商用電源を測定する

商用電源は必ずしも安定して供給されているわけではありません。緩やかな変動、瞬間の変動が起こり得ます。

また負荷になる機器が電源を汚すという事実があります。

ここでは商用電源の測定について解説します。

 

商用電源電圧波形を安全に測定する

 

商用電源における異常波形としては図1のように停電、瞬停、電圧降下、ノイズなどがあります。

一部のオシロスコープ、レコーダでは波形比較機能を持っています。

これらの異常波形はオシロスコープ内部でテンプレートを作り比較することで異常波形を取り込むことができます。

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図1 商用電源の異常波形をトリガする

波形をピックアップするためにはプローブを使いますが、一般のオシロスコープと付属のプローブをそのまま使うことは危険です。

オシロスコープのグラウンド、これはプローブのグラウンドにつながっていますが、電源ケーブル経由で大地に接地されます。

そのため1/2の確率でグラウンド線が商用電源のホット側に接続され、ショートになります。

おそらくブレーカが落ちる事態になるはずです。

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図2 一般のオシロスコープ&付属プローブでは商用電源の測定は危険

そのため図3のように入力が絶縁されているレコーダを使用するか、オシロスコープを使う場合は高電圧差動プローブを使うことをお勧めします。

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図3 絶縁入力の測定器なら安全に測定できる 

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図4 代表的なレコーダ

今回は簡易測定として、プローブを2本使う疑似差動で商用電源の波形を観測しました。

図5のように2つのチャンネルの感度を同じに設定、グラウンドを基準にホットとコールドの波形を取り込み、オシロスコープ内部の演算で引き算をします。

今回の実験ではPCベースのUSBオシロスコープを使用、念のためバッテリ動作のノートPCを使用しました。

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図5

家庭でも水周りには大地グラウンドが設置されています。念のためデジタル・マルチメータを使いホット、コールドの配線を確認しました。差し込みの長い方がコールド、短い方がホットです。

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図6 疑似差動で商用電源の波形を測定

図7が測定結果です。コールド側はほぼゼロ、ホット側は振幅144.5Vです。

そして波形のトップ、ボトム部分は多少歪んでいます。

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図7 商用電源の波形を測定した結果

負荷が電球、ヒーター等の抵抗負荷と見なせる場合、電流波形は電圧波形と同じく正弦波になり歪は発生しません。

しかし電気製品のほとんどは単純な抵抗負荷ではありません。

 

簡単なブリッジ整流回路の動作をLTSpiceでシミュレートしてみました。

負荷電流が0.1A、0.5Aと変化する回路の電流です。コンデンサの充電期間のみ入力電流(紫色)は流れます。図8から分かるように非常に複雑な電流波形になります。

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図8 電源を流れる電流を考える

このように電圧のピーク付近のみ電流が流れることがわかります。

電源の配線には抵抗成分とインダクタンス成分があります。

このため電圧のピーク部分で電圧降下が発生し、図9のように電圧波形のピークが低下します。

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図9 商用電源波形の歪と電源高調波電流の発生の仕組み

電流波形は大きく歪んでいるために多くの高次高調波を含んでいます。

高調波により位相が反転することで電源側に逆流する成分もあり、この電流が問題を引き起こすことがあります。

工場やビル等の受電設備には力率改善の装置が設けられていますが、高調電流により発熱し、火災を引き起こすことがあります。

このため高調波電流については規制があります。

詳しくは高調波電流規制 EN61000-3-2をご参照ください。

 

高調波電流を測定するためには図10のように一旦交流電源にて歪の無いクリアな電源を用意します。

屋内配線によるインピーダンスに相当するインピーダンス・ネットワーク経由で被試験物に電源を供給します。

流れる電流を高調波アナライザで検出、FFT処理により高調波電流を求めます。

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図10 高調波電流測定装置

図11が代表的な装置になります。

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図11 代表的な試験装置