでの測定におけるネックが電圧確度です。
図6は横河計測 DLM3054の例ですが電圧確度は±(1.5%+オフセット電圧確度)です。
 
何と1V弱の場合、誤差は62mVになります。
低周波での確度はデジタル・マルチメータの1/100になります。
オシロスコープでは元々の電圧分解能が8~12ビット、電圧分解能よりサンプル・レートに特化したA/D変換器を使用するため致し方ありません。


図6 横河計測 DLM3054の電圧確度
 
二つ製品の確度を比べた表が図7です。
 
周波数範囲が3Hz~100kHzまではデジタル・マルチメータが圧倒的に高確度です。
逆に100kHz以上では急激に確度が劣化し、300kHzが測定上限になり、これ以上の周波数ではオシロスコープが有利になります。


ざっくりしたイメージですが確度のイメージは図8のようになります
図7 デジタル・マルチメータとオシロスコープの確度比較
 
ここで疑問があります。
オシロスコープの電圧確度はどのメーカーのどの製品もDC確度、つまり直流での確度になります。
周波数特性の平坦さはほとんどの製品で仕様には記載されていません。
確認するには出力振幅の確度がオシロスコープより優れた信号発生器を使いますが、経験上周波数帯域の1/3程度まではほぼフラットと考えて良いと思います。

ざっくりしたイメージですが確度のイメージは図8のようになります。


図8デジタル・マルチメータとオシロスコープの領分
 
デジタル・マルチメータとオシロスコープの電圧測定の比較は図9の実験で確認できます。
波形を正弦波以外の三角波やパルス波に変えて、理論値との整合性を確認すると勉強になると思います。


図9 計測器の測定領分を確認
 
なおデジタル・マルチメータの入力端子をBNCコネクタに変換するアダプタが市販されています(写真1)。
大変便利ですが、同軸ケーブル外側(シールド側)がグラウンドでない場合は感電には要注意です。


写真1