オシロスコープ&プローブの入力範囲とオーバードライブの問題 その2

オシロスコープはほとんどの場合、プローブを併用します。

内部に増幅器を持つアクティブ・プローブでは、オシロスコープの増幅器と同じく入力レンジの制限によるオーバードライブの問題が起こり得ます。

ここではテクトロニクスの高電圧差動プローブ、THDP0200を例に入力レンジについて考察しますが、同等製品も同様に考えられます。

THDP0200は減衰比が50×(50:1)、500×(500:1)切り替えが可能、スイッチング電源、インバータに使われるスイッチング回路の動作解析、出力波形の測定などに使用されます。

表1はTHDP0200の入力レンジに関連する性能です。

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表1 テクトロニクス THDP0200の入力制限 (THDP0200のデータシートより作成)

 

図1のようにオシロスコープと組み合わせた場合の入力レンジを考えてみます。

例えば1,000Vの電圧は減衰比500×(500:1)にて2Vに減衰されオシロスコープに入力されます。

 

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図1 高電圧差動プローブをオシロスコープと組み合わせた場合

ここで図2のようにBottom 1V、Top 600Vのパルスを観測することを考えます。

150Vを超えているため減衰比は500×を選択します。

この場合、最高差動電圧以内に収まるため、プローブ内部では歪は発生しません。

電圧感度設定は100V/div、オシロスコープの分解能は8ビット、1目盛り当たりの分解能を25LSBとすると1LSBあたりの電圧分解能は

100V÷25=4V

になります。

Bottomの電圧1Vを測定するには電圧分解能は全く足りません。

12ビット分解能のオシロスコープを使用すると4ビット分、16倍の分解能が得られるため、電圧分解能は0.25Vが得られますが、1Vの測定には十分とはいえないでしょう。

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図2 信号全体は歪みなく測定できるがBottom部分は分解能が不足

 

ではBottom部分の測定に特化して減衰比を50×(50:1)に変更するとどうなるでしょう。

電圧分解能は10倍の0.4Vが得られます。

オシロスコープのオーバードライブによる悪影響が発生しない程度にオシロスコープの電圧感度を上げればさらに電圧分解能を高めることができます。

ところが、プローブに着目すると図3のようにオーバードライブが起きていることが分かります。

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図3 過入力により歪が発生

表1に「過負荷入力回復時間」という項目がありますが、これが「オーバードライブ・リカバリ・タイム」です。

「5倍のオーバードライブ後に最終値の10%までに20ns以下」

とあります。

このケースではオーバードライブは5倍以内なのでこの条件に当てはまります。

このオーバードライブの問題を根本的に解決するには「過入力を起こさない」ことにつきます。

過入力を防ぐ方法の一つとして、富士電機株式会社のIGBTの測定法に記載されている手法をご紹介します。

図4はIGBTのVceを高電圧差動プローブで測定する方法です。

コレクタ-エミッタ間に抵抗、ダイオード、ツェナーダイオードを挿入します。

コレクタ電圧が高い場合はダイオード、ツェナーダイオードがオンになりプローブ入力電圧はダイオードのオン電圧(約0.7V)+ツェナーダイオードのオン電圧に抑えられます。

これによりプローブへの過入力は防止できます。

 

コレクタ電圧が低くツェナーダイオードの電圧以下の場合、ダイオードとツェナーダイオードはオフになり、プローブには抵抗Rとプローブの入力抵抗(THDP0200では10MΩ)で分割された電圧が入力されます。

このようにしてBottom部分に特化することで正確に測定できるようになります。

もちろん応答速度の速いダイオードを使用する必要があります。

 

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図4 オーバードライブを起こさないための工夫 (富士電機株式会社の資料より作成)