ノイズを測定するには?

ノイズは機器の動作にとって大敵です。そのためノイズが設計値以下になっているかどうか確認が必要です。
特に電源ノイズは安定した動作の基本になりますが、測定ミスを起こす可能性もあるので注意が必要です。
 
ノイズにはいろいろな種類があります。
思いつくままに挙げてみると

● ランダム・ノイズ
● 固定パターン・ノイズ
● 飛び込みノイズ

などがあります。


図1 いろいろなノイズ
 
熱雑音
測定器にとってノイズは大敵です。測定限度を決めてしまうからです。
ノイズが少ないことは好ましいことですが、絶対に避けられないノイズが熱雑音です。
 
抵抗Rが温度T(℉)にある時、周波数帯域では図2に示される実効値のノイズを発生します。


図2 熱雑音
 
ノイズの分布はガウス分布に近似すると言われています。
オシロスコープの場合、周波数帯域≒とすると
周波数帯域 1GHz 入力インピーダンス 50ΩではVn=28µVになります。
 
オシロスコープの入力インピーダンスを50Ωから1MΩに切り替えるとノイズレベルが増えるのはこのためです。
つまり増幅器のノイズは入力インピーダンスが低い方が有利になるわけです。
 
ところで周波数軸測定器の代表であるスペクトラム・アナライザはオシロスコープとは比較にならないほどダイナミック・レンジが広く、ノイズフロアは非常に低くなります。また分解能帯域幅を狭くするほど、ノイズが少なくなります。
オシロスコープは直流から最高周波数まで同時に取り込むため、取り込まれるノイズが大きくなります。
一方、スペクトラム・アナライザは帯域幅の狭いフィルタをスキャンして信号を取り込むため、実は非常に狭帯域の測定器です。そのためノイズが少ないのです。


図3 オシロスコープとスペクトラム・アナライザの周波数帯域の違い
 
AC/DCスイッチング電源のノイズ
商用電源から直流電圧を作るAC/DCスイッチング電源は図4のようにAC100Vを全波整流し直流電圧に変換します。この段階で100/120Hzのリップル・ノイズが発生します。
この直流電圧はスイッチングされ昇圧/降圧後に整流されます。この段階でスイッチング・ノイズがさらに加わります。


図4 AC/DCスイッチング電源の原理
 
その結果、出力には図5のように

● 直流成分
● 低周波の商用電源由来のノイズ
● 高周波のスイッチング・ノイズ

がミックスされた形になります。


図5 AC/DCスイッチング電源の出力成分
 
図6は横河計測のオシロスコープ DLM3054(周波数帯域 500MHz)を使いUSB充電器の5V出力のノイズを初期設定のまま測定した結果です。
 
初期設定での波形レコード長は125kポイント、時間軸10ms/divでのサンプル・レートは1.25MS/s(0.8µs分解能)になります。
商用電源由来の低周波ノイズは捕らえられていますが、
スパイク状のノイズのピークが捕らえられていないようです。


図6 電源オン後の初期設定で測定した電源ノイズ波形
 
サンプル・レートをコントロールする
そこで同じ10ms/divにてサンプル・レートを高めるためレコード長を50Mポイントに変更し、サンプル・レートを500MS/s(2ns時間分解能)として取り込んだ例が図7です。
スパイク状ノイズのピークも捕らえられているようです。


図7 高速サンプル・レートで取り込み直した場合

確認のためトリガ部分を50μs/divに拡大してみました。発振周波数約40kHzのスイッチング・ノイズ波形が確認できます。


図8 高速サンプルでスイッチング・ノイズを捕らえる
 
このようにサンプル・レートを適切にコントロールすることで波形全体を捕捉することができますが、やや面倒な感は否めません。
 
簡単にピークを捕捉できるピーク検出
オシロスコープには波形をデータ化する高速A/D変換器が搭載されています。
A/D変換速度は設定により変化しますが中身は常に最高サンプル・レートで動作しています。
図9は最高サンプル・レートで動作した場合です。
ノイズを含めた波形の瞬時値を最高サンプル・レートでサンプリングし、記録します。


図9 通常のサンプル・モードの動作
 
サンプル・レートを落とした場合は図10のように読み飛ばしを行い、波形メモリに記録します。
記録されないデータは使用しません。


図10 通常のサンプル・モードでサンプル・レートを落とした場合の動作
 
オーバサンプリングされたデータの利用方法の一つがピーク検出です。
ピーク検出では記録区間において最高サンプル・レートで取り込めた最大値と最小値を記録します。
メーカによりエンベロープ・モードと呼ぶ場合もあります。
このモードを使うと時間軸の設定によらず最高サンプル・レートで取り込み得るピーク値を記録でき、図11のような表示になります。
もちろんスパイク状のノイズのピーク値も捕捉できます。


図11 ピーク検出(エンベロープ)の動作原理
 
図12はDLM3054をエンベロープ・モード(他メーカで言うところのピーク検出)で取り込んだ例です。
サンプル・レート(記録レート)は1.25MS/sですがスイッチング・ノイズが取り込まれています。
 
もちろん、波形データとして演算には使用できませんが、波形パラメータ測定でピークピーク値算出は可能です。


図12 ピーク検出(エンベロープ)モードでノイズのピークを検出
 
スイッチング・ノイズを観測する際にはプロービングに要注意
図13はスイッチング・ノイズを、標準グラウンド線を付けた付属のプローブで測定した例です。
サンプル・レートは625MS/sですが鋭いノイズピークがあります。


図13 通常のグラウンド線で測定
 
ここでプローブのグラウンド線を最短に変更、サンプル・レートを2倍に高めて取り込んだ例が図14です。
サンプル・レートを高めたにもかかわらずノイズピークが半減しています。
これは図15のように測定ターゲット周辺の磁界ノイズをグラウンドが作るループにより取り込まれてしまったためです。


図14 最短のグラウンド線で測定
 
電源モジュール・メーカの方からお聞きしましたが、不適切なプロービングにより「カタログ性能よりノイズが多い」とクレームが来ることが少なくないそうです。
 
プローブがアンテナになる恐れがあることにご注意ください。


図15 グラウンド線がノイズを拾うアンテナになる