オシロスコープ、トリガ・モードの使い分け

オシロスコープの操作で分かりにくいのはトリガではないでしょうか。何となく波形を止めている方が少なくないかもしれません。ここではトリガの中でも分かりにくいトリガ・モードの使い分けについて解説します。
最近のオシロスコープは画面タッチ・メニューが多くなり、プッシュ・スイッチは大きく減る傾向です。また、ハードウエアもワンチップ化され構造が分かりにくくなっていますが、信号の流れは図1のようになります。
入力信号を増幅、量子化し記録するブロックはチャンネルの数だけ搭載されています。トリガタイプの基本であるエッジ・トリガは次のプロセスで動作します。

● トリガで使用する信号増幅器より分岐され 、トリガ・ソース選択メニューにより選択
● 必要に応じてフィルタ回路により不要なノイズを除去
● 設定されたトリガ・レベル、トリガ・スロープによりトリガを発生、波形取り込みをコントロール

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図1 トリガ信号の流れ

基本のエッジ・トリガは図2のようにトリガ・レベルとスロープの設定のみで決まります。トリガ・レベルつまみで設定された直流電圧(トリガレベル、閾値)を上に横切るか、下に横切るかです。

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図2 エッジ・トリガの定義

図3は横河計測のDLM3000シリーズでのエッジ・トリガの様子です。トリガ・レベルつまみで閾値電圧を設定、メニューでスロープを設定します。

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図3 エッジ・トリガの操作例

トリガ・モードの使い分け
オシロスコープは電源を立上げた時、トリガ・モードはデフォルトでオートになります。
オート・トリガは図4のようにトリガ、波形取り込み後、ホールドオフ期間後にタイムアウト時間内にトリガが検出されれば、安定して波形を表示し続けることができます。

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図4 トリガ・モード オートの動作

しかし、タイムアウト時間内にトリガが検出されない場合は図5のように無条件に波形を取り込みます。この「無信号を取り込む」機能がないと、グラウンド・レベルを確認できません。そのためデフォルトではトリガ・モードはオートになります。

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図5 トリガ・モード オートが不安定になる場合

図6のようにバースト状波形の場合、安定してトリガがかかりません。

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図6 間欠的に発生するバースト信号では安定したトリガが得にくい

トリガ・ホールドオフ時間を調整する
バースト信号など安定したトリガの得にくい信号では、トリガ・ホールドオフ時間の調整が有効です。図7のように無信号時間に対応したホールド時間を調整します。ホールドオフ時間はトリガ動作を行わず、安定した表示が可能です。

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図7 トリガ・ホールドオフの活用

トリガ・イベントが発生した時だけ確実に取り込むノーマル・モード
バーストの周期が安定している場合にはホールドオフ時間の調整が有効です。しかし、図8のように不連続的に発生するバーストではホールドオフ時間を超える周期には対応できません。

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図8 万能ではないトリガ・ホールドオフ

トリガ・モード ノーマルでは図9のようにトリガが発生したときのみ、波形を取り込みます。ただし無信号時は波形取り込みを行わないため、グラウンド・レベルの取り込みはできません。信号が来ていても、トリガの設定が不適切な時は、画面は止まったままになります。
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図9 トリガ検出時のみ波形を取り込むノーマル・モード 

トリガ・モード ノーマルが有効に使える拡張トリガ
オシロスコープにはさまざまな拡張トリガが搭載されています。これらを有効利用することによりピンポイントで波形を取り込むことができます。
図10のバースト信号を逆さに見ると無信号時は幅の広いマイナス・パルスと考えることができます。

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図10 無信号期間をマイナスのパルスとみなす

拡張トリガにはパルス幅トリガがあります。そこで「最短のマイナス・パルス幅より広いパルス」をトリガと考えることができます。
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図11 パルス幅トリガの応用例

もちろん逆に幅の狭いパルスを検出することもできます。図12は50nsより幅の狭いプラスのパルスを検出した例です。この場合のトリガ・モードはもちろん、ノーマルを選択します。

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図12 パルス幅トリガで幅の狭いパルスを検出

最近のオシロスコープにはI2C、SPI、CAN等のシリアルバスに対応したトリガ&デコード機能を追加できます。例えばデータIDでトリガをかける場合、そのイベントの発生頻度は高くないといえるでしょう。この場合もトリガ・モードはノーマルまたは1回のみ取り込むシングルを選びます。

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図13 シリアル信号でトリガをかけることでデバッグ効率を上げることが可能