取り込みたい信号を捕えるために、トリガ機能には基本のエッジ・トリガ以外にも拡張トリガとしてさまざまなトリガが用意されています。 ・ 任意のパルス幅を見つけるパルス幅トリガ ・ ロジック・ハイでもロジック・ローでもない論理エラー信号を見つけるラント・トリガ ・ 信号の停止を見つけるタイムアウト・トリガ ・ シリアルバスのアドレス、データ、エラーを見つけるシリアルバス・トリガなどです。便利なトリガ機能ですが、トリガだけでは目的の信号を捕らえることが容易ではない場合があります。図1はCH1の信号に対する反応が遅れてCH2に入力されるケースです。例えば超音波センサーの反射信号、レーダーの反射信号などです。CH1とCH2、両方を確実に取り込む場合、次の二つのポイントをクリアしなければなりません。● 信号に対して過不足のないサンプル・レートの確保● 時間遅れをカバーできるレコード長図1の例では100MHzの信号に対してサンプル・レートが500MS/s~1GS/s必要です。また、1GS/sの場合、取り込み時間1秒を実現するためには1Gポイントのレコード長が必要になります。使用するオシロスコープの最大レコード長が10Mポイントの場合、記録時間1秒を実現するにはサンプル・レートは10MS/sまで低下し、100MHzの信号を取り込むことはできません。図1 時間的に離れた信号を取り込むこのように高速サンプリングが可能かつ長大なレコード長のオシロスコープは一般には入手できません。しかし、● CH1の信号は別に測定すればよい● 遅れ時間は概ねわかっている上記二点を踏まえれば、時間遅延の概念を使って解決できます。図2のようにトリガを検出しても直ちに取り込み動作に入らず、指定した時間後に取り込みに入ります。図2 時間遅延の概念時間遅延と呼ばれるモードでは、高速サンプリングと短いレコード長により必要なポイントだけ取り込むことができます。しかし時間遅延は遅延時間を指定する必要があるために、遅延時間が一定でない場合は使えません。その場合、別にトリガをかける方法があります。Bトリガと呼ばれるAトリガとは別のハードウエア・トリガの活用です。写真1は横河計測のオシロスコープ DLM3000シリーズです。Bトリガのボタンがあります。写真1 横河計測のオシロスコープ DLM3000シリーズのBトリガ設定ボタンBトリガは図3のように基本的にはAトリガと同じです。ただし一部の機種を除き、拡張トリガ機能はサポートしていません。図3オシロスコープのトリガの構造イメージBトリガの有効活用例として映像信号の取り込みがあります。映像信号はアナログ動画の時代から変わらず、左上がスタートポイントになりV(バーチカル)シンクと呼ばれるパルスがあります。図4のフレーム信号に相当します。図4 映像信号を取り込むためのトリガ活用
タイミングは図5のようになります。フレーム信号を確認し、その後のライン数を数えれば特定のラインだけに注目できます。図5 映像信号のタイミング画像データは膨大な量になり、1フレームのデータすべてを取り込むことは容易ではありません。むしろ特定のポイントだけ狙い撃ち、例えば画像データで気になるポイントだけを取り込む方が目的にかなうこともあります。図6 はロング・レコードを使用した特定パルスの取り込み例です。目的とする信号はCH2のN個目のパルスです。時間的にはいつ来るかは不定です。図6 いつ来るか分からないN個目のパルスをトリガにするそこで、図7のように、● AトリガをCH1の立ち上がり● BトリガをCH2の立ち上がりと設定し、Bトリガの数を数え、N個目をトリガとします。すると時間には一切関係なく、Bトリガの数、Bトリガのイベント数だけ遅延をかけられます。これがイベント遅延で、A/B両トリガを活用します。図7 A/Bトリガの設定図8は20個目のパルス検出の例です。画面中央がトリガになり、さらに時間軸を拡大すれば目的とする20個目のパルスの詳細を観測できます。Bトリガはほかに回転センサー、クリックダイヤルなどの信号の取り込みにも活用できる便利な機能です。図8 横河計測 DLM3000シリーズにおけるイベント遅延