電源にのる高周波ノイズを観測したい場合は?

電源ラインにのるノイズは電源に由来するもの、負荷に由来するものの二つに分けることができます。
ロジック回路の高速化により後者が目立つようになり、回路の動作に悪影響を与えるようになりました。
ノイズの様子を把握することで動作不良の原因に対策することが可能になります。

二つのノイズ源
機器の動作不良の原因の一つに電源品質が挙げられます。
直流電源に含まれるノイズは大きく二つに分けられます。
まずは、電源自体が発生しているノイズ、これは商用電源から直流を作る際に残留する商用電源周波数に同期した100/120Hzの成分とスイッチング周波数の成分からなっています。
従来はこのノイズが主流だったのですが、負荷になるロジックデバイスの高速化、大電流化によりロジックデバイスから電源ラインに逆流する高周波ノイズが問題になっています。


図1 電源由来のノイズと負荷由来のノイズ

電源、およびグラウンドの配線、従来は直流抵抗成分(DCR)に着目されてきましたが、電流の増大、そして電流の時間変化率(di/dt)の増加により、配線の持つ寄生インダクタンスによるノイズが問題になりつつあります。



図2 消費電流の急激な変化がもたらす悪影響

電源ラインとグラウンド間にはロジックデバイスがあり、電流が流れています。
この電流はデバイスの動作により増減します。

図2のように多くのビットが同時にオン/オフすると大きな出力電流の変化が起こります。この電流は電源(Vcc)から流れ込み、グラウンドにリターン電流が流れます。
パターンの配線、グラウンド層、そしてデバイス内部のボンディングワイヤーすべてに直流抵抗DCRと寄生インダクタンスがあり、電流の急激な変化により逆起電力が生じます。
デバイスから見れば内部の動作電圧の変化による動作変化が起こります。

もちろん電源ラインにはインピーダンスを下げるためのデカップル・コンデンサがありますが万全ではありません。

デカップル・コンデンサの役割
デバイスの電源端子とグラウンド間にはデカップル・コンデンサと呼ばれるコンデンサが挿入されていますが、この役割について考えます。

一つは電流供給の役割です。電源ラインには寄生インダクタンスがあり、デバイスが急に電流を必要なときに電流供給が間に合わないことがあり得ます。
デカップル・コンデンサはこの電流を供給する役目があり、必要な容量のコンデンサを付加します。

もう一つの役割はノイズの低減です。
デバイス自らが発生するノイズ、外部からのノイズ両方へのフィルタとして動作します。


図3 デカップル・コンデンサの役割

ところでコンデンサが理論通りに動作をすれば良いのですが、実際のコンデンサは寄生インダクタンスと寄生抵抗を持ち、最も簡単な等価回路は図4のようにコンデンサ、インダクタ、抵抗が直列接続になります。


図4 コンデンサの等価回路

寄生インダクタンスはESL、寄生抵抗はESRと呼ばれます。
これらは直列共振回路になるため、特定の共振周波数を持ち、インピーダンス特性は図5のようなイメージになります。


図5 コンデンサのインピーダンス特性(イメージ図)

低周波から共振周波数近くまでは本来のコンデンサとして動作し、周波数に反比例してインピーダンスは低下します。
しかし共振周波数でマイナス・ピークを持った後は寄生インダクタンスの影響としてはコンデンサとは動作せず、周波数の上昇に比例してインピーダンスは上昇します。
図6は村田製作所のセラミック・コンデンサ(1μF、0.47μF、0.1μF)のインピーダンス特性です。
容量の低下に従って共振周波数が上昇しています。

図6 コンデンサのインピーダンス特性例

インピーダンス特性はコンデンサの容量、耐圧、種類(構造)により大きく変化します。
このため図7のように複数のコンデンサが電源ラインとグラウンド間に挿入されます。


図7 実機のインピーダンス特性(イメージ図)

これらのコンデンサは並列接続されるため、インピーダンス特性は複数の山谷を持ちます。
もちろん、電源インピーダンスは一様に低いことが望まれますが、実用的にはノイズの周波数において低ければ問題は発生しにくいと言えるでしょう。
高周波領域でのインピーダンス特性の測定には一部のネットワーク・アナライザが使用できます。

また電源回路自体のインピーダンス特性測定にはFRAが使われます。


写真1 電源インピーダンスの測定器

図8は汎用機と専用機の話でも取り上げたFRAの測定原理になります。
信号発生器により発生する試験電流を重畳し、電圧・電流よりインピーダンス特性を測定します。


図8 FRAによる電源インピーダンス測定

高周波電源ノイズをオシロスコープで測定する
デバイスの電源から発生する高周波ノイズの測定は簡単ではありません。
信号レベルが小さいこと、周波数が高いことがその理由です。
低レベル信号の測定では減衰比の無い、または小さなプローブは有利ですが、1:1のパッシブ・プローブは電気的には容量を持つシールド線になり、高周波ノイズには周波数帯域が全く足りません。


図9 1:1パッシブ・プローブによる測定

付属の10:1パッシブ・プローブでは周波数帯域は得られますが、感度が足りません。


図9 1:1パッシブ・プローブによる測定

付属の10:1パッシブ・プローブでは周波数帯域は得られますが、感度が足りません。


図11 アクティブ・プローブによる測定

表1に往年のプローブの特徴をまとめましたが、いずれにしても最適な選択肢はありません。


表1 往年のプローブと高周波電源ノイズへの対応

高周波ノイズの測定には
● 広い周波数帯域
● 高感度(1:1程度)
を両立したプローブが必須です。

このため各社から専用のパワーレーン・プローブが発売されています。
電源ノイズのレベルは低いため減衰比は小さく、周波数帯域も広い設計になっています。


表2 各社のパワーレーン・プローブ例

直流から高周波領域まで使用できるため、DCレベルの変動から高周波ノイズまで対応できます。
なお各メーカーの高速オシロスコープ専用設計になっていますので、オシロスコープとセットで使用します。
取り込んだノイズ波形をFFT解析することで、ノイズ源の推定が可能です。

簡単チェックに使えるDCブロック・プローブ
とりあえず観てみよう、という時は簡単に作れるプローブで代用できます。
直流の変化は観測できませんがノイズは問題なく観測できます。


図12 簡易な電源ノイズ観測用プローブ

この簡易プローブの使用により測定環境のノイズを大きく低減できます。
オシロスコープの入力インピーダンスを1MΩから50Ωに変更することで熱雑音が低下、さらにプローブの減衰比を10:1から1:1にすることで感度をかせげるため、図13のように同じ電圧感度でのノイズを低減できました。


図13 測定環境のノイズ

図14は電源のスイッチング・ノイズの測定例です。
黄色は10:1パッシブ・プローブ、紫は1:1簡易パワーレーン・プローブです。
簡易プローブでは直流と低周波は測定できないため、商用電源周波数由来のリップルは確認できませんが、スイッチング・ノイズは明確に確認できます。


図14 10:1パッシブ・プローブと簡易パワーレーン・プローブの比較例

簡単測定でノイズを確認できるようでしたら、電圧変動も測定できるパワーレーン・プローブの採用を検討されると良いと思います。