計測器の電源ケーブルのプラグが3ピンの理由は?

家電製品の電源ケーブルのプラグは2ピンですが、電子計測器や医療器などの工業製品は3ピンです。
違いは何でしょうか。
 
計測器などの業務用機器や医療機器を使うようになると、家電製品と電源プラグが異なることに気が付きます。
家電製品は2ピン、業務用機器は3ピンで真ん中のピンはグラウンドです。


図1 アメリカの壁コンセントと日本の壁コンセント

アメリカのコンセントは図1の左の形で、日本の2ピンンの電源プラグもそのまま差し込めます。
このコンセント、アメリカ、日本どちらも差し込み部分の長さが少し違います。
短い方がホット、長い方がコールドと言い接続は図2のようになります。
アメリカの商用電源、電力会社のトランスの2次側はグラウンドには接続されていません。そして別に接地線(グラウンド)が配線されています。
日本の商用電源はトランスの中点が設置されています。そして一般家庭では一部を除いて接地線はコンセントまで来ていません。


図2 商用電源のグラウンドの違い

もう少し詳しく屋内配線の様子を見てみましょう。
接地線の来ている洗濯機置き場のコンセントを使って電圧を測ってみました。


図3 電源極性の確認

電源極性の実測値はこのようになりました。
ホット-コールド間        102.8V
グラウンド-コールド間   0.427V
グラウンド-ホット間 103.1V

図4の上側が事業所、実験室の配線の様子、下側が家庭の配線の様子です。
上側では3ピンのコンセントが使われ、接続した機器のアースが自動的に取れます。
一方下側では1箇所、洗濯機置き場を除きアースは取れません。


図4 日本の100Vと200V

電子計測器などでは図5のようにノイズ対策としてAC入力部にはフィルタが内蔵されたインレットを使用しています。
このフィルタはコモンモード・チョークとコンデンサで構成されています。ホット-コールド間には直列のコンデンサがあり、その中点はシャーシに接続されます。
そのままではこの中点にコンデンサの電圧分割によりAC100Vの半分が発生しますが、シャーシは接続ケーブルのグラウンド線により接地されるのでシャーシ電位はグラウンド電位になります。


図5 計測器などで使われる電源フィルタ

ところが3ピン-2ピン変換アダプタを使ってコンセントに接続するとこの電圧は逃げようがなくなります。
本来はこのアダプタ、図6のように緑色の線(グラウンド)を別に接地しなければいけないのですが、残念ながらそのような使用例は見たことがありません。


図6 正しい3ピン/2ピンアダプタの使い方

もっとも2ピンコンセントの周辺に接地線はないので当然でしょう。

一見問題なく動作しますが、複数の機器を接続するとなると話は違ってきます。
図7は二つの機器を3ピン-2ピン変換アダプタを使用した例です。
二つのプラグを同じ向きに接続していれば両方のシャーシにAC電圧が発生していてもそれらの電位差はありません。
しかし何らかの原因のより片方のプラグが逆接続されると、シャーシ間には100Vの電圧が発生することになります。


図7 グラウンドを浮かせて逆相接続

家電製品などはもともと2ピンの電源で設計されています。この場合も図8のように浮遊容量によりシャーシ(グラウンド)に電位が発生します。


図8 電源フィルタのない機器でも発生するグラウンド電位

最近多用されるスイッチング電源では電圧が低めになりますが、ACアダプタ動作のノートPCでコンセントの向きを変えて確認すると図9のようになりました。


図9 電気製品のシャーシ電位の測定例

この電圧はデジタル・マルチメータを使って測ることもできます。デジタル・マルチメータの入力インピーダンスの影響で正確な値ではないでしょうが、それでも数10Vは確認できます。
流れる電流は小さいため人体が感電することはありませんが、半導体デバイスやアクティブ・プローブを破壊するには充分なパワーがあります。

念のためプローブのグラウンドを先に接続する癖をつけましょう。先にグラウンドを接続することでシャーシ間の電位差をゼロにできます。


図10 アクティブ・プローブの破損を回避する接続順番

プローブではなく同軸ケーブルの機器間接続の場合、ほとんどはBNCコネクタなどのグラウンド側が先に接触し、大事には至らないのですが、極稀にホット側のピンが先に接触する可能性があります。
事実、時折ジェネレータの出力ドライバが壊れる事例があります。

安全上はすべての機器を接地し、シャーシ電位をゼロにすれば良いのですが、図11のようにグラウンド・ループが形成されます。
これにより微小電圧の測定では発生するノイズが問題になります。
このノイズ発生を抑えるためにあえてグラウンドを浮かせる使い方がないわけではありません。


図11 グラウンド・ループによるノイズの発生

グラウンド・ループをカットするために絶縁トランスを併用する方法があります。これには電源側から流入する雑音をカットする効果も期待できます。


サイン波を発生できる電源が市販されていますので、それを使いましょう。
図12 絶縁トランスの使用
 
完璧を目指すには測定器側を完全に電源から浮かすことです。
ハンディ型などのバッテリー駆動の測定器があれば完全に浮かすことができますが、商用電源駆動の場合はバッテリーで駆動するインバータ電源が使えます。
もっとも民生用のキャンプなどで使う電源は発振波形がパルスなので多くのノイズを含んでいるので使えません。


図13 バッテリー駆動の電源の使用