いろいろな波形の実効値を測る

交流の電圧表示にはいろいろありますが、一般的な表示が実効値といえるでしょう。
実効値は以下の式で求まります。
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このように考えると分かり易いかもしれません。「抵抗に加えた場合に同じ電力消費になる電圧」 これが実効値です。
図1のように抵抗Rに交流電圧 V=V0Sinωt 加えると電力の平均値Pavは
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になります。
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図1 サイン波の実効値

一方、抵抗Rに直流電圧 Vrmsを加えた場合の電力Pは
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です。ここで図2のようにPav=Pとするとよく目にする式が求まります。
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これはもちろん歪みの無い正弦波でのみ通用する考えで、歪のある場合には振幅から実効値を計算することはできません。
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図2 実効値の求め方

デジタル・マルチメータによる交流電圧測定
交流の電圧の測定にはデジタル・テスター、デジタル・マルチが使われますが、その動作原理は同じです。
キーデバイスは電圧分解能の高い(ビット数の多い)A/D変換器です。
そのままでは交流電圧に対応できませんから直流に変換して測定しますが、その際に「平均値」、または「実効値」に変換されます。
もちろん実効値変換では波形歪に関係なく測定できます。
一般的に安価なハンディ型テスターは平均値型、上位ハンディ型、ベンチトップ型デジタル・マルチメータは実効値型が採用されています。

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図3 デジタル・テスター、デジタル・マルチメータによる交流電圧測定

測定可能な周波数範囲もベンチトップ型デジタル・マルチメータが高性能ですが、上限は数100kHzの製品がほとんどです。

オシロスコープによる交流電圧測定
より高い周波数の電圧測定ではオシロスコープの応用が考えられます。オシロスコープで使われるA/D変換器はデジタル・マルチメータのそれとは異なり、変換速度重視で電圧分解能は高くありません。多くは8ビット分解能、最近では12ビット分解能の製品も増えてきましたが、デジタル・マルチメータの分解能には及びません。
しかし変換速度は圧倒的に速いため、交流電圧を波形として扱い、演算で実効値を求めることができます。

図4はオシロスコープによる交流電圧測定流れです
波形データは離散データですから演算(波形パラメータ演算機能)で実行値が得られます。その際は波形の1周期、ないし複数周期間で演算できるように設定します。

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図4 オシロスコープによる実効値計算

デジタル・マルチメータとオシロスコープによる交流電圧測定の違いは表1になります。
測定確度はデジタル・マルチメータが優れていますが、測定可能な条件に制限があります。
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表1 デジタル・マルチメータとオシロスコープによる交流電圧測定の比較

表2は代表的なデジタル・マルチメータ、キーサイト・テクノロジーの34465Aにおける交流電圧測定確度です。

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表2 交流電圧確度(34465Aのデータシートより抜粋)

デジタル・マルチメータの使い分けを実験で確認
ここでは34465Aの下位機種、34460A同等製品を使い以下の実験を行いました。
確度は表3になります。

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表3 比較実験にしたデジタル・マルチメータの確度

ファンクション・ジェネレータより周波数を変化させながら実行値1Vの交流電圧を発生、デジタル・マルチメータとオシロスコープで実効値を測定、結果を比較します。

使用したオシロスコープは周波数帯域350MHz、電圧分解能は8ビットです。
信号に直流成分が含まれるとオシロスコープはその分も含めて計算しますので、オシロスコープの入力カップルはACにて直流成分を取り除きます。
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図5 比較実験の設定

図6が測定結果です。
300kHzまでの測定可能周波数の範囲では予想通り、デジタル・マルチメータが優れていますが、測定上限を超えると大きく劣化します。
オシロスコープでは全体的に確度は劣りますが、広い周波数で測定が可能です。
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図6 実効値測定結果

周波数帯域が数GHz以上の高速オシロスコープを除くと、オシロスコープの周波数特性はガウシャン特性に近似することが知られています。
図7はガウシャン特性で描いた周波数帯域100MHzの特性図です。
概ね周波数帯域の数分の1まではほぼフラットな特性になります。
この範囲であれば電圧測定が可能と考えられます。
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図7 周波数帯域100MHzの場合の周波数特性

パルスでの実効値測定
パルス波形の実効値を測定してみます。図8はデューティ比20%、周波数1kHzの場合です。デジタル・マルチメータとオシロスコープでの測定結果に大きな差はありません。

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図8 周波数1kHz デューティ比20%のパルス波形の実効値測定

周波数を100kHzにした場合の結果が図9になります。
周波数100kHzは300kHzというデジタル・マルチメータの測定可能範囲ですが、多くの高調波成分が含まれるために測定結果が劣化しています。

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図9 周波数100kHz デューティ比20%のパルス波形の実効値測定

このように複雑な波形の測定でもオシロスコープが便利に使用できます。ワイヤレス給電における電圧測定などでの応用が可能です。