「試作品が誤動作する」、「途中で止まってしまった」・・・その原因を発見し、対策するためにオシロスコープは有効なツールになります。如何にして速く状況を確認し、原因までたどり着くのか。
ここではオシロスコープの性能を発揮させるためのテクニックをご紹介します。
異常信号を見つけるための波形モニター方法
ここでは異常波形の例として図1のような
● ロジックHighでもLowでもない、ロジック的にあってはならない中間レベルの信号
● 設計では起こらないはずの幅の狭いパルス
の2種類が低い頻度で発生する信号を考えます。
ロジック的に違反する信号はバスに二つ以上のデバイスが同時に信号を出力した場合に起こり得ます。
図1 想定した異常波形を含む信号
例えば図2のようにすべてのエッジ・タイミングで取り込めば、波形の多くをカバーでき異常波形を容易に発見できます。
デジタル・オシロスコープ登場以前のブラウン管を使ったアナログ・オシロスコープはこの動作に近いのですが、発生頻度が低い波形ではブラウン管が光らないため、実質的には見ることはできません。
(稀な例としてテクトロニクスと岩崎通信機からかつて超高輝度オシロスコープとして対応できる製品が販売されていました)
図2 理想的な波形のモニタリング
デジタル化された現代のオシロスコープは図3のようにトリガをきっかけとして波形メモリにデータを取り込み、表示します。
切れ間なく取り込み&表示ができれば理想ですが、レコード長が長い程データ処理に時間がかかり、波形を取り込めない「デッドタイム」が生じます。
図3 波形のレコード長が長い場合は取り込めない時間が長い
さて狭いパルス幅、RUNT波形が稀に発生する信号をオシロスコープで取り込んでみます。
今回は横河計測の500MHzのオシロスコープ DLM3054を使用しました。
このオシロスコープは電源オンの初期状態でのレコード長は125kポイントです。
初期状態のレコード長はオシロスコープ・メーカーの考え方に差があり、比較的短めのメーカー、比較的長めのメーカー、また同じメーカーでも製品によりレコード長が自動可変のモデルなどいろいろなタイプがあります。
横河計測の製品はある程度ズーム表示に無理がないように、やや長めの125kポイントが初期設定になります。
図4 初期状態のレコード長(125kポイント)でモニターした場合
図4は10秒間、波形を繰り返し取り込み、蓄積した例です。
一見何も起こっていない、きれいな波形です。
波形取り込み数がカウント表示されていますが、概ね波形取り込みレートは100波形/秒、更新時間は約10msです。
時間軸設定は100ns/divなので時間窓は10倍の1μsとすると図5のように波形をモニターしている時間は10ms中の1μs、0,01%に過ぎません。
このままでは発生頻度の低い信号を発見することは困難です。
図5 モニターできている時間は非常に少ない
波形更新を速くするテクニック
そこで図6のように波形メモリを1/100、最短の1.25kポイントに設定しました。
波形処理にかかる時間が大幅に短縮され、波形取り込みレートの向上が期待できます。
図6 波形のレコード長を短くすることで波形取り込みレートの向上が期待できる
図7が同じく10秒間波形をモニターした結果です。
RUNT信号、狭いパルスが発生していることが確認できました。
波形取り込み数(画面更新レート)のカウント数を確認すると毎秒約1万カウントでアップしています。
レコード長が1/100になった結果、波形取り込み数は100倍になりました。
図7 レコード長を短くして100倍の波形更新レート
写真にしにくいのですが、残光時間を最小にした状態でも異常信号を目視することができました。
さらに残光時間の調整、カラー表示の活用により観易くすることができます。
高速取込みがワンタッチでできるオシロスコープ
ワンタッチで波形取り込みレートを向上できる高速取込みモードを備えた製品もあります。
モードをオンにすると強制的にレコード長を最短に変え、波形表示を見やすくするようになっています。
図8 高速取り込みモードを持つオシロスコープ(テクトロニクス MDO4000Cシリーズ)
拡張トリガの活用
幅の狭い波形やRUNT波形が確認できたので、ピンポイントでトリガをかけるために拡張トリガを選択します。
RUNTトリガでは図9のように二つの閾値を設定し、その間に入る場合、または外れる場合を検出できます。
また持続時間を別に設定することもできます。
図9 RUNTトリガの設定
幅の狭い波形は図10のようにパルス幅トリガで捕捉できます。
図10 パルス幅トリガの設定
拡張トリガの詳細は別コラムで紹介したいと思います。