プローブの出入力比はなぜ10:1なのでしょうか?

オシロスコープに付属されるプローブは減衰比が10:1です。なぜ感度が1/10に落ちるプローブを使うのか説明します。

写真1は各社の代表的なオシロスコープと付属のプローブです。
確かに付属のプローブの減衰比は押しなべて10:1です。
オシロスコープ単体で使う時に電圧感度を10mV/div(1目盛り当たり10mV)にすれば感度はそのままですが、付属のプローブを使うと100mV/divに、感度は1/10になります。


写真1 代表的なオシロスコープと付属プローブ

なぜ10:1のプローブを使うのか?
その理由を理解するにはオシロスコープの入力端子にまで遡らねばなりません。

高周波用計測器の代表であるスペクトラム・アナライザーの入力インピーダンスは50Ωです。
50Ω系の伝送路をそのまま接続することを前提としており、つまり計測器が50Ωの負荷として扱われます。
本来50Ωの負荷が接続されているところに計測器を接続する形、または何らかの形でインピーダンス整合を取りつつ信号を分岐、取り込むことになります。


図1 50Ω系の伝送路に負荷として扱う入力インピーダンスが50Ωの計測器

高周波の測定では図2のようにパワー・スプリッタを併用して電力の測定をすることもあります。


図2 パワー・スプリッタを使っての測定

またUSBやPCIeなどの高速シリアルバスの波形評価では信号取り出しにプローブは使わずに、オシロスコープの50Ω入力を負荷としてダイレクトに受信します。


図3 オシロスコープの伝送路が負荷として波形を測定

USB2.0の最高データレートは480Mbpsです.
規格制定時の波形試験ではプローブを使い信号をピックアップしていました。その後デバイスの速度が向上したためか、試験の再現性の点からプローブを用いずにダイレクトに受信する方法に改められました。
実はプローブによるピックアップにはチャレンジがあるのです。

データレコーダやオシロスコープなどを使い回路の信号の様子を観測したり、ピックアップしたりするにはプローブを使いますが、プローブは回路の動作に影響を与えてはなりません。
しかし電子回路である限り、有限のインピーダンスを持つため回路の動作に影響を与えます。
それが「プローブの負荷効果」と呼ばれる現象です。
現実には図4のように電圧プローブには高い入力インピーダンスが必要です。また電流プローブには低いインピーダンスが必要です。

 
図4 回路にプローブを挿入するには高い入力インピーダンスが必要

世の中には単なる同軸ケーブルと電気的には同等の構造になる1:1プローブが市販されています。
図5のように通常の同軸ケーブルでは芯線とシールド部間には1mあたり約100pFの容量があります。
2mの場合は約200pF、これにオシロスコープの入力容量が加わった容量が回路に加わります。


図5 1:1プローブは負荷が重い

市販のプローブでは低容量の同軸ケーブルが使われますが、それでも図6のようにオシロスコープなどと組み合わせて100PF以上の入力容量になります。


図6 1:1プローブの実際

オシロスコープやデータレコーダは元々が電気を目で見る、回路に現れる電圧波形を観測する目的で作られ、回路への影響を減らすため筆者の知る限りほとんどが入力インピーダンスは1MΩでした。
デジタル・マルチメータでは入力抵抗はさらに高く10MΩが一般です。
また入力回路の寄生(浮遊)容量、昔は50pF程度ありました。
これに接続ケーブルの容量も加わるために、容量を減らすべく10:1プローブが考えられたと思います。

10:1のプローブでは感度は1/10になりますが、入力抵抗は10倍に、入力容量は約1/10になるように考えられた回路です。

図7のようにプローブ先端に9MΩの抵抗を設け、直流的に10:1の減衰比を実現します。
さらに広い周波数範囲で10:1の減衰比を実現するためにこの9MΩの抵抗に並列に容量を加えます。
CpxRp=C2xRinを満たすと周波数特性が平坦になります。
この例では
Cp=(C2xRin)/Rp≒11pF
Cpは他の容量成分に直列に入るため、入力容量はCp以下に低減します。
これにより入力抵抗は10MΩ、入力容量は約10pFが実現します。
現物のプローブでは反射を抑えるために同軸ケーブルに抵抗線を用い、また高周波領域での補正回路が加わります。

オシロスコープの入力容量にはバラツキがあるために
Cp=(C2xRin)/Rp
を実現するための調整用半固定コンデンサがあります。


図7 10:1プローブの原理

図8は横河計測のオシロスコープでの補正補法ですが、他のメーカーの製品でも同様です。


図8 プローブの補正方法

補正には調整用ドライバを使います。付属のドライバを使う場合もあります。
またテクトロニクスの最近のオシロスコープではメニューから電子的に補正作業を行います。

減衰比10:1の別の理由
もちろんプローブには測定する電圧範囲を広げる目的もあります。
オシロスコープの入力感度が1目盛り当たり1mV~10Vの場合、高電圧を測ることはできません。
図9は電圧軸1目盛り当たりの感度がプローブによりどのように変化するかを表したものです。


図9 広い電圧範囲に対応する各種のプローブ

10:1のプローブでは10mV~100Vに、電源などの高電圧測定で10:1プローブでも耐圧が足りない場合は100:1、さらに放電現象観測などでは1000:1のプローブも使われます。

プローブは各メーカー専用に作られていることもありますが、一般的なBNCコネクタ、リードアウト機能で汎用的にどのメーカーのオシロスコープでも使える製品もあります。
図10はテクトロニクスの高電圧プローブですが、100:1のP5100A、1000:1のP6015Aは多くのオシロスコープと組み合わせることができます。
ただし一点、補正範囲の確認は必要です。
10:1のプローブ同様にオシロスコープのプローブ補正用信号(CAL信号 1kHzの方形波)を使い補正をかけますが、組み合わせるオシロスコープの入力容量が決められた範囲内でないと補正ができません。
この点だけは注意が必要です。


図10 テクトロニクスの高電圧プローブ
 
また図10の負荷の項目を見ると10:1のプローブが10MΩ、並列に10pF程度ですが、減衰比の大きい高電圧プローブの入力抵抗はより大きく、入力容量はより小さくなっています。
特に100:1のプローブは数V程度の信号でも十分な振幅表示を得られますので、入力インピーダンス、特に入力抵抗値が問題になる場合には使用を検討する価値はあります。